第6話 仲間ができた

 仲間……? え? ちょっと待ってくれ。いきなりすぎないか。俺たち出会ってまだ一時間も経ってねぇんだけど。簡単に人を信用し過ぎじゃない? チョロすぎるぞ。だから騙されるんだ。


「あー、えっとですね……なんでですか?」

「ユニは信用できるから」

「簡単に信用しすぎでは?」

「そう?」

「はい」


 ちょっと危機的状況を脱する手助けをして、人生の助言をして、手枷を外して、才能を見つけただけじゃないか。……いや、結構やってんな。弱った心に過剰な優しさは危険だとあれほど……。馬鹿は俺だったらしい。相手が美人だからって調子乗ったかもしれない。


「俺、頼りないよ?」

「ううん。ユニは頼りになる」

「弱いし」

「これから強くなればいい」

「男だし」

「うん……うん?」


 お? これは……。流石にいきなり男と行動を共にするのは怖いよな。さっきまでその男どもに追いかけまわされていたんだから。精神的に辛いものもあるだろう。ククク、これで俺は自由の身だ! アッハッハッハッハ! ってさっきから頬をつつくな!


「ユニが、男?」

「そうですけど」

「まぁいいや」

「いいんかい!」

「?」


 しまった。思わずツッコミを入れちまったぜ。まさかほとんど悩む時間も無く結論を出すとは……。ウィーディ、恐ろしい子……! いや、マジで心配になるレベルなんだが? 少しは警戒心ってものを持ってほしい。


「いや、流石にそれは……」

「だめ?」


 ウワァー! 上目遣いは卑怯だって。目を合わせようとしないで。恥ずかしいから。もう俺の負けでいいよ! ギブギブ!


「……ウィーディさんが嫌でないのなら」

「ユニなら大丈夫」


 はい、俺の孤高の自由は死にました。だぁぁ~。あ、光ってたのが消えた。……ふん! ……光った。魔眼は任意で切り替えできるらしいな。俺はまた賢くなってしまった。はぁ~。


「改めて、よろしく、ユニ」

「こちらこそよろしくお願いします」


 ニコリと微笑む笑顔が眩しい。穢れた俺が浄化されそうだ。そしたら何も残らないな。ハッハッハッはぁ~。なんだろう。仲間ができたのは嬉しいことのはずなのに、この寂寥感は。……ま、いいか。

 俺は早々に現実を受け入れてウィーディとのパーティ編成を考える。ウィーディの見せた才能を考えると前衛は確実だが、今の装備はあまりにも心細い。


「……どうしたの? ユニ」

「金、足りるか……?」

「ユニ?」

「まずは装備を揃えましょう」

「うん?」


 脳内マップで目途をつけた鍛冶屋などの場所を目指し、俺は歩き始める。その後ろをウィーディはついてくる。裏道を通って目立たないように俺たちは進んだ。

 何でって? 簡単さ。ウィーディの装備はボロい貫頭衣のみ。これじゃ前衛を任せるどころか、同じパーティに装備すら買わせない極悪人だ。俺はそんな外道とは違う。断じて違う。俺はただ性格がひねくれているだけなのだ。


「とうちゃーく」

「ここは?」

「古着屋。まずは普段着を見繕う。そのままじゃ生活もままならないですから」


 俺の分はボロリュックに入っているらしいと脳内から情報を得ているのでモーマンタイ。とりま、四、五日分を買い込むぞ。へーい、そこの看板娘さんよ~。


「あ、あの、すいません……」

「なんでしょうか?」

「その子に合うサイズの服を探しているのですが……」


 俺は古着屋に入り、店員を頑張って捕まえて丸投げする。幸いにも店員は俺やウィーディを見ても何も言わず、むしろ丁寧なくらいに提案をしてくれた。値段もかなり良心的で、五日分の衣服が靴も付いて銀貨二枚で収まった。

 すまん、これが良心的とか知らんわ。でも、俺の研ぎ澄まされた嫌がらせセンサーが反応しないから大丈夫だろう。あ、ちなみにウィーディはお着換え中です。


「ユニ、どうかな?」

「とても似合っていると思いますよ」


 ごめん、本当にごめん。俺は女子を褒めるスキルとか持ち合わせてないわ。これ以上の言葉は出て来ねぇ。店員さんの視線が痛いぜ。


「では次に行きましょうか」

「次?」

「ウィーディさんの装備ですよ」

「あー」


 あー、じゃないんだなぁ。ボケッとした顔で口開けてて可愛いけども。ていうか、ウィーディって意外と内面が幼い感じ? 簡単に泣きそうになるし、やたら素直だし。見た目とちぐはぐなんだよなぁ。

 俺は脳内マップを頼りに鍛冶屋を探す。何軒もあるので、それらをハシゴするつもりだ。きっと運命の出会いというものがあることでしょう。フラグの建築はばっちりだ!


「ここもハズレかぁ~」

「元気出して、ユニ」

「ええ、ありがとうございます」


 うっひょお! 慰められちゃった嬉しい~! じゃなくて、ちょっと鍛冶屋を甘く見てた。新米の若造二人に武器や防具を見せてくれるようなところが今のところなかったのだ。どれも頑固ジジイみたいなのが俺たちを見てすぐに「出て行け!」って騒ぎやがる。クソが。この世界は神も含めてクソジジイしか居ねぇのかよ。


「冒険者ギルドに行って聞くかぁ」


 わからないことは誰かに聞く方がいい。もちろん自分で調べたりするのも大事だが、それで時間ばかりかかっていたら元も子もないのだ。そもそもネットに載ってないようなことも多くて、「マニュアルを寄越せッ!」と、何度切れそうになったことか。ま、非定常業務なんてそんなものさ。

 予定が大幅に狂ったことを呪いながら、俺はそのことを伝えようとウィーディの方を向くと、そこには目を輝かせているウィーディの姿があった。


「ギルド……!」


 はーあ、嫌な予感しかしねぇ。

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