007 訓練

「よし、全員集まったわね」


 レイラ教官が校庭に戦奴スレイブクラスの生徒を全員学園の外にあるバトルフィールドに集めた。


 ここは戦争学園の生徒達が魔人サティロスに対抗するための講義を受ける練習場となる。

 ここは戦奴スレイブクラスのバトルフィールドのため小さいし、設備も最低限しかない。

 ジャックの記憶にある貴種ノーブルクラスの設備は最新のものが使われていた。


 全員が戦闘用のバトルスーツに身を包む。

 男は全身を覆う黒色のピッチリスーツだ。

 なのに女の子は胸元が大きく開いていて、スカートの裾が限界まで上げられたバトルスーツとなっている。

 アニメでもなんで女子は痴女みたいな格好してるんだって思ったけど、男性向けアニメのお約束事項だったんだろうな。

 視聴者視点だとニヤニヤしてるだけで良かったが、転生してこれだとマジで目のやり場に困る。

 言わなかったが実は正直制服もやばかったりする。これは後で考えるとしよう。


「ジャックさん、どうしたんですか?」

「……ルルフェリア。その戦闘スーツどうだ?」

「へ? 動きやすいですよね! 可愛いですし、私は気にいってますよ」


 そんなに胸をさらけ出してるのに疑問にすら思っていないようだった。

 アニメ制作側の都合がよく見えるようだ。


「ではこれから戦技の授業を開始するわよ」


 レイラ教官は武器を取り出した。左手には魔因子が刻み込まれたブレード。右手には魔因子の弾丸を放てる短銃。


 近中距離で柔軟に戦える。それがレイラ・スカーレットの武装だ。

 設定では相当に強く、英雄達に匹敵するレベルなんだよな。

 戦闘訓練の授業は進み、あと少しで終わりとなったころ。


「じゃあ……あなた達。今から実戦訓練をやるわ。一人ずつかかってきなさい。まずトーマス」

「はい!」


 戦奴クラス序列1位のトーマス。レイラ教官の質問に大きく返事をする。


「クラスで一番強いトーマスさんです。凄く速くて何でこのクラスにいるのか分からないくらい強い人なんですよ」

「ふーん」


 多分俺がクラスメイトを知らないと思ってルルフェリアが教えてくれた。

 言われなくても俺は戦奴スレイブクラスの名前ありの生徒は全部知っている。

 アニメではルルフェリアとレイラ教官以外ぱっとしなかった戦奴スレイブクラスなわけだが、ソシャゲ化にあたってかなりテコ入がれされた。


 数少ない名前ありキャラであるトーマスもまた盛られている。

 トーマスの持ち味はスピードだ。貴種ノーブルクラスの生徒に匹敵するスピードでフィールドを駆け巡り近接攻撃を行う。

 ただ戦奴スレイブクラスゆえに武器ツールは粗末なブレードしか支給されてないが。


「前よりも早くなってる! すごい」

「だが」


 百戦錬磨のレイラ教官には適わないだろうな。

 そのスピードを難なく騒ぎ、焦ったトーマスの隙をついて一撃を与えられた。

 トーマスは吹き飛び……あっという間にノックアウト。


「スピードは一級品ね。課題だった攻撃力も少し克服したようだけどまだまだ甘いわね」

「くっ……。ありがとうございました」


「やっぱり今回もダメでしたか……教官に一発与えられそうなのってトーマスさんくらいなので」


「スピードに力を入れすぎて回避がおろそかになってるんだよ。9割くらいに抑えて回避盾になればもうちょっと使えるんだけどな」

「ふぇぇ。さすがジャックさんです」


 ってソシャゲのキャラクター図鑑に書いてあった。

 トーマスはソシャゲでも低ランクだからだ伸びしろもあんまりだろう。

 モブがノーマルで名前ありのモブはレアのクオリティ。レイラ教官はSRでルルフェリアは当然SSR。


「次、ルルフェリア!」

「は、はい!」


 ルルフェリアは訓練用の杖を持って自信なさそうな振りをしてみせた。


「うぅ、私なんてきっと一瞬でやられてしまいます」


「次は落ちこぼれのルルフェリアかよ。魔力量だけ学校一でも出せなきゃ意味ねぇぞ」

「魔法もほとんど成功してないんでしょ。詠唱が上手くいかなくて爆発ばっかり」


 みんながルルフェリアを侮るように笑う。

