第2話 中学校3年生の探偵物語
中学校3年生になった私も、特に何も変わらない日々を送っていた。強いて言えば、告白される頻度が増えた。小学校の時はせいぜいクラスメイトから半年に一度程度。中1の時は同級生から3か月に一度程度。中2の時は同じ学校内から2か月に一度程度。
中3になった今は範囲が広がり他の学校の知らない人からも毎月数回程度。正直名前も知らない人から告白されるのは……どうにもならない。せめてお友達からと言ってほしい。
学校帰りの今がまさにそれである。
「あの……黒田美咲さん」
「はい」
「俺の名前は小出恒と言います。藤平高校の2年生です」
「はい」
「ずっと好きでした。付き合ってください」
「無理です」
「なんでですか?!」
「私はあなたを知らないし、知らない人への自己紹介の一人称に俺を使う人とお付き合いするのはちょっと無理ですね。それと、なんでですかって、話にもなりません。私の名前を何故知っているのか、大変不安を覚えますし不愉快です。論外です。失礼します」
私は丁寧に90度のお辞儀をしてその場を離れた。今日の小出さんに対して私が特にキツめの言葉を使ったのは隣に花楓がいたからだ。私が自分本来のボリュームよりも大きめの音を出さないと、隣の花楓から騒音が演奏される事になる。私がそれなりの例をもって接すると、隣の花楓が黙っていないのだ。
「美咲……6月終わりになったけどさぁ、3年になってから何人目?」
「7人目だね」
「シレッと覚えているところがムカつく。知らない人率は?」
「7分の5だから71%超えてるね」
「シレッと百分率で答えるところがムカつく。あ~世の男子は何でこんな冷血お化けに恋をして、私のような熱い乙女に告白してこないのだろうか?」
「花楓だって定期的に告白されているじゃない」
「はいはい。人生通算5人ですけどね。あんたの通算成績は?」
「21人だね」
「根暗な女は全部覚えているところもムカつく!!」
花楓は私を置き去りに走り出した。そして少し離れたところで振り返って叫んだ。
「あんたなんか!しあわせになっちまえ~!」
両手で大きくバイバイと手を振って自分の家の方角に歩いて行った。
「あんたなんか5人に告白されて5人と付き合ってるじゃない。私は誰とも付き合った事ないけれど……どっちが幸せなのよ」私は小声でつぶやいた。
去年の東京都大会でファンになった、正直に言えば恋を小学生6年生は、中学生になっている。はず。あの運命の出会いの大会から8か月以上経っている。
中学生になった安田悠太君がどの大会に出るのかをチェックするだけでも大変だった。
ネットの力をフルに使い、しょっちゅう大会案内や出場選手情報を確認しているが、なかなか探せなかった。この状態を打開するために、私は考えて「虚偽」とは言えない「解釈相違」レベルでの作戦を実行した。安田君の所属チームは去年の大会で把握済みだ。
――プルルル プルルル
「はい東京スイマークラブです」
「もしもし、初めまして私、応慶学塾で広報関係をしております黒田と申します。実は水泳部特集の関係で東京スイマークラブさんの中学生で注目選手がいたらお教えいただきたいと思ったのですが」
「取材ですか?」
「あくまでも学塾内の広報誌の作成でございますので、マスコミではございません」
「少々お待ちください」
――
「お電話変わりました。選手コース主任の古岡と申します。学校新聞の取材という事でよろしいですか?」
「はいそんな感じです。ぜひ中学生で注目の選手がいれば、大会スケジュール等可能な範囲でお教え願いたいのですが」
「そうですね。ああ、応慶学塾さんなら木下敦というのがいますね。彼は自由形です」
「他に注目選手はいますか?例えば、そう、平泳ぎなどでは」
「ブレストだと短距離の安田悠太という選手が、練習量は少ないのですが、なかなか速いですね。もう少し本気でやってくれると良いのですが、それでも去年の小学生の東京都大会で2位でしたし、関東大会でも決勝には残りましたから」
「ほうほう。安田悠太選手は近々ではどの大会に出場されるのですか?」
「長水路の中学選手権ですね。学年別は狙っていません」
「わかりました。これからも頑張ってくださいと安田選手にはお伝えください」
「他にはですね――」
「本日は取材のご協力ありがとうございました。また何かありましたらよろしくお願いします」
ヨシ。ヨシヨシ。さすが私だ。誰だと思ってるのよ。
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