第26話 王都での騒動
いよいよ今日は、学園の入学試験の日となった。
いつも通り朝早くに起床し、ご飯を食べて王都に向かう。
ちなみにだが、今は完成された本部にある俺の部屋にいる。
ここにいると序列一桁の者が来て、ご飯を準備してくれるらしい。
今まで本部で寝泊まりすることはほとんど無かったから、自分の部屋がしっかり準備されていたのには驚いた。
見た感じどの部屋よりも豪華っぽいのは何か意味があるのだろうか?
序列の順位で部屋の豪華さが変わったりするのかもしれない。
ルーナの部屋もかなり豪華であったが、今回は俺の部屋で一緒に寝ているので、あまり見れていない。
いつかは本部の建物を全部見回ってみたほうがいいかもしれないな。
そんなことを考えながら、王都の検問所に並ぶ。
なぜわざわざ検問所を通るのか。
それはこの後学園に行くからだ。
せっかく試験に合格しても、後から検問所を通っていない不法侵入だと言われては面倒だからな。
まぁ、国がそこまで厳しくチェックしているかは怪しいが。
「身分証明書を」
「これでいいか?」
俺はルーナと自分の分のギルドカードを見せて魔力を通す。
ギルドカードは身分証明書になるらしく、カードに魔力を流し込めば、自分のならカードが光るようになっていた。
そしてそれを検問所の人が受け取り、自分の魔力を流し込んで確認する。
「ん? ランクA? いやしかし、これは本物のよう. . . . . .」
「もういいか?」
「あ、あぁ。確認した。通っていいぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございました」
普通に検問所を通過し、この前教えてもらった学園へ歩いて行く。
今はフードを被っていないため、ルーナに見惚れる輩が結構いるな。
「ルーナ、学園まではかなり距離があるから飛んでいこうか?」
「いえ、ルフト様と一緒に歩きたいです。時間は大丈夫ですよね?」
「あぁ、まだ受付開始まで30分以上ある」
検問所から学園までは、普通の人ならば朝から歩いて行こうとは思わないほど距離がある。
位の高い貴族や王族すら通う学園であるために、できるだけ王都の中心部に位置しているのだ。
学園を受験する平民だって、前日までに学園の近くに宿をとり、朝早くに到着できるようにしなければならない。
もちろん俺たちは一瞬で移動できるし、ルーナが一緒に歩きたいというのなら、受付開始のギリギリまで歩いて行くこととするが。
「おい、そこのお前」
少し歩いて行くと、通りに馬車が止まっており、そこにいたよくわからない奴に声をかけられた。
パッと見た感じ、俺たちと近い年齢だろう。
「何だ? 何か用か?」
「っ! 何だ貴様は! 俺を誰だと思っている!」
向こうから話しかけてきておいて、どういうことだ?
