第23話 その後の町
森から改造された魔物が出てきて、俺たちはすぐに戦う意思を無くした。
あれは見なくてもわかる。
アークさんですら勝てないのだ。
俺たちのような冒険者ではどうやったって勝ち目はない。
もう、ここまでなんだろう。
きっと他の奴も同じように思っている。
誰もが呆然と立ちすくむ中で、さらなる恐怖が彼らを襲った。
――ゾワッ
それは単なる殺気だった。
しかしたったそれだけで、あれほど強大だった鬼ですら動くことができずにいる。
かくいう俺たちなんて、息すらできているのかわからない。
殺気のもとへ目を向けると、そこには見知った人影があった。
「死神. . . . . .」
つい、そう口走っていた。
そして、助かった、という安堵と、死神そのものを前にしている恐怖が湧き出る。
死神は鬼の上に降りてくると、手を下に向けた。
そして広げた手を握りしめる。
――ザシュッ
そんな音がして、魔物たちから気配が消えた。
かと思ったら、魔物たちが一斉に倒れ、頭から血を流し始めた。
訳も分からずにいると、鬼がいきなり宙に浮かび上がる。
「こいつは貰っていく」
そう言葉を残し、死神2人と鬼はその場から消えた。
まったく見えなかった。
いきなり現れいきなり消える。
本当にあれは死神そのものだった。
名乗ったときは本名を知られたくないのだと思っていたが、これを見てアレを人間だと思える者はいない。
おそらくちょっとした気分だけで、この場のすべての命は簡単に消え去るだろう。
完全に人間の理解を超えた超常の化け物だ。
しばらくは誰もその場から身動きができなかった。
♢ ♢ ♢
死神が魔物を全て消した後、俺たちはけがをした人たちを町に残して、魔物の死体の処理をしていた。
それとついでに、新たな魔物が来ないかどうかの警戒も兼ねている。
「ねえ、やっぱり助けてくれたね?」
「あぁ、何を考えてるのかはわからないが、こっちに誰も死者が出てないからな。明らかに俺たちの側だった。あの時はな」
「もう一人いたけど、関係あるのかな?」
「さあな。力を使ってたのは俺たちが会った死神だったし、よくわからん」
魔物の解体を進めながら先の出来事について話す。
この作業をしている冒険者は全員、死神の話で持ち切りだった。
「あれってやっぱり私たちの味方かな?」
「いや、わからんだろ。今回はたまたまだったのかもしれないし」
「そういや、観光地にいたよな」
「あ、確かに。じゃあ、ここの観光地が気に入って助けてくれたとか?」
「いや、さすがに違うだろ。そもそも観光なんてするのか?」
「2人いたんだし、デートとかだったりして」
「お前、さっきのを生で見てよくそんな冗談言えるな」
あれは人間と考えていいものではないだろう。
完全に神とか悪魔とかのレベルだった。
こんな冗談を言うことすら恐れ多い。
「まぁまぁ、でも死神がここの町を救ってくれたのは事実なんだし、もしかしたら新しい宗教とかできるかも? 死神教とか?」
「どんな宗教だよ」
「いや、でもあり得るぞ。もう全員がアレを死神って呼んでるからな」
「俺が呟いてしまったばかりに、だいぶ広まってしまったな」
「ま、本人がそう名乗ったんだし、いいんじゃない? みんなしっくり来てる感じだし、それ以外の名前はもう無理だと思うよ?」
確かに名前は怖いが、町を救ったのだからすぐにでも他の場所へ広がるだろう。
もう既にこの町では住民にも広まっている。
本当に信仰者が出てもおかしくないのかもしれない。
「うわ、この魔物も頭を一発だよ。こんな解体しやすいのは今までにないね」
「やっぱり俺たちの後片付けを考えてくれたのかな?」
「いや、それは絶対にない」
「さすがに無いか」
意外と当たっていたりするのだが、そんなことを知る由もなかった。
♢ ♢ ♢
本部に改造された魔物を連れ帰り、調べてみるといくつかのことがわかった。
まず1つはほぼ間違いなく神伝教の者による改造であることだ。
これは改造のされ方が南の研究所にあったのと全く同じだったことからわかった。
やはりあそこの遺跡付近で活動していたのだろう。
次に分かったことは、おそらく改造して操縦していたであろう神伝教の者が食われていたことだ。
これについてはよくわかっていないが、何らかの原因でこの魔物が言うことを聞かなくなったらしい。
もしかすると、あの遺跡に眠っていた神の影響かもしれないな。
そして最後に、この魔物は少し知性を身に着けていることがわかった。
脳まで改造されたのだろう。
知性があるぶん、俺に敵わないとわかればすぐに大人しくなった。
これなら、しばらくは生かしておいて、神伝教に送り返して暴れさすのもいいかもしれない。
「ルフト様、この魔物はどうなさいますか?」
「多少は知性があるようだから、しばらく生かしておいて、神伝教で暴れさせようかと思ってるよ」
「なるほど。では、躾をしないといけませんね」
「あぁ、悪いが俺はあまりそういうことができないからな。安全は保証できるから、ミランダあたりに頼むとしよう」
そんな丸投げなルフトは、この後町で救世主として崇められることになるのだった。
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