ReTake2222回目の世界の林葉響子という世界線(裏)
@shiboku_hirasegawa
第1話 EP12:百瀬からのアプローチ
大学3年生の冬。私がアルバイトとして働いているスイミングクラブの年末お疲れ様会が行われた。私が属する選手コースのコーチ5人だけではなく、事務の人や水泳教室のコーチの人も合わせて20人近い人が集まった。
私は今年の7月からアルバイトを始めたので、初めての年末だ。このクラブでは毎年お疲れ様会という、ほぼ忘年会が開催される事は元カレである三橋から聞いていた。私がこのクラブでアルバイトを始めたのは、元カレである三橋の意見があったからであるが、彼自身はこのクラブをやめて、私の彼氏でもなくなっている。
「では皆さん。今年もご苦労様でした。来年もよい年でありますように、オリンピック出場選手を育てられますように、来年も頑張っていきましょう!乾杯!」
事務長と呼ばれているこのスイミングクラブの総責任者のあいさつが終わり、ザワザワとみんながしゃべり始めた。
私は選手コースのコーチが集まったテーブルに座っており、私の隣には背泳ぎのコーチである
「林葉さん。また来年もよろしくお願いしますね」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。今年は入職早々プライベートで皆さんにご迷惑をかけてしまって、申し訳ありませんでした」
「人間生きていれば色々ありますよ。三橋君は元気にしているのですか?」
「大学の学部も違いますし、4か月くらい連絡は取っていないのでどうでしょうね?まあ元気なんじゃないですかね」
「ああ、林葉さんは三橋君とは別れたんですか」
「あ、言っていなかったですね。あのトラブルが起こったすぐ後で、別れました。報告遅くなってごめんなさい」
「プライベートの事ですからね。報告は必要ないですよ。私こそ立ち入った事を聞いてすみません」
「私もプライベートな事、聞いてもいいですか?」
「何です?」
「百瀬さんの脚……義足は何かの病気だったのですか?」
「ああ、これは大学3年生の夏に、友人の運転する車の助手席に乗っていて。海に行った帰りに酔っ払い運転の車に突っ込まれちゃったんですよ。運転していた友人は大丈夫だったのですが、私の左足はつぶれちゃいました」
「……なんかすみません。忘年会で聞く事ではないですよね。ごめんなさい」
「いいですよ。もう6年前の話ですからね。完全には消えないけれど、ある程度心の傷は……慣れたが正しい言い方かな」
「ただの興味本位でした。ごめんなさい」
「林葉さん。悪いと思ってくれたのであれば、一度夕飯に付き合ってくださいよ」
「え?はい、もちろん。喜んでお供します」
「ははは。あくまでプライベートなお誘いです。そんなにかしこまらないでください」
社交辞令としてのお話だと認識して百瀬さんのお誘いを聞いていた。
年が明けて1月の半ばに、プールサイドにデッキブラシをかけていると百瀬コーチが話しかけてきた。
「響子コーチ。年末に約束してくれた事、覚えてくれていますか?」
「え?なんでしたっけ?」
「夕飯にお誘いして、響子コーチはOKしてくれたんですけど」
「ああ、はい。もちろん。正直社交辞令と思っていたので。喜んでお供しますよ」
「だから、コーチとしてではなくってプライベートでお誘いしているので、そんなにかしこまらないでください」
「わかりました。では私もプライベートの林葉響子として百瀬さんとご飯が食べられてうれしいです」
「照れますね、そんな風に言ってくれると。林葉さんはウナギはどうですか?」
「大好きですよ。値段的にしょっちゅう食べる事はできませんけど、どうしてもって時には、実家でねだって食べさせてもらいます」
「オーケーです。では今週空いてる時間はありますか?」
「今週であればアルバイトしか入っていないので。いつでもです」
「では善は急げなので明日の夜と言いたいけれど、時間がせわしないのはつまらないので、クラブの選手コースがお休みの土曜日はいかがですか?」
「わかりました。楽しみにしています」
こうして私は百瀬コーチと、いや、百瀬歩さんとウナギを食べに行く事になった。
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