第8話 正義の色々

 高校2年生となった。一貫校であっても、同じメンバーで過ごす長い期間を考えられず快楽に走ったり、学力はあっても包括的な人間関係を優先できず快楽に走ったり、IQは高いのに思考を止めて快楽に走ったり。バカという言葉が正しいのか、ガキという言葉が正しいのかわからないけれど、高校生位には一定数そういう人間が存在する。

 正直私はこの学校には存在しないと思っていた「イジメ」が浮き彫りになった。


 清水雛しみず ひなというこれも幼児舎からの付き合いがある女の子がいる。優しく穏やかで、ゆったりのんびりな性格をした、大変裕福な家庭のお嬢様なだけに、誰かにとってイラっと来る存在だったのかもしれない。

 物が無くなるあたりから始まり、無くなったものが壊されて戻される状況にシフト。無作為の窃盗から特定の個人に対する器物破損へと変わった。

 雛が内部生である限り、日常で無視をされたりする事はないが、呼び出されての口撃が始まったあたりで状況把握となった。本人が泣きながら花楓に相談してきた。


 花楓は雛に対して、相手にきちんと言わなければダメだ。自分で現状を否定する一歩があって初めて状況が動き出すと言う。

 私はそれができたらこうなっていない。さっさと先生に状況と相手の名前を伝えて対応させるべきだと言う。

 雛は考えると言う。ダメだ。考えている時間は無いし、考えるイコール行動しないという事であろう。私はその日のうちに、教員室へ行って状況を伝えた。即刻どうにかしなければ問題が大きくなると念を押した。


 私は花楓にも雛にも責められた。雛の為にも、自分生き方としても、間違えた判断ではないと認識している。

 その後教師が動かない間に、いじめは数日でエスカレートした。暴力が始まっている様子だ。雛は私達には言わないが、目撃者が増えてきている。


 私がトイレの前を1人で通りかかった時に、雛の小さな呻くような声がした。私は迷う事なく淀みなくトイレに入った。

 そこには制服を脱いで下着姿になった雛が、トイレのタイル床の上に正座をさせられており、2人の女子がビショビショに濡れた掃除用モップを雛の顔に押し付けていたり、デッキブラシの柄の方を、雛の陰部に押し付けていた。それを見て3人の女子が笑っている。今まで聞いていた、今回の件に関わっている5人に間違いない。

 

 私は冷静に状況を把握して、まずモップを持っている一名を背中側に引き倒し、そのまま後頭部をタイルの床に叩きつける。私の方に向かってきた傍観者の女子一名を隅落としで投げ飛ばし、顔を足の裏で思い切り2回踏み蹴った。鼻を折った。デッキブラシを持ったもう一名が、私の方にブラシを振りかざしてきたので、入り身投げで倒した後で、ひざを肩に落として腕をひねり肩を外した。

 傍観者だった女子2人目の手を取り、腰投げで相手を床に叩きつけてからこっちも足裏で鼻を折った。初めに引き倒したモップを持ったバカが後頭部を押さえながら立ち上がったので、四方投げで再度後頭部を床に落とす。同じようにヒザを肩に落として腕をひねって肩を外した。

 最後の女子は、平手でひっぱたき、見様見真似の右足上段回し蹴りでこめかみを本気で蹴り倒した。倒れたところをやはり足裏で鼻を折った。最後は合気道を使わなかった。ただの感情だ。それでも本来左利きの私が、右足にグレードダウンしただけでも、理性は効いていると思う。

 たぶん人生で、最初の傷害罪となり得る暴れ方をした。でも足りない位だ。雛が受けた生涯消えない傷に比べれば、数週間で鼻も肩も治る。


 

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