第55話 含んだ話

忘れた頃、魔法使いが帰ってきた。

肩を落として、どこから見てもガッカリしてる感じで。

そのまま家に進んできて、また結界にぶつかってる。

王様に会って話してきても入れないんだな。


え~と、入れないのは判ったから、ぶつかりながらも進もうとしないで。


「シロ、ちょっと門扉まで誘導してきて」

「はい」


シロに手を引かれ(と言うか、しっぽを手に巻いて引っ張ってる)門扉までやってきた。

誘導されるまま来たなぁ。

インターホンで会話するか。


「どうだったんです?」

「…………謁見してきた」


声が小さい! 最初の元気さは何処に行った!

かろうじて「謁見」って言葉は判った。王様には会えたようだ。


「謁見出来たんですね? それで?」

「…………やんわりと怒られた」

「怒られた?」

「『カズマ殿が許可したなら何も言わないが、迷惑をかける事は許さん』、と言われた……」

「へ、へ~」

「どうしてかと聞いたら『私も行く所だ。意味は判るな?』と言われた……」


え~と、俺には理解出来ないんだけど。

どういう事?

あれか? 自分がこっそり飲みに行く店を人に知られたくないって感じ?

違うか? 俺は飲みに行かないからなぁ。友人に聞いた話だし。

うん。判らない。聞いた方が早いな。


「どういう意味ですか?」

「判れよ!!」


怒られた!


「結界の事だろうが!

 『陛下が来られる場所の安全な結界に、変な事をするのか? 反乱罪になる可能性もあるぞ』って事だ!」

「なるほど!」

「それくらい判れ!!」


しらねぇよ!

こちとら、民主主義の日本から来てんだよ!

天皇が来るってなったら『うわっ、道路とか封鎖するのかな? 来なくて良いのに!』とか思うんだぞ!

あっ、個人的な意見ですよ。個人的な。


「つまり、『本人からは許可を得ていても結界をイジるな』って事?」

「そういう事だ……くそっ!」


なるほどねぇ。

しかし、俺的には結界を調べてもらいたいと思うようになったんだよな。

どこまで安全なのかも知りたいし、調べる事で結界を広げてもMP消費を抑える事が出来るかもしれない。

あっ、そうだ。


「シロやクロも同じように自身に結界を張ってるぞ。

 それを調べる分には問題無いんじゃないか?」

「…………な、なるほど! それなら家を調べていませんと言い訳が出来る! その手があったか!!」

「でも許可は本人達から取って下さいよ? 俺は強制しませんからね?」

「それくらいすぐだ! やったぞ!!」


喜んでるので、シロとクロを魔法使いの所に行かせる。


「二人共! 二人の結界を調べる許可をくれ!」

「いやです」

「ダメ!」


あっ、あっけなく断られた。

そりゃそうか。身を危険にする行為だもんな。


「くっ! い、いや、断られたのは、まだそんなに仲良くなってないからに違いない!」


立ち直るのが早い。

そういう人じゃないと、研究者には向いてないのかな?

そして、そのまま街に向かって走っていった。

どうするのかな? 食べ物でも買ってきて懐柔するつもりか?


って思ってたら、街から人を連れてきた。

そして街道沿いの地面に向かい何かやってる。

地面に棒を刺したり、ヒモを張ったり。そしてその状態を残したまま、帰って行ったし。



後日、その行為の意味が判った。

そこに家を建て始めたのだ。今は基礎工事の最中だ。


隣に住んで仲良くなろうという事なのかな?

後は、ずっと結界を観察する事も出来るね。

気の長い話だなぁ。まぁ、そういう人じゃないと研究者にはなれないんだろう。がんばれ。

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