004 懲罰委員会

 さすが正ヒロイン。相手が教官だろうと間違ってることは間違ってると言える胆力。見事だ。

 こういう所がヒロインたるものなのかもしれない。


「私に意を唱えるか愚かな平民が!」


 カトラスは手を振りかぶった。この男にとって平民など人にあらず。

 こうなることは予測済。俺、……ジャックが取るべき行動は一つしかない。


「前半クールで死ぬ雑魚がメインヒロインに手を出そうとしてるんじゃねぇよ!」

「ん? おごっ!」


 魔力を込めて思いっきりぶん殴ってやった。

 カトラスの体が宙を舞い地面に落ちた。下級生より上級生。上級生より教官が絶対の世界で、その下剋上に周囲から驚きの声が上がる。

 カトラスは殴った頬を押さえて立ち上がった。


「ま、また私を殴ったなっ! この男を引っ捕らえよ!」


 カトラスの叫び声が響く。周囲の上級生たちが動き出す。


「ルルフェリア」

「は、はい!」

「庇ってくれて助かった。またな」


 ルルフェリアに被害がいかないように逃走することにした。

 だが本当に逃げるわけにはいかないので良いタイミングで投降。

 一発ぶん殴られて、手錠された状態で俺は懲罰委員会にかけられることになった。


 ◇◇◇


「ぐふふ」


 抑えきれない笑みがこぼれる。


「何をにやけてる。これから懲罰をかけられるのに分かってるのか!」


 俺の輸送を任された男の声には苛立ちが混じっていた。

 一発ぶん殴られたのは予想外だったが俺はこの懲罰委員会が楽しみだったのだ。

 ルルフェリアがカトラスに反抗したのは予想外だが、懲罰委員会に運ばれるのはアニメ1話でもある話。アニメ通りに事が運ぶならこの先は……。

 この懲罰委員会には二人のキャラが登場する。


 上級生かつ生徒会長のビアトリス・レガリア。そして副生徒会長であるマーカス・スティールリバーだ。

 この二人、何が凄いかって……この二人は前作のデスティニー・ヒーローのメインキャラなのだ! 

 あの神作で主人公リオナを支えたあの二人と会えるのはマジで感動。

 原作アニメにもあった裁判所みたいな所につれていかれる。

 その壇上には教師陣と二人の生徒。厳かな雰囲気が漂う。


「来たようだな」


 ビアトリスの声が響く。その声には威厳が満ちていた。

 生で聞けるなんて最高だよぉぉぉぉ。

 生徒会長兼この学園の創設者で理事長でもあるビアトリス・レガリア。

 女パラディンとしての力量ながら、大貴族の貴族様でもあり、大金持ちの商家の面も持っている。スーパーレディであった。

 やっぱり超美人! 彼女の姿は威厳と気品に満ちている。

 おまけにスタイル抜群! お胸の大きさはルルフェリアに匹敵しており、常に横乳を見せる服を初代から好んできていた。

 お絵かきサイトでもずらりと横乳が光る。


「ジャック・ナイトメア。此度は教師への暴力、そして待機命令の無視。何か言い訳はあるかな」


 ビアトリスの声は冷静だが、その目には鋭い光が宿っていた。


「ありません!!」


 俺は思わず大声で答えてしまった。周囲から驚きの声が漏れる。


「そ、そうか。話だと君はもっと過激な性格だと聞いていたからすんなり認めるとは思わなかったよ」


 ビアトリスの表情に戸惑いの色が浮かぶ。

 原作アニメではここでもジャックは暴言吐きまくりだったからな。

 ビアトリスにおばさんなんて言うし、こんな美人になんてこと言うんだ。声優は確かに50歳近い人だから声に貫禄あるけど19才だぞ! 


 まぁ仕方ない。前作とリヴォルトの間には10年くらい空いていて、それが監督及び製作陣変更という悲劇を生んだが。

 前作キャラにはちゃんと媚びておかないとな!


「ビアトリス理事長! この男は最低な生徒です! 即刻退学にすべきかと!」


 カトラスが余計なことを言う。アニメ通りなら退学にならんと思うが……。


「魔人に対抗できる兵士ソルジャーは少ない。ジャック・ナイトメアが2体の魔人サティロスを討伐したと聞いている」


 冷たい声が響く。視線を向けると、そこには厳しい表情のイケメン男子が立っていた。

 来たーっ!

 メガネをクリッとするイケメン男子。

 前作パーティの黒一点、マーカス・スティールリバー。

 戦争学園の生徒のことを一般的に兵士ソルジャーと呼ばれる。


「ですが奴は平民で教官に刃向かう愚か者なのですぞ!」

「下級生にやられてしまう戦技教官もどうかと思うが……まぁいい」


 マーカスに言いくるめられ、カトラスはぐぅと悔しそうな顔をする。

 マーカスもまた上級貴族でビアトリスの幼馴染という設定だ。前作では主人公リオナをもう一人とビアトリスと三人で守る最強魔道士だった。


「だが懲罰は科すべきだ。反省し、しかるべき贖罪をすれば……なぜ泣いている」


 マーカスの声には困惑が混じっていた。

 俺は今、全身全霊で泣いていた。

 涙が止まらない。鼻水まで出てきそうだ。

 なぜならマーカスは前作メインキャラなのにこのリヴォルトの途中で死んじゃうんだよぉぉぉ! 他でもないジャックのせいで!

 こいつ口を悪いし、容赦ないけどマジで良い奴で人気キャラで……うぅ、死んでほしくなかった。絶対生かせてやるからなぁ。


「あなたを兄貴と呼ばせてくれないか?」

「どうしてそうなる!?」

「報告とは全然違う子だな……。まぁいい」


 ビアトリスは立ち上がる。彼女の姿勢からは威厳が溢れ出ていた。

 いよいよ判決が出る。


「君への懲罰を命じよう」


 アニメ1話のラストのシーン。ここでEDのイントロが流れ始めるんだ。

 緊張感が高まり、俺の心臓の鼓動が早くなる。

 そして。


「ジャック・ナイトメアは貴種ノーブルクラスから戦奴スレイブクラスへの転属を命じる!」


 ビアトリスの声が響き渡る。その瞬間、俺の中で何かが弾けた。


「ここでEDがどーん!」

「……」

「……」


 沈黙が流れる。ビアトリスとマーカスは呆然とした表情で俺を見ている。


「君はふざけているのか?」

「すみません」


 ちくしょう。アニメのように場面が切り替わることはさすがになかったか。

 リヴォルトはクソアニメだけどOPとEDは神曲だったんだよ……。アスファルトタイヤを切りつけるくらいイントロの入りは最高だったんだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る