「初対面で知っているわけがないだろう? 用が無いのなら行かせてもらう。ルーナ、行こうか」
「はい」
「俺は伯爵家なんだぞ! 平民ごときがそんな口をきくな!」
何を怒っているのかは知らないが、面倒なことに変わりはない。
無視を決め込んで歩こうとすると、なにやら後を追ってきた。
ルーナに触れられないよう、仕方なく後ろを振り返る。
「さっきから何だ? そっちから話しかけてきただろう?」
「俺が話しかけたのはそこの女だ! 貴様などではない!」
「ルーナがどうかしたのか?」
俺は体でルーナを隠しながら奴の狙いを聞く。
返答次第で、こいつの家は消すつもりだ。
「ルフト様、騒ぎを起こしてはいけませんよ」
「. . . . . . はぁ、わかった」
ルーナに先に釘を刺されてしまった。
確かに、すでに多くの人が何事かとこちらを見ている。
ここで騒ぎを起こせば、ルーナが学園に入れなくなるかもしれないな。
「ふん、ちょうどいい。貴様は俺への侮辱で処刑だが、そこの女を渡すのなら. . . . . .」
――ゾワッ
「ヒッ」
「ルフト様、ダメですよ」
ルーナがすかさずそう言ってくるので、仕方なく殺気を抑えると、つっかかってきた奴は腰を抜かして俺から遠ざかろうともがいていた。
いや、こいつだけではなく、周りの御付きの奴らや俺たちを見ていた通行人まで逃げるように離れて行った。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
手を繋ぎ直して、学園の方へ歩き出す。
本当はこの場で切り刻むか、気圧で押し潰すかしておきたいところだが、ルーナがダメというのなら仕方ない。
しかし、ルーナを見たやつは大抵こうなるのだから、やはりフードは被っていた方がいいのかもしれないな。
どこの町へ行っても、ルーナは狙われやすいみたいだ。
ちょっとだけ空気の密度を変えて、ルーナの顔付近に蜃気楼のようなものを作り出し、確認しにくくする。
「そこの2人、止まりなさい」
そうやって5分ほど歩くと、再び止められた。
今度は武装をしている男で、紋章が描かれているところから騎士団の1人だろう。
こう何度も止められてルーナとの時間を邪魔されると、少しイラついてくるな。
「何か用か?」
「さっき伯爵家の方に暴力を働いたと聞いた。それは君たちで間違いないな?」
「別に触れてすらいないが?」
「しかしここでは貴族といざこざを起こしてはいけないんだ。少し話を聞かせてもらいたい」
こいつ、ルーナに言われてたからかなり抑えていたとはいえ、俺の殺気を受けても普通に止めてきたな。
見た感じも真面目っぽいから、あの伯爵に縋りつかれでもしたのだろうか。
仕事を真面目にこなすのはいいことだが、あの貴族を信じるのはどうかと思う。
それにしても、ここで時間を取られてはルーナと歩く時間どころか受付にも間に合わなくなるかもしれない。
「悪いが、俺たちは用がある。そもそもあっちから突っかかってきたことだ。何か聞きたいのなら周りの通行人にでも聞いてくれ」
「いや、そういうわけにはいかない。とにかく話を」
「おーい、何してるんですか! そんなところで. . . . . .」
少し面倒だと思っていた時、また別の男が現れた。
そいつはルーナを見た瞬間、顔を強張らせ、そのまま俺へと視線を移す。
その視線が俺とルーナの繋いでいる手に移ると、すごい勢いで謝ってきた。
「も、申し訳ありません! こちらはお気になさらず、どうかそのままお行きください」
「あぁ、気にしてない。行かせてもらおう」
「は、はい。誠に申し訳ありません!」
俺も当然のように学園へと歩き出す。
この男は名前こそ覚えてないが、体の周りに俺のバリアがある。
つまり、こいつは夕凪の者だ。
ルーナの顔はだいたいの奴が知っているが、俺の顔を知るのは序列が1桁の者と、最初に助けた研究所の奴らぐらいだろう。
ルーナの顔もわからないようにしているが、普段から見ているのなら別だ。
特にこいつは、王都に潜入しているのだから相当使える奴なのだろうし。
「ルーナ、ちょっと飛ぶよ」
「わかりました」
もう一人の騎士の方が面倒そうなので、さっさと離れることにする。
「それで、まずは何があったんですか?」
「いや、それよりもお前、何勝手に行かせたんだよ? 貴族からの依頼なんだぞ!」
2人が言い争っている隙に、学園近くの人気がない場所まで飛んだ。
「はぁ、なんとかお咎めは無しか。しかし、あれが夕凪の主. . . . . .」
「おい、聞いてるのか。上司の俺を置いて勝手に判断するとは何事だ。それも貴族の依頼は俺が受けたものなんだぞ。これで取り逃がしたら俺に責任が来るだろうが」
上司がぶつぶつ説教している中、男は小さく呟いた。
無礼を働いたことに対するお咎めがないばかりか、序列1桁の方以外は見ることのできない主と話せてしまったことに、隠せない喜びを表していた。
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