第13話 ヒモ誕生
冒険者ギルドは依頼を終えた冒険者でごった返していた。
「依頼のゴブリン退治の魔石」
受付のカウンターにジャラジャラと魔石を出した。
俺は注目を浴びた。
Cランクぐらいになれば、ゴブリンぐらい簡単だろう。
Aランクのレベッタのいる俺達は、驚くには値しないはずだ。
「こんなにたくさん」
「俺の手柄じゃない。レベッタがほとんど倒してくれたんだ」
「納得です。Aランクのレベッタさんなら、朝飯前でしょう」
注目している冒険者から納得のつぶやきが聞こえた。
子守冒険者の俺がということで注目を浴びたんだな。
「パーティ申請したい」
「そうですか」
俺は紙をもらい必要事項を書き始めた。
パーティ名はヒモと乙女達。
リーダーは俺、ラウド。
メンバーとして、レベッタとカンナを書き込んだ。
「ええっ、こんなのは許せません! 何ですか! FランクがリーダーでAランクがメンバーだなんて! それにパーティ名!」
「そういうことよ」
レベッタの一言に受付嬢の顔が真っ赤になった。
買取場に場を移して、フェンリルの死骸を出した。
「レベッタ、俺は何もしてないが9割貰っていくぞ」
「ええ、その分あっちで返してね♡」
「師匠、あとで個人授業して下さいね♡」
念話発動。
『くそっ、許せん。Fランクの癖に美女をたぶらかして』
『羨ましい』
『俺もヒモになろうかな』
『ヒモと乙女達なんて名前をこれ見よがしに付けやがって』
『敵国の殺し屋が、5人目の英雄を殺すために放たれた』
何っ。
俺はこの街の隅々まで聞き耳を立てた。
『殺しのターゲットの情報は?』
『まだ分からない』
こいつらだ。
『死ね!!!!!!』
『おい、ふざけているのか。寝るなよ』
『死ね!!!!!!』
殺し屋共は死んだ。
姿を見せないで殺すのは良いな。
他にも何人も殺し屋がいたが、難なく仕留められた。
実にたわいない。
ギルドの酒場で、パーティ結成のお祝いをする。
分厚いステーキ、いつも食ってみたいと思っていたんだ。
今日、夢が叶った。
ヒモじゃないけど、ヒモ生活万歳。
しばらくギルドの酒場で飯を食っていたら、何やら騒がしい。
念話発動。
『賞金首の殺し屋が相次いで殺されただと』
『一体誰が』
『殺したのは5人目の英雄らしい』
『噂にたがわぬ実力だ』
『賞金を取らないとはなんて高潔なんだ』
5人目の噂で持ち切りだ。
『子守の奴、ついにヒモに進化したか。赤ん坊をあやす立場から、産ませる立場になるとはな』
ヒモ冒険者という二つ名が付くのも時間の問題だな。
「どうやら、上手くいったようね。それにしても殺し屋を根こそぎは凄いわね」
「師匠は最強よ!」
「馬鹿、声をひそめろ」
「ごめん」
カンナがしゅんとした。
「次なる目標は何?」
「討伐はほどほどで良い」
「言っとくけど、討伐に手出し禁止。ヒモじゃないのがばれるといけないから。もちろんカンナの魔法は操っていいわよ。あれは見た目が分からないからね」
「じゃあCランク辺りの討伐を中心に行ってみようか。俺はそうだな、商売したい。そっちなら目立たないだろう」
「師匠、何の商売ですか?」
「それな。魔法が操れるのなら魔道具もできるような」
「やってみる?」
レベッタがアイテム鞄から、火点けの魔道具を出した。
魔道具を起動してみる。
2センチほどの火が灯った。
念話発動。
俺は魔道具に耳を傾けた。
『ララ♪ラーラーラ♪ラーラ♪ララ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』
歌が聞こえた。
魔道具は歌を奏でるらしい。
これが分かったからと言って何になるか分からない。
「何か分かった」
「ああ、歌が聞こえる」
「じゃあこっちは」
出された魔道具を起動しようとしたが火は付かない。
『ララ♪ジージーラ♪ラージ♪ジジ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』
歌にノイズが入っている。
これじゃ動かないはずだ。
『治れ』
『ララ♪ジージーラ♪ラージ♪ジジ♪ラー♪ララ♪ラーラーラー♪ラーラ♪』
「駄目だな。念話には魔道具の治癒能力はないらしい」
「後で、魔道具職人に話を聞いてみたら」
「そうするか」
そして、俺は初めて家族に仕送りした。
宿を取ることになったのだが。
「3人部屋で」
レベッタが宿の受付でそう言い放った。
俺は寮があるんだけどな。
そう言うと負けた気がする。
「おいおい、良いのか」
「もちろん、あなたヒモでしょ」
「そっちが良いのなら」
恥ずかしがっていたらなんか負けた気分だ。
実際恥ずかしくない。
「パーティメンバーは一緒のテントで寝ることもあるわ。何遠慮してるのよ。もしかしてエッチな想像した」
「はわわ、ふしだら」
こんな前世の年齢を足したら、子供の歳の娘に欲情するわけないだろ。
女の妹がいると、女性に対して幻想は持てなくなる。
「するわけないだろ。さっさと寝るぞ」
男の前で堂々と着替えするレベッタとカンナ。
どういう貞操観念をしているんだ。
前世の年齢も含めれば、俺は中年も良いところだ。
下着は着ているし、こんなことでは動揺しない。
前世の水着ほどエロくはないしな。
かぼちゃパンツにさらしを巻いたようなブラに欲情する奴はいない。
レベッタとカンナのちっという舌打ちが聞こえた。
2人とも何を期待しているんだ。
ここで念話を発動するほどのことじゃない。
きっとからかいが不発に終わったので悔しかったのだろう。
女って注目されたいが、かと言って手を出すと嫌がる場合があるよな。
女はまるで猫だと思った俺は間違いじゃないだろう。
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