アニメ世界の不人気主人公に転生しました ~原作知識を使って、推しキャラにラスボスとして倒される未来を変えるため、今度こそ神アニメの主人公として君臨します
鉄人じゅす
001 聞き覚えのある声色
「いい加減に起きなさい! ジャック・ナイトメア」
凜とした極めて滑舌の良い声が夢の世界から俺を現実へと引き戻す。意識が徐々に戻ってくると同時に、聞き覚えのある声色が耳に響いていた。
発声しているのは1人なのに、何十もの個性的なキャラクターを演じたような、不思議な魅力を持つ声だ。
目を開くと、朝日に照らされた部屋の中に、偉く綺麗な金髪の女性の姿が浮かび上がる。彼女の姿は、まるで絵画から抜け出してきたかのような美しさだ。この子はもしかして……。
「ジュリア・ライトニング」
驚きと困惑が入り混じってしまった声で、俺は彼女の名前を呟く。
「ええそうです! ですが毎日会っていることでしょう。わたくしの顔を見てびっくりするなんて不敬ですわね。しかし毎朝毎朝、寝坊するなんて下級生主席様は良いご身分ですわ」
ジュリアの声には呆れと親しみが混ざっている。でも彼女の表情には微かな笑みも浮かんでいた。
寝坊? 下級生主席? 混乱する頭で、状況を把握しようとする。そもそもなんでジュリア・ライトニングがここにいるんだ。待て、この子最初に何て言った?
「鏡はどこだ!」
「そこですわ」
ジュリアは優雅に指を伸ばし、部屋の隅を指す。
ゆっくりと視線を移すと、そこには黒髪で赤い目が特徴の偉く顔の整った少年が映っていた。
その姿は見覚えがありすぎた。強いて言うならアニメ調ではなく、リアルな質感を持つ人物として目の前に存在している。
「こ、この顔! ジャック・ナイトメアかよ」
何で俺がジャックになってんの!? もしかしてこれが転生ってやつなのか。 しかもよりによってジャック・ナイトメアはないだろっ!
どうやら俺は大人気アニメ【デスティニーヒーロー】シリーズの重要キャラに転生した。
しかも正統続編の【デスティニーヒーロー・リヴォルト】の主人公に転生してしまったらしい。
リヴォルトの方はクソアニメとして相当叩かれた作品だった。その原因の一つが、このジャックという主人公だ。
「ジャック! 人の話を聞いていますの!」
ジュリアの声が、俺の思考を中断させる。その瞬間、脳裏に浮かぶ言葉が思わず口に出た。
「うるせぇブス! 黙ってろ」
このびっくりするほどの口の悪さ。口の悪さだけなら愛嬌があるかもしれないが、ジャックの性格設定は狡猾で残忍、救いようがないものだった。そうして最後に前作主人公にラスボスとして討伐される。そんなキャラクターだ。
放映後のエンドロールで今までずっと一番上だったジャックの名前が終盤3、4番手に下がっていたのでとても嫌な予感したんだよなぁ。まぁ、それはいい。
目の前の金髪美少女ジュリアは、その言葉を聞いてわなわなと震えている。彼女の瞳には怒りが浮かんでいる。
「なんですって! わたくしに向かってそのようなこと言うなんて」
(ブスが毎日毎日うるさい! 出ていけ!)
再び、脳裏に浮かぶ暴言。恐らく次に放つジャック・ナイトメアの発する言葉なのだろう。
だが、俺は違う。美少女にこんなことを言っちゃダメだ。俺は脳裏に浮かんだ言葉を発する前に、強制的に打ち消した。
深呼吸をして、ベッドからゆっくりと立ち上がる。ブスと言われて怒るジュリアの両肩を、優しく掴む。
「嘘だ」
「へ?」
ジュリアはくりくりした瞳で俺を見上げた。
うわっ可愛いっ! 二次元絵も可愛かったけど実物はもっとやべぇ。心臓が高鳴るのを感じる。
「ジュリアが余りに可愛くて、照れて嘘を言ってしまったんだ。本当はいつもめちゃくちゃ可愛いと思っている。特に声がいい。その声は世界一可愛いよ」
言葉を選びながら、ゆっくりと伝える。ジュリアの表情が驚きと喜び、そして恥ずかしさで次々と変化していく。
「か、かわっ!? え、え……いやあああっ!」
真っ赤になったジュリアが片手を振り上げて、パンチを繰り出してきた。当然避けられるはずもなく、顔面に突き刺さる。
「ぐへっ!」
「からかうのもいい加減になさい! このおばか!」
予想外の反応に戸惑う。おかしいな、ジュリアの声を務める声優さんはたくさんヒロインをやっていて、その声を褒める時は世界一可愛いよというのがセオリーなのに。
ジュリアは顔を真っ赤にしたまま、部屋を飛び出していった。
彼女が去った後、俺は改めて周りを見回す。古めかしい木製の家具、魔法の痕跡が残る壁……ここは間違いなくリヴォルトの舞台となったアルティニア戦争学園の寮だろう。
