第21話 粉☆砕
「ちょっとくらいダメージ食らってくれてもいいんだけどなー?」
この恐竜、ちょっと強すぎない? 岩石の腕で殴ってもダメージが入った様子はないし、他の魔法をぶつけてみてもちっとも怯まない。掠り傷一つできないってどんな身体ですか? って感じ。逃げようにもウィーディを守りながらとか無理。一匹だけならワンチャン有るかもだが、二匹相手はまぢ無理。
「というか、何でお前ら仲良くしてんだYO!? 自然の摂理はどうした!? エェ!?」
俺は必死に恐竜二匹の攻撃を阻止しながらウィーディの様子を窺う。
正直、失敗したな、と思う。無理はしないとか言いつつ、馬鹿みたいな無理をさせてしまった。ウィーディの才能を一番過信していたのは俺だったかもしれない。反省も後悔もすべきだが、そんなことをする時間がこの先あるとは思えない。
「はぁ~。こういう時に使えない嫌がらせ魔導とか、マジつっかえ!」
俺の嫌がらせ魔導は欠陥魔導だ。天誅対象でないと単なるデバフくらいにしかならないってどうなの? このクソ忙しい状況で悠長にデバフをまき散らす余裕なんてねーわ。そんな仕様なら書いといてくれ! 俺はぶっつけ本番が苦手なんだ!
そんなことを考えている間に、恐竜二匹は俺の戦いに慣れてきたのか、段々と魔法のタイミングが合わなくなってくる。
トリケラトプスが突進の予備動作をしていると判断し、足元に沼を作る。だが、それはフェイントだった。魔法を発動したことで意識をティラノサウルスに向けた瞬間、トリケラトプスがその巨躯に見合わぬ速さで突貫してくる。
「しまっ……!」
俺は自分に向けて風魔法を放つ。俺を守る様に張ったバリアが自傷ダメージを防ぎ、俺を後方に押し出した。紙一重でトリケラトプスが眼前を通り過ぎ、その余波でバリアが悲鳴を上げて点滅を繰り返す。
「余波でこれかよ! ……あ、やば……」
元々、絶妙なバランスで成り立っていた戦闘だ。それが、このタイミングで決壊した。トリケラトプスに費やした時間と意識の対価は、致命的に重かった。
俺の直上に大口を開けたティラノサウルスがコンニチハしていた。そのまま大口が閉じられる。バリアは僅かに抵抗をして、あっけなく砕かれた。いつものジョークをかます暇もなく、俺は自分の首が胴体を残して食いちぎられる光景を幻視した。
「ぐぇ……」
「さっきのお返し」
俺は急激なGを感じた。物凄い強さで首根っこを背後から引っ張られたのだ。一瞬首が締まり、地面を転がるものの、ティラノサウルスのおやつになることはなかった。
一方のティラノサウルスは、視界の端で物凄い勢いで吹き飛ばされていく。その軌跡は樹海に短い道を作り出した。その施工主はもちろん……。
「ウィーディ!」
「ん。お待たせ」
挫折を知らない天才は一度折れると立ち直れないというが、ウィーディは立ち直った。少なくとも今後、多少のことでは動じないだろう。芯の通った意思がその瞳から感じられる。
「もう、大丈夫そうか」
「うん。ありがと。ユニのおかげでわかった」
「……俺、何かしたか?」
「ユニが諦めないことを教えてくれた」
え……何それ、知らん。……ていうか、俺また何かやっちゃいました系主人公みたいな発言しちゃった。もうマヂ無理。穴があったら入りたい……。マミった方がマシだったかもしれん。辛い。まじつらい。
精神的ダメージを負った俺のことなどいざ知らず、ウィーディはその場で構える。ボクシングみたいな構えとは全く異なり、一見すると立ち尽くしているようにも見える構えだが、天賦之才が導き出した答えだ。
「遅いよ」
そこにトリケラトプスが全力で突貫してくる。
だが、それを悠々と片手で正面から受け止めるウィーディ。もう一方の空いた手でその立派な角を殴打した。たった一度でその角は根元から砕け、二本目の道を作り出す。
「……つっよ」
「砕けちゃった。素材が勿体ない」
「えっ、気にするとこそこ!? それはそうだけど、そうじゃない!」
「ユニ、これくらいで騒がないで」
「俺が悪いの!?」
「うん」
これくらいって、いきなりどうした。強くなりすぎだろ。俺の想像を超えてやがる。強すぎねーか? いや、もともとの素質に精神が追い付いたのか? ウィーディって実はけっこう傲慢な子? ……ま、いいか。あるがままを受け入れるべしって孔明も言ってた気がするし。
吹き飛ばされた恐竜たちがのっそりとその巨体を持ち上げる。ティラノサウルスは下顎が大きく変形し、歪な形となっていた。トリケラトプスはその立派な角が折れ、カッコよさが半減していた。
「……オイオイ、マジかよ」
ウィーディを自分たちの生命を脅かす強敵と認めたのか、恐竜二匹に変化が起きる。
ティラノサウルスは全身から炎を迸らせ、口からは呼吸の度に火が漏れ出る。トリケラトプスは角が眩く発行し、全身にプラズマを纏った。どこからどう見ても本気である。
「大丈夫」
「本当かよ」
「今のわたしなら、余裕で勝てる」
その自信はどこから? 心から。はい、座布団三枚。ウィーディがそこまで言うなら俺も信じよう。今度こそ。
「なら、勝ってこい!」
「ん!」
ウィーディは力強く返事をする。そして、大地を蹴った。
―
ウィーディは全身に魔力を巡らせていた。いわゆる身体強化である。だが、その強化率は凡夫とは隔絶していた。魔力がぶ厚い鎧となり、武器となる。物理と魔法、両方の性質を兼ね備える万能の力だ。
「通じないよ」
そこに戦いは存在しなかった。一方的な蹂躙。一分にも満たない時間の後、立っていたのはウィーディだけだった。
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