第21話 自称大人
ロナンドから精霊の加護を引き継いだシキの仕事は、樹海から魔獣がレボーク王国へと侵入しないように防衛することだ。
本来なら樹海の傍から離れずに対応する必要があるが、332年ぶりの日本語を理解する正当なマスターであるシキなら離れても問題なかった。
シキの視界に広がる拡張画面には、
リーコンの索敵能力は数キロにも及び、魔獣の接近を一早く察知可能。
332年でカンストするほどに溜め込んだシステム内通過
どれも先代のロナンドたちには出来なかったことだ。
エリンが他の冒険者やギルドの職員と話し始めたので、シキは併設された酒場の隅の椅子に座ってスプリガンたちに指示を与える。
と言っても樹海の防衛は各自スプリガンに一任しているので、今は特別任務を任せているリファへと意識を向けた。
〈SG-061 リファ・ロデンティア〉は情報収集能力に特化したスプリガンである。
リファは暗殺されかけた王女の護衛と諜報活動を兼ねて、リファを親機として展開したドローンが王城の至る所に配置されていた。
ドローンは鼠型ロボットでその数は丁度百機。
他のスプリガンでも飛翔型のリーコンを索敵用として散布できるが、その数は一機あたり数個だけだし、索敵範囲や稼動時間といった性能面でもリファのものより劣っていた。
またリファのドローンは地を這うように移動するため、リーコンより敵から察知されにくい。
ただしこの世界においてはスプリガンに関わるものすべてが〈非表示設定〉にできるため、隠密製についてはどれも看破不可なのだが。
ちなみにリファを連れ出すと樹海の守りが薄くなるので、ガチャを回して新たなスプリガンをお迎えしようとしたのだが、現スプリガン全員(とエリン)から猛反対を受けた。
コアAIが女性型ばかりなので、ワンチャン男性型、もしくは動物型を狙っていたシキの野望は潰えた。
『リファ。王女の様子はどうだい?』
『にぃに! 今のところ実行された暗殺はないよ』
シキが周囲に聞こえないよう小声で、そして万が一内容を聞かれても分からないよう日本語で音声チャットを使う。
すると幼い少女の上ずった声で返事があった。
『実行はなくとも計画あるってこと?』
『うん。エンフィールド領での襲撃は第二王子の指示だったの。王女が無傷で帰ってきたから、依頼した暗殺ギルドの連絡役を呼びつけて怒鳴ってたよ。後で映像ログを送るね』
その様子はドローンによって一部始終が撮影済みであった。
これも索敵に特化したリファの専売特許である。
『暗殺者ギルドなんてあるのか。というか王城に直接呼びつけるって大胆だなあ』
『第二王子の寝室まで招き入れてるから、外には絶対漏れないと思ってるみたい。連絡役は表向きは第二王子の情婦で、サンルスカ侯爵家の長女なんだけど、この侯爵家自体が王家御用達の暗殺者ギルドの隠れ蓑になっているの』
『王家御用達なのに王家内の争いごとに使われてるのか?』
『サンルスカ侯爵家こと暗殺者ギルドが第二王子の派閥に肩入れしてるの。第二王子を次の王にさせて、表の実権も握ろうとしてるみたい。最初は真面目に打ち合わせしてたけど、途中から行為に夢中になっちゃって―――』
『ちょ、ちょっと待って! 行為ってリファ見てたの!?』
『もちろん。だってそれが私の仕事だもん』
リファのコアAIの外見はシキよりも幼い少女で、銀髪ツインテールと吊り上がり気味な目でこちらを挑戦的に見つめる姿が特徴的だった。
そんな彼女に男女の情事を監視させたという事実に、シキの背筋に冷や汗が流れる。
『ご、ごめん。監視するということはそういう内容もあるよね。すぐに違うスプリガンに変更するから―――』
『にぃに! 私を子供扱いしないでくれる? 外見はロリだけど中身はちゃんとしたレディなんだから。それにAIを人間の倫理観に当てはめても無意味よ。生まれた直後から精神は大人だし、実年齢なんて332歳なんだから。作品に登場する人物は全員18歳以上なの!』
『うーん、そうかな……』
『そうなの! 私は大人なの。だからにぃにの情婦になって行為を楽しむことだって出来るんだから』
『それは全年齢版だから不可能だよね?』
『……ちっ』
聞こえてきた舌打ちは確かに見た目相応の少女からは出ないなと思い、シキは苦笑いするしかないのであった。
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