◆◆◆ 手繰り寄せた奇跡


真夜中。


紫恩は、

キリスといっしょに、

森の皇国神殿へ来た。



彼の、

瑠璃色だった髪は、銀髪に。

濃紫の瞳は、アメジストに変わった。


背筋は、

伸びたかもしれない。


時々、メッキの顔はするかもしれない。



ようやく二人の帳尻が、

ぴったりと、合おうとしているのだ。





ここはシマシマエナガンの白竜、

もとい鳥の、

シオルと体操をしていたところだ。




少女になったポーラに、

森の皇国神殿は贈り物をくれた。



それは、

エルザや老巫女さんはじめ、島の総意だった。




彼女は、

元皇国神殿の白竜で巫女だ。




四身合体を引き受け、

罪人となった船団の竜騎士一体のみならず、

闇の竜二体までも受け入れ、

見事にメタモルフォーゼの回廊を抜け、

救いをもたらせた、

ポーラレアスター。

伝説の巫女なのだ。


以前は望遠鏡が来た。

今回は―







鐘の下に、

大きな、

まあるい竜寝床(アルコーブ)。


ドーム状の、

ソファテラス席が出来ていた。



ポーラは紫恩に、

鍵を貸してくれていた。


契約主じゃなく、

友人としてだ。




紫恩とキリスは、

鍵を開け、

ソファに座り星月夜を眺めた。



二人は、

白衣姿だ。

胸には聴診器。

夜勤だった。


つい先程まで、

丘の竜医院に居て、


大きな手術を終えて、

ここに戻ってきたのだ。

一段落した、わずかな休憩時間。

二人共、またすぐに医院に戻る予定だ。



あの、

ちび白竜。

彼は、

長生きできる身体ではなかったのだ。






しかし、

シリウスが延命し、



アトラスはその鼓動を動かし、


 

紫恩が外科手術を行った。




ポーラが看護をした。

ちび竜仲間が手紙を送った。




もちろん普通の人とは違う。


しかし、

彼の心臓は、再び脈打ったのだ。






彼は生きているのだ!!







外来で、

弱っていく白竜をただ、

見守ることしかできず、


打ちひしがれた日に、

赤竜のミカゲに連れられて、

キリスは森の皇国神殿ここに来たのだ。



そして、

ここの書棚の前で、

居眠りする、

ホークと名乗る、

南十字星を今まさに作ろうとしている、

紫恩と会ったのだ。




キリス一人では、

無理だった。



紫恩でなければ、

出来ない手術だった。



ご両親は、

いつも彼を見ていた。

しかし、

他のみんなが、

関わらなかったら、

おそらく彼は、

ふっと力尽きていただろう。


意外とクチの悪い、あの白竜だ。

悪役が一番難しいんだぜ!、と、

ホークやちび竜仲間に言っていた。

シリウス劇所で、特大の呪詛パッチンをフクロウ便で飛ばし、

ササッカーでは、

ノールックでボールをヘディングして見せる、

彼だ。




彼自身と、

彼の両親や大人たち、

友人の子どもたち、

そして医師たち。


4つの星は、

細い糸で、

縦横に括られ、

祈りの形に変わったのだ。

南十字星。










こんな日が来るなんて。






 



キリスは、

紫恩を見つめた。


彼の腕の中で、

紅玉の瞳に涙をためて、

ぎゅうっと、

手を握りしめて。


初めて、

声を上げて泣いた。










満天は静かに、彼らを見守っていた。







(終)










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