うーん、感動だなぁ。好きな作品の世界に転生することができるなんて……。リヴォルトじゃなきゃもっと良かったんだが。
初代デスティニーヒーローの主人公、リオナだったら良かったのになんでジャックかねぇ。
複雑な思いを胸に、俺は部屋を出て廊下を歩き始める。不思議なことにジャックの記憶を継承しているようで、何をしなければいけないのか頭に入っている。言語とかも問題なさそうだ。
転生してくれた神様、ありがとう! もう一回言う。リヴォルトじゃなきゃ良かったんだが。
たどり着いた教室の扉をゆっくりと開ける。扉が軋む音と共に、教室内の空気が一変する。
ざわっ。
アルティニア戦争学園の生徒達……ジャックのクラスメイト達の視線が、一斉に俺に向けられる。その目には警戒と軽蔑、そして一部には恐れの色が浮かんでいる。
「ジャック君! あなたという人はいつもいつも遅刻ばかり...!」
女の先生が、声を震わせながら怒鳴る。
そういえばジャックは遅刻の常習犯だった。確かアニメ1話もそんなシーンがあった気がする。そしてこの先生の名前は分からない。1話しか出ていないからだ。
ジャックの記憶を探っても、名前は出てこない。先生の名前くらい覚えておけよジャック。
「これ以上の違反は懲罰もありえますよ」
先生の声には、威厳よりも諦めの色が濃い。
「へいへい」
ジャックの言葉が思わず口をついて出る。押さえるのを忘れていた。周囲の生徒たちの表情が、さらに険しくなる。
「いくら下級生主席だからってやりすぎだろ……野蛮な平民のくせに。狂犬野郎が」
「知性のかけらもないわね」
「
クラスメイトたちの囁きが、教室中に広がる。その声には強い軽蔑が滲んでいる。
2年制であるアルティニア戦争学園、ここは下級生の最上位クラス、
その中で、ジャックは平民生まれながら、戦闘力に秀でていた異端児だった。
強さこそがトップの証であるこの学園で目立つのは当然といえる。だって主人公だし。
しかし、その立場が周囲との軋轢を生んでいるのは明らかだった。
俺は静かに記憶通りの席に座る。周囲の視線を感じながら、どう振る舞うべきか考える。
「結局起こしにいったのに遅刻でしたわね」
隣の席に座っていたジュリアが小さな声で話しかけてくる。
さすが名前ありのキャラ。
何でこう都合良く主要キャラが隣の席なんだろうか。アニメ制作の都合なんだろうけど、現実になってみるとかなり不自然に感じる。
「しかも変なからかいを覚えるなんて...相変わらずですわね」
「からかい?」
「わ、わたくしのことを可愛いだなんて。そんなそぶり、一度も無かったくせに」
ジュリアは頬を赤らめてそっぽを向いた。その仕草があまりにも愛らしく、思わず見惚れてしまう。
ぐぅ可愛い。
俺は机の上のジュリアの手の甲に、そっと触れる。
「ひゃわ!?」
ジュリアの驚きの声が、教室に響く。周囲の視線が、さらに集中する。
「大貴族なのに平民の俺を否定せず、ただ実力で人を見るジュリアの魅力に気付いただけだ。本当に君はノブレス・オブリージュを体現するような子だ」
ジュリアの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。その姿は、まるで熟れたトマトのよう。
そう、ジュリア・ライトニングがジャックに淡い想いを抱いているのはアニメを見た人なら誰もが知っている。
だがジャックの末路は前作主人公による断罪。ジャックに転生した以上、断罪は恐らく不可避! 転生者のお約束。
だからこそ俺はジュリアに媚びなければならない。だってジュリアは、ジャック討伐隊に最後まで抵抗していたのだ。
(あなたのその強さに惹かれておりましたのに……)
ジャック討伐決定の際、結局感情を抑えきれず、涙ぐんでいた姿は忘れられない。だからこそジュリアにもっと好かれる必要があった。
そうすればもっと強く抵抗してくれるかもしれない!
だから俺は媚びる!
「ま、まぁわたくしの美しさに今頃気付いたのは評価点を上げても良いですが」
デレた! ツンデレキャラなのにデレが早い! これはいいんじゃないだろうか。
そんな思いを巡らせていた時、突然の出来事が起こる。
ビーーーー! と教室にアラートが鳴り響く。高く鋭い音が教室中を包み込んだ。このアラートは確か……。
「魔人だ! 人類の敵の
ここでCMが挟まれると思ったがそんなことは一切なかった。
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