第8話 やっちまったぜ

「優しくしてりゃ、つけあがりやがって……!」

「優しい人は道を塞いだりしないんですが」

「この……!」

「ウィーディ、やってお仕舞なさい!」

「うん」


 言うが早いが、ウィーディは腕を振り下ろそうとした男を、剣を鞘から抜くことすらなく気絶させる。その早業に周囲が騒然となった。


「あの子、強いぞ」

「マジか……」

「あれ、新入りだろ? スゲーやつが入ってきたな」

「あの小さい方は何ができるんだ?」

「そりゃ、あの女を従えてんだ。強いだろ」


 おい馬鹿。勝手にハードルを上げんじゃねぇ! 俺みたいなへなちょこフィジカルは意味深に黙っておくしかできねぇんだよ! あ、待てよ? 俺って嫌がらせ魔導の他にも何か使えたような……。あ、普通に魔法使えるじゃん。……使お。


「この女ァ!」

「こいつを人質にすれば……!」

「ユニ!」

「え? あ、はい。ちょっと凍れ」


 俺の背後に回った男は俺の言葉を皮切りに、氷の柱に取り込まれた。ひんやりとした空気がその氷が本物であると伝えている。そして、その場も一瞬で凍り付いた。

 あ、あれぇ? 俺の得意技がでちゃったか? 場を冷やすのは地球でも特技の一つだったが、無意識に出るようになっちゃったかぁ~。……いや、それは困る。


「魔法……」

「嘘、だろ……」

「……詠唱破棄だと……? あれだけの高等技能をあの歳で……?」


 あれ? 俺、また何かやっちゃいました? ……やったんだろうなぁ、この感じ。吐きそう。こうなったらカモン、脳内事典! どれどれ……魔法を使える人口割合はエルフ族や精霊族などの種を含めて約十分の一。人間族で一人前に魔法を使えるのは更に少なくなる。ほーん……やっちまったなぁ! ていうか、詠唱とか小恥ずかしいことやりたくないでしょ。俺、中身は社会人よ? ……よし、開き直るか。面倒事を避けるのには実力行使が効果的って織田信長も言ってた、かもしれない。


「貴様らのお遊びに付き合っているほど、私たちは暇ではない」


 ウィーディがもう一人を気絶させ、残り二人となった男たちに向けて、俺は魔法を使う。炎、岩、風、水それぞれが剣や鎌などの武器を形取り、その首に突きつけられる。勝負は着いた。


「相手にならんな。私たちに声を掛けるなら、最低限この程度できてもらわないと困る」


 身動きの取れない男たちは突きつけられた魔法を前にゴクリと唾を飲みこんだ。目が恐怖に染まっているのがよくわかる。


「一つ忠告しておこう。二度と私たちに関わるな。もし、次このような事があれば……」


 俺は男たちを足元からゆっくりと氷漬けにしていく。せり上がっていく死の気配を感じ、男たちは土気色になった顔を俺に向けた。そして、その頭だけを残し、身体は完全に氷漬けになる。


「残念ながら、貴様たちの冒険はその日までとなるだろう」


 俺は魔法を解除する。死の恐怖から解放された男たちはその場にへたり込む。その目には反抗的意思などとうになく、恐怖で一色に染まり切っていた。

 いい感じだな。これでもう一度来たら逆に褒めてやる。ま、これだけ実力差を見せたら襲おうなんて思いもしないだろうが。じゃ、最後の締めといきますか。


「そこのお仲間にもしかと伝えよ。わかったな? フハハハハハ!」


 高笑いと共に退場だ! どうだ、俺のハッタリ劇場は! 場は最高に冷え冷えだぜ!

 俺はウィーディを伴って冒険者ギルドを優雅に立ち去る。背後から注がれる視線の数々は気にしない。気にしたら負けだ。そのまま冒険者ギルドを離れ、ほど近い路地に入った俺は周囲にウィーディ以外いないことを確認して、盛大に吐いた。


「ぅうっぷ……」

「ユニ!?」


 幸いなことに、こちらに来てから何も食べていないから胃の中は空っぽだ。少しの胃液を吐いて、落ち着いた俺は魔法で水を生み出し、口をゆすぐ。

 あー、きつかった。あんな大勢の前でハッタリかますとか二度とやりたくないわ。ちょっと大げさすぎるんじゃないかって? この、馬鹿野郎ッ! 俺はな、このクソみてーな名前のせいで散々悪い意味で衆目を集めてきてんだ。だから、俺は注目されるのが大っ嫌いなんだよ!


「大丈夫? ユニ」

「ああ、大丈夫……」


 ウィーディの優しが沁み渡るぜ……。よし、回復した。してなくても回復した。そう思い込まないとやっていけねぇ。俺の心の傷を抉ったあいつらとそこのお前。覚悟しとけよ。俺の“嫌がらせ”ってのいつか見せてやる。

 背中をさするウィーディのおかげか、吐き気はすぐに治まった。もう疲れたが、折角鍛冶屋の場所を聞いたのでそちらに寄ることを優先する。もう宿屋は受付嬢から聞いたところでいいと思う。


「ありがとう、ウィーディ」

「ユニ」

「なんだ?」

「……後でいい」


 いや、何さ? そう言われると余計気になるじゃない。だがしかし、女性に強引に迫る輩は嫌われる。ていうか怖い。俺はたった今、それを体験した。俺は女じゃないが。


「それでは鍛冶屋に向かおうか」

「うん」


 ウィーディに支えられるように立ち上がった俺は、脳内マップに受付嬢から聞いた鍛冶屋をピックアップし、その方向へ進み出した。

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