今日も僕らはすれ違う

(⌒-⌒; )

第1話

友達に誘われた地下アイドルのライブで、僕は彼女に思わず見惚れてしまった。

華奢な体でも有り余るエネルギーを解放したような激しいダンスに、可愛らしい顔からは想像もつかないシャウトがかった声音と鋭い表情。

地下と言ってもそのアイドル達は人気がすごく、特に彼女には必死でファンサをしてもらおうとしている人が多かった。

彼女のパートでは一気に人が前に押し寄せる。中には三人ほどが一人を抱えて高さを出す人達もいた。


「すごいな」


素直にそう思った。彼女達にこれだけ本気になる人達がいる。そして彼女にはその魅力が十分にあって、事実僕も彼女から目が離せないでいた。

連れてこられただけで振りもしらず、地味で根暗で、オマケに低身長な僕が彼女の目に留まることなどあるはずもなかった。

この箱でも僕は、きっと蚊帳の外なんだろう。


――――それでも


「っお?! どうした?」


隣の友人が驚いたようにこっちを見た。

僕はこの曲も、振りも、手の上げ方だって知らないはずなのに、気づけば大きく右手を挙げていた。

どうしてか彼女の目に、ほんの僅かでも残りたいと思った。

これがハマるというやつか、いや、もしかしたら僕は、生まれて初めて恋をしたのかもしれない。少し大袈裟かな?


「っえ」


瞬間彼女と目が合った気がした。

蠱惑に微笑む彼女は、間違いでなければ僕を指さし、ウインクをひとつ。

これを狙ってやってるならさすがとしか言いようがない。

この日僕は完全に彼女に心を奪われてしまったのだ。



※※※



「まじで最高だった! 誘ってくれてありがとう」

「いや確かに誘ったけど、一回のライブでそこまでハマるとは思ってなかったし、若干キモイ」


辛辣すぎる友人の言葉も気にせずに、さっき撮ったチェキを見返していた。

地下アイドルというのはここまで距離が近いのか。

チェキという写真を撮ることでアイドルと少しだけお喋りができるし、何よりこのチェキに収まる距離まで近づかなければいけない。


「大丈夫かな? 俺臭くなかった?」

「大丈夫だって。それに、気づいてもらってたな」

「うん」


「初めましてですよね? 私、霜月流歌って言います!」


 予想よりも元気で陽気な彼女にコミュニケーションが苦手な僕は圧倒された。


「初めて見たんですけど、ライブめっちゃよかったです!」

「ほんと? ありがとっ! また来てくれる?」

「はい、また来ます!」


 彼女の顔がぐっと近くなった。そのせいでろくに目も見れずに時間は終了する。

 それでもふと我に返ると、彼女のこの対応はアイドルだからであって、彼女とそんな気になることもあるわけがなかった。

 だからこの時間も、この気持ちも、全部嘘で、無意味なものだと思ってしまう。


「あ、待って!」


 彼女の呼び止めに振り返ると、彼女はまた意地悪な笑みで、それでも眩しく


「また手挙げてね」

「はい!」


 見てくれていたんだ。あんな僕の頼りない手すら。

 なんだ、僕ってちょろいじゃないか。



※※※



 「お疲れさまでした」


 ライブとファンとの交流が終わった控室で私は一息ついた。今日も多くの人たちが来てくれていて嬉しかった半面、自分のパフォーマンスが上手くいっていたか、なんて不安になる。

 いつもそうだ。ライブが終わってやり切ったよりも先にくるのは成長しない自分のパフォーマンスへの焦り。

 メンバーが帰っていく中、私は少しだけ撮ってもらった動画をチェックしてから帰った。


 そして帰りの電車でオンライン小説を読むのにはまっている。

 特にこの『ドーナツ』さんの作品にはいつも勇気と元気をもらっている。

 今日も投稿されているかな、そんなワクワクを抱いてドーナツさんの作品にスワイプした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る