第16話 お仕事

驚いてくれるかと期待して出したフレーバーだったが、渡した途端に一気飲みされてしまった。

見てなかったので、味しか気づいてもらえなかった。


「凄く美味しい料理、ありがとうございました!!」

「いえいえ」

「主の料理は絶品ですからね」


おい、シロ。それは嫌味か?

お前には猫缶かカリカリしか出してないだろ。

作る料理も、レンチンかお湯を注ぐだけって知ってるだろ!


「それで、今日は何の用で? 外の盗賊退治ですか?」

「あっ! 忘れていました! 私、冒険者ギルドで働いているシャティと言います!」

「シロから聞いていますよ」

「そうでしたか。

 え~と、外の盗賊は偶然発見しました。

 なので引き返して、捕縛用に他の冒険者チームを連れてきたんです。

 って放置してました!」


そう言えばそうだった。

でも現在、航空写真が表示されていないので、盗賊も冒険者も居ないんだと思う。

もう連れて帰ったんじゃないかな?


「既に居ないみたいですよ?」

「そうなんですか? う~、後で謝っておかないと……」

「それで、用事は?」

「そうでした! えっと、シロ様のご主人であるカズマさんには、冒険者登録をして頂けないかと。

 そうギルドマスターが言うんです。私じゃありませんよ! マスターが、です!」

「はあ。別に良いですけど。ここで出来るんですか?」

「いえ、ギルドに来て貰って、試験を受けて頂きたいんですけど……」

「あっ、無理ですね」

「ですよね~。こちらからの要望なのに、ギルドまで来いなんて。誰も来ませんよね~」


いや、出たくないから断ったんだけど。

良いように誤解されてるから、このままにしておこう。


「判りました。その様に伝えておきます」

「お願いします」

「ところで……カズマさんは、魔法使いなんですか?」

「え? なんでです?」

「飼い猫が喋れますし。この家も判らない仕組みになってますよね。上の明かりとか。

 それにあの防御結界! 盗賊は入る事も出来ないのに、シロ様と私は通過しました!

 高名な魔法使いなんですよね! もしかして賢者ですか?!」


そんな立派な者ではありません。

ただの出不精です。

なんと説明したら良いんだろうか?

そうだ! 俺の役職を言えば良いんじゃない?


「俺はCEOですよ」

「CEO?」

「え~と、トップって事です」

「やはり!! 凄いです! そりゃギルドにも来ませんよね!

 シロ様の強さにも納得です!」


会社のトップってだけなんだけどさ。

それに社員は俺以外に2名だけなので零細企業ですよ。


「ちょっと聞いても良いですか?」

「何でもどうぞ?」

「突っ込んだ事をお聞きしますが、現在のお仕事は何を?

 何処かの国に仕えていますか? それほど高名な方を国が放って置くとは思えませんが」

「何処にも仕えてませんよ。

 仕事は……会計みたいな感じですかね。事務仕事全般とも言えます」


PCを使っての株操作なんて判らないだろう。

会計とか言った方が解りやすいでしょ。


だが、それは失敗だった。

思いの外、食いついてきたんだ。


「本当ですか?! そそそそ、それは個人でもお願いできますか?!」

「え~~~~~~、可能です……けど」

「ギルドの会計をお願いしたいのですけど!」

「へっ?! それはギルドの事務員がするんじゃないの?」

「そうですけど……ギルドの人間はほとんどが冒険者上がりで、そういうのに向いてないんです……」

「何でそんな事に?」

「ほら、やっぱり荒くれ者ばかりじゃないですか。

 それらを止める事が出来ないような人員じゃあ無理なんですよね。

 事務員を雇っても、怖がってすぐに辞めてしまうんです……」


納得だ。

ラノベに出てくるような新人に絡むヤツとか諌められないようなギルドは嫌だ。

それが出来る人となると、やはり冒険者って事になる。

弱けりゃ意味無いから、強い人がなるんだけど、そうすると事務能力に問題が。


「ところで、冒険者同士の争い事なんか起きると思うけど」

「冒険者同士の争い事は、ギルドが間に入って仲裁します」

「ギルドは冒険者同士の争いには関与しないんじゃないの?」

「誰です? そんな事を言ったのは? そんなの一般人に見られたら冒険者の信用が落ちます。

 なるべく迅速にかつ確実に仲裁しますよ」

「冒険者と一般人の争いは?」

「国や領主が裁きます。その場合、冒険者が加害者だった場合は罪が重くなります」

「それはどうして?」

「冒険者の方が強いのですから当然です」

「ふ~ん。例えば、素行の悪い冒険者が居たら?」

「最初は注意、次回はランク降格、最悪剥奪の上に強制労働です」

「新人に絡む冒険者が居たら?」

「誰もが最初は新人です。そして未来のSSランクかもしれません。

 そんな新人に絡むような冒険者をギルドは見過ごしません。すぐに捕まえて再教育します!」

「その人がランクSSでも?」

「当然です。SSだから大目に見るなんて事はありません。

 と言うよりも、そんな人はSSにはなれません!」


ま、そうだよな。

冒険者同士の争いには関与しない。争い事を止められない受付嬢。新人イジメに、酔って絡んでくるヤツ。

こんなのが許されてて何もしないギルドって崩壊寸前だよ。

あれは主人公を目立たせる為の演出だって事か。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る