翠子
狄
月弓尊也
──月弓尊也、拙夢中にして嫣然翠の子を負ふ。同界に敢えなむして、復と逢はせ給ひてむや。
負ひて然れども、拙彼の子の名聞きそびれ、ゐみじふ悔しかりけり。然れば名を翠子と呼ばせてゐただく。
僥倖たる邂逅の後、惡夢たる現に覚た其の昼夜時中、己が事様は翠子に無我夢中なり。
絵にも姿を捕へやうと試みるも否、総てもて損なひけり。
然して其夜に再会を乞ひても、夢中には翠子、宛転蛾眉、又明眸皓歯の其の姿を現さ不、心中をゐと悲しきと儚き情が蝕ばまにけり。
果ては惡夢に荊棘、鰓鰓たるもの、余りなる憂し妄幻に夜中現を覚えたり。
月弓尊也、拙を若し夢中にて復、翠子に出会せやうならば、拙隴を得ても断じて蜀を望まぬ。然して願はくは二度、翠子の鏘玉たる嫣然一笑を拝ませ給ひてむや。
二度と夢中に翠子の小柄な端麗容姿と、己が罪の万象を赦してくれやう笑笑を拝めましかば、拙はこの円頭方足の躰を魂魄から離ひても良しとの期し心有り。
然ばかりに拙は翠子に逢ひたくある。
月弓尊也、拙の痺れやう戀情を哀れみ、逢へれば夢中にも構わぬ故、何卒、然りとては拙を翠子に逢はせ給へ──
翠子 狄 @dark_blue_nurse
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