 同じ戦奴スレイブクラスだというのにな。

 ちなみに最終的にルルフェリアは作中最強クラスに成長するのでこのあたりの生徒達へのざまぁは確定になると言えるだろう。


「でもいっぱい練習してるんだろ? 落ち着いて魔法を撃てばいい」

「どうしてそれを……」


 俺の言葉にルルフェリアは驚いたように振り返った。

 だってアニメを補完するノベライズに努力のことが書いてたもん。


「もしかして以前から私を知っててくれたんですか! だから私に優しくしてくれるんですね。頑張ってる子を応援してあげたいみたいな……嬉しい!」

「お、おう」


 ルルフェリアってこんな妄想激しい設定だったっけ。

 思い間違いだろうか。


「何してるの、行くわよ」

「はい!」


 気合いを入れたルルフェリアは杖を持ち、レイラ教官を見据える。

 ルルフェリアは遠距離魔法型、今の段階で1対1で戦うのは無理だろう。

 レイラ教官はそれは分かっているのでかなり手を抜いてルルフェリアに攻撃を与える。

 ルルフェリアはそれを何とか交わして、レイラ教官から距離を取る。

 そして杖を向ける。


「私は出来る……私は出来る……。私はっ!」


 ルルフェリアの魔法が発動したのか、杖が光る。

 しかしその魔法は発動することなく、爆発してしまった。


「きゅー」


 その爆発にやられルルフェリアは目を回してしまった。


「きゃはははは、やっぱり失敗かよ!」

「無能はさっさと退学すれば……ひっ!」


 うっかり睨んでしまってびびらせてしまった。

 そう、爆発は失敗ではない。それに気づかずルルフェリアを笑う奴らに腹が立ったということだ。


「また失敗しちゃった……ぐすっ」


 涙ぐむルルフェリア。推しのそんな顔は見たくない。


 なぜ失敗し、爆発するのか。単純な話、戦奴スレイブクラスが使う練習用の杖ではルルフェリアの絶大な魔力に耐えられないだけだ。

 入学当初は確かに未熟だったが、たゆまぬ鍛錬のおかげで今の段階でも戦奴スレイブクラスでは抜けた存在になっている。

 しかし武器がお粗末ゆえに気づかない。最低貴種ノーブルクラスの武器、いや最新型の武装ツールならばルルフェリアはきっと……。

 でもその武器は戦奴スレイブクラスに振り分けられることはないだろう。

 ルルフェリアが自分の才能に気づくのはアニメではまだ先だし、きっかけもお粗末なもの。

 今、教えた方がトータル良い方になるはず。


「ルルフェリア、君の魔力だがおそらくは武器の」

「ジャック・ナイトメア待ちなさい」


 レイラ教官が制するように声をかけてきた。


「気づいたのはさすがね。でもこれはルルフェリアの問題。あなたが口を挟むべきじゃないわ」


 確かに。レイラ教官が言うことも分かる。

 でも後々、レイラ教官がもっと早く教えていればと悔やむシーンがあったりするので多分今教えた方がいいと思いますよ。

 くっ、アニメの先を知っているとツッコミ所が多くて悩ましい。


「最後はジャック。あなたよ」

「っ!」


「レイラ教官と下級生主席の模擬戦!」

「どっちが強いんだ!」


「馬鹿野郎レイラ教官に決まってんだろう」

「でもあの狂犬はカトラス教官に勝ったっていうし」


 アニメ2話一番のイベント。レイラ教官との対決だ。


 1話で魔人を倒して強さを見せつけたジャック。アニメ2話では歴戦の戦士レイラ教官とバトルとなる。

 確かレイラ教官はこの時点でのジャックに勝てる確信があり、そして生意気で天狗になってるジャックを叩きのめす意図があったらしい。


 この辺りはストーリー補完のノベライズ読んでるから知ってる。さてどうするか。

 俺はバトルフィールドの中央へ行き、レイラ教官と対面する。


「ジャック」


 レイラ教官は諭すように言葉をかける。


「今のあなたではあたしには勝てないわ」

「っ!」

「ジュリア・ライトニングには勝てたようだけど、本当の戦いってのを見せてあげる」


 俺はレイラ教官に勝てるだろうか。

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