和党山の和菓子屋さん
若福清
第1話 力の岩
もうすぐ、夏がやって来ようとしている
5月下旬。
幸壱が登山を始めたのは今年の2月。
彼女である
そして今日は初めてのソロ登山に挑戦しているのだ。
※
何事もなく頂上にたどり着いた幸壱は屋根のあるベンチに座って
長い間、ずっと座って読んでいたので幸壱は体に
「う~ん。自然の中でのんびりと小説を読む。贅沢な時間だな~ぁ。」
そう呟いた幸壱はそのまま景色が見える所まで歩いて行く。
「さすがにもう桜はほとんど
そう幸壱は少し残念そうな声を出す。
そんな幸壱の心に先月、登華と一緒に見た朝日に照らされた綺麗な桃色の世界が
{これが私のこの町で1番好きな景色だよ。}
登華の言葉を思い出して幸壱は軽く微笑む。
「…来年もまた…一緒に見ような…登華。」
そう幸壱は独り小さく呟くのであった。
※
「まだ、14時前か。
さて、これからどうするかな?
読書に戻ってもいいが、どうせならまだ行った事ない場所を散歩してみるか。
ここ結構広いもんなぁ。」
そう決めた幸壱は散歩を始める。
数十分後。幸壱の目に大事そうに縄に守られた“少し大きな岩”が
「なんだ?この岩。」
そう幸壱は首を傾げる。
そんな幸壱の背後から誰かが声をかける。
「“力の岩”ですよ。」
その声に幸壱が振り返るとそこに居たのは1人の見知らぬ女性だった。
「どちら様ですか?」
そう幸壱は尋ねる。
「あぁ、すいません。
私、
そう女性は名乗る。
「これはこれはどうも。
山下幸壱です。」
そう言って幸壱は軽く頭を下げる。
「で?力の岩ってなんですか?」
そう幸壱は改めて質問する。
「この国の山には神様が眠っていると言われている山が5個あるんですよ。
そして、その神様達から力を与えられた山が何個も存在する。
この上竜山もその山の1つなんです。
そして、その力が
そう静香は優しい声で説明する。
「ほへぇ。それは凄い。
でも、そんな凄い岩をこんな誰でも触ろうと思えば触れるような場所に置いてていいんですか?」
そう幸壱は尋ねる。
「大丈夫ですよ。試しに岩に触ろうとしてみてください。」
そう静香に言われて幸壱は岩を触ろうと体を伸ばす。だが、何か見えない壁のようなものに
「うわぁ。なんだこの感触は?!」
そう驚いた幸壱は岩から身を離す。
「ね?大丈夫でしょ?」
そう静香が笑顔で言う。
そんな静香にゆっくりと目線を向けると幸壱は「そうでございますね」と力のない声で答える。
※
時刻は15時。幸壱はそろそろ帰ろうと下山コースに向かう。
「へぇ。下山コースも色々あるんだなぁ。」
そう幸壱は案内看板を見て呟く。
「よし。今日はいつもとは違うコースで降りてみるか。」
そう決めると幸壱はいつも登華と降りているコースとは違うコースへ足を進める。
数十分後。幸壱は駐車場にたどり着く。
「こんな上の方にも駐車場あったんだ。
ここから登ったら、頂上まですぐだったんじゃないか?なのに何で登華は最初の登山の時、わざわざ1番下から登らせたんだ?そのせいでオレは死にそうになりながら登るはめになったんだぞ?」
そんな愚痴が幸壱の口からこぼれる。
だが、こんな事を言っても意味がないとすぐに気がつく。
「…まぁ、今は道中も楽しんでるからいいか。」
そう言って幸壱は自分の車がある、1番下の駐車場まで降りて行く。
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