◆◆◆ 手繰り寄せた奇跡
◇
真夜中。
紫恩は、
キリスといっしょに、
森の皇国神殿へ来た。
彼の、
瑠璃色だった髪は、銀髪に。
濃紫の瞳は、アメジストに変わった。
背筋は、
伸びたかもしれない。
時々、メッキの顔はするかもしれない。
ようやく二人の帳尻が、
ぴったりと、合おうとしているのだ。
◇
ここはシマシマエナガンの白竜、
もとい鳥の、
シオルと体操をしていたところだ。
少女になったポーラに、
森の皇国神殿は贈り物をくれた。
それは、
エルザや老巫女さんはじめ、島の総意だった。
彼女は、
元皇国神殿の白竜で巫女だ。
四身合体を引き受け、
罪人となった船団の竜騎士一体のみならず、
闇の竜二体までも受け入れ、
見事にメタモルフォーゼの回廊を抜け、
救いをもたらせた、
ポーラレアスター。
伝説の巫女なのだ。
以前は望遠鏡が来た。
今回は―
鐘の下に、
大きな、
まあるい竜寝床(アルコーブ)。
ドーム状の、
ソファテラス席が出来ていた。
ポーラは紫恩に、
鍵を貸してくれていた。
契約主じゃなく、
友人としてだ。
紫恩とキリスは、
鍵を開け、
ソファに座り星月夜を眺めた。
◇
二人は、
白衣姿だ。
胸には聴診器。
夜勤だった。
つい先程まで、
丘の竜医院に居て、
大きな手術を終えて、
ここに戻ってきたのだ。
一段落した、わずかな休憩時間。
二人共、またすぐに医院に戻る予定だ。
◇
あの、
ちび白竜。
彼は、
長生きできる身体ではなかったのだ。
しかし、
シリウスが延命し、
アトラスはその鼓動を動かし、
紫恩が外科手術を行った。
ポーラが看護をした。
ちび竜仲間が手紙を送った。
もちろん普通の人とは違う。
しかし、
彼の心臓は、再び脈打ったのだ。
彼は生きているのだ!!
◇
外来で、
弱っていく白竜をただ、
見守ることしかできず、
打ちひしがれた日に、
赤竜のミカゲに連れられて、
キリスは
そして、
ここの書棚の前で、
居眠りする、
ホークと名乗る、
南十字星を今まさに作ろうとしている、
紫恩と会ったのだ。
―
キリス一人では、
無理だった。
紫恩でなければ、
出来ない手術だった。
ご両親は、
いつも彼を見ていた。
しかし、
他のみんなが、
関わらなかったら、
おそらく彼は、
ふっと力尽きていただろう。
意外とクチの悪い、あの白竜だ。
悪役が一番難しいんだぜ!、と、
ホークやちび竜仲間に言っていた。
シリウス劇所で、特大の呪詛パッチンをフクロウ便で飛ばし、
ササッカーでは、
ノールックでボールをヘディングして見せる、
彼だ。
彼自身と、
彼の両親や大人たち、
友人の子どもたち、
そして医師たち。
4つの星は、
細い糸で、
縦横に括られ、
祈りの形に変わったのだ。
南十字星。
こんな日が来るなんて。
キリスは、
紫恩を見つめた。
彼の腕の中で、
紅玉の瞳に涙をためて、
ぎゅうっと、
手を握りしめて。
初めて、
声を上げて泣いた。
満天は静かに、彼らを見守っていた。
(終)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます