第12話 ゴブリン退治

「これから、ゴブリン退治なんだけど」

「一緒に行きたい」

「好きにするさ」


 ゴブリンの住処の洞窟は森の中ほどにあった。

 見張りのゴブリンが5匹立っている。

 ゴブリンは俺の胸ほどの身長しかない。

 最下級だが、上位種は中級だ。

 念話。


『死ね!!!!!! 死ね!!!!!! 死ね!!!!!! 死ね!!!!!! 死ね!!!!!!』


 5匹は卒倒するように倒れた。

 さて洞窟に踏み込むか。

 中に入ると獣臭い匂いが漂ってきた。


 ゴブリンが出てくると念話で殺した。

 楽勝だな。


「危ない」


 レベッタが剣で矢を薙ぎ払った。


『死ね!!!!!!』


 弓を持ったゴブリンが倒れた。

 俺の弱点は俺が後衛だということか。

 前衛としてレベッタがいて助かった。


 何百とゴブリンを倒し広間にきた。

 そこには約2メートルほどのゴブリンがいた。


『死ね!!!!!!』


 ゴブリンの上位種はあっけなく死んだ。

 さあ、宝探しだ。


 宝箱があって奥には扉がある。

 宝箱にトラップが仕掛けられていたら面倒だな。

 念話でもそれはどうにもできない。


「開けたいの?」

「まあね」


 レベッタが剣を振りかぶり宝箱を真っ二つにしたところ、中に入っていた瓶が割れて、アルコールの匂いがした。

 乱暴だな。

 まあ、ゴブリンの宝箱なんて、大抵ろくな物は入ってないから良いけど。


 酒が宝物とはゴブリンらしいな。

 硬貨が何枚かあるが、銅貨と銀貨がほとんどだ。

 大銀貨もない。

 しけてやがる。


 奥の扉は何があるのかな。

 慎重に開けたところ、中からコロンと女の子が転がり出てきた。

 非常食に取っておかれたんだな。

 生きているとは運が良い。


「むーむー」


 出て来た女の子には猿ぐつわがしてあって、腕も縛られている。

 俺は猿ぐつわと縛ってある縄を外してやった。


「ぷはぁ、助かったわ」

「見たところ魔法使いみたいだけどソロなの。ソロは危ないよ」

「それは実力によるんじゃないかな」

「レベッタぐらいならそうかもね」


「余計なお世話と言いたいけど身に染みて知ったわ。痺れ薬の吹き矢でやられるなんて」

「俺も矢でやられそうになった」

「仲間ね。イェーイ」


 ハイタッチした。

 陽気だな。

 死ぬところだったのに。

 彼女からグゥとお腹のなる音がした。


「非常用の携帯食で良ければあるけど」

「サンキュー、気が利くね。むがもがっ、むがむぐ。私、カンナ。Cランクよろしく。ぐっ、水、水、水ぅ」


 俺は水筒を渡した。


「俺はラウド。Fランク」

「私はレベッタ。Aランク」


「ごくごく、見事なまでに凸凹コンビね」

「間違っていないけど、突出しているのはラウドだから」

「ふぐふぐ、Fランクなのに」

「なのによ。そこに転がっているゴブリンキングは彼が一撃で殺したわ」

「ごくん、そうなの。やるわね」


「こそばゆいな。俺はついてただけだから」

「謙遜もほどほどにね」


「カンナは魔法使いだよな。なんのスキルなんだ」

「助けてくれたお礼に特別に教えてあげる。ステータスオープン」


――――――――――――――――――――――――

名前:カンナ

レベル:31

魔力:398/75439

スキル:炎魔法 魔法威力増幅

――――――――――――――――――――――――


「みたところ、強そうだな」

「分かるぅ、やっぱり分かっちゃうか」


 自信満々なカンナ。


「魔法威力増幅のスキルを使えば、この洞窟ごと炎で包めるだろう。何でしない?」

「えっと……」


 さっきの自信はどこに行った。


「何か言いづらいなら、無理には聞かないぞ」

「コントロールが効かないの。魔法威力増幅は常時発動のパッシブスキルなんだけど、威力が増大するのはいいのよ。問題は魔法があさっての方向に行っちゃうの」


 残念魔法使いか。


「ノーコンなんだな」

「付いた二つ名が味方殺し。もちろん殺したことはないわ。パーティ組む時は魔法の出力を絞っているから」


 味方殺しなんて言われたら嫌だろうな。

 ちょっとカンナが可哀想になってきた。

 スキルが足を引っ張るなんて。


 そういうこともあるんだな。


「見てみたい。外でやってみろよ」


 洞窟から出て、カンナが杖を構える。


「行くわよ。炎魔法、【プチファイヤーボール】」


 30センチほどの火球が俺に向かって飛んだ。

 速さも増幅されている。

 回避が間に合いそうにない。


「念話」

『こっち来るな!』


 ついいつもの時の癖で念話を発動してしまったところ、驚いたことにファイヤーのボール軌道が変わった。

 暴れ馬とか念話で話し掛けると大人しくなったりする。

 暴漢も念話すると気が取られて隙が出来たりするものだ。

 しかし、何でだ。


「凄いどうやったの! 軌道がぐにゃりと曲がったわ!」


 興奮した様子のカンナ。

 推測だが、魔法は思念で操っている。

 だから、大きい声の思念が飛ぶと制御を奪える。

 こんな所かな。


「もう一回、魔法を撃ってみろ」

「ええ。炎魔法、【プチファイヤーボール】」


 念話。


『霧散しろ!!!』


 ファイヤーボールがかき消えた。


「魔法使い殺しの誕生ね。規格外ったらないわ」


 呆れた様子のレベッタ。


「私、あなたの弟子になる」


 とカンナが意気込む。


「何で? 俺は魔法使いじゃないぞ」

「魔法の操り方が少し分かった気がしたの」


 ええと、俺の念話が自転車の補助輪の役目をするのか。

 コツさえ分かれば制御できるってことね。

 少しの間なら付き合ってやるのもやぶさかではない。


「パーティメンバーが増えたわね」

「いつの間に、パーティ組むことになったんだ」

「あなた、今の実力がばれるとやばいのは分かってる」

「へっ、どういうこと?」

「国に囲われて自由な生活ができないってことよ。どこに行くにも護衛が付くわね」

「そんな生活は嫌だ」


 SSSランクになるとそんな感じになるのか。

 SSSランクは貴族だものな。


「それに戦場に送られるかもね」

「それも嫌だ」

「じゃあ、大人しく私達とパーティを組むのね。私ならAランクだから、大物のモンスターを倒しても説明が付くわ」


 くそう、有名税を払いたくない。

 ファル達はそれを知っているから、俺を隠してくれたのか。

 ファル達を生贄にしたようで心が痛む。


「分かったパーティを組もう」

「パーティ名を何にする?」

「そうねあなたの実力を隠したいなら、『ヒモと乙女達』とかどう」

「ちょっと、屈辱的な名前だけど。うん、カモフラージュには良いかも。だけど、妹達には聞かせられないな」


「師匠、稽古つけて下さい」

「おお、やるか。目標はあの樹だ」


 俺は樹を指差した。


「はい、炎魔法、【プチファイヤーボール】」


 念話。


『右! ちょい左! そうその調子!』


 ファイヤーボールが俺の念話で動く。

 見事着弾。


 みんなでゴブリンの魔石を全部回収。

 ゴブリンの魔石採りが苦行だったのは言うまでもない。

 肉からほじくり出すのは容易ではない。

 念話で何とかならないか。

 ならないよね。

 そうですか。


 それから、日が暮れそうになるまで、カンナの特訓は続いた。

 少しずつノーコンが解消されているようだ。

 この分だと10日ほどやれば大丈夫だろう。

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