いつも誰かが――


「ま、魔獣の天辺がやって来やがっただと!?」



アルアの報告を受けて血の気が引いていくケール。



「驚くのは後です!ケールさんは人員揃えて撤退を!!


魔法使いの方々の指揮は私が執ります!

全員で高台へ、その後は街全体に結界を――」



「それじゃダメだ……!」



「時間がありません!

オルネアさんは既に戦闘中です、あの人が突破されたらここは血の海になります!

結界を張り終えたら魔法で援護しないと!!」



「……ダメなんだ……」



「もうッ!!さっきから何がダメなんですか!!」



「ここの魔法使いは学校出たばっかりの、……初戦場なんだ」



「なっ――!?」



アルアが驚愕するのも無理はない。


見聞きしてきたいづれの前戦でも、実戦未経験者の雇用などしてはいなかった。


あの魔獣を前に魔力の海を揺らさず、

正しく、強く詠唱できる者がどれほど居ようか……。


圧倒的に経験が足りない。

悪く言えば、使い物にならない。



――それでも。


この先の景色を見たいから――。



「……では、全員連れて撤退を。

あの魔獣は私とオルネアさんで食い止めます」



「それこそ無茶だ!!たった二人で敵うモノかよ!」



「どうせ全員で逃げたって、追いつかれた端から食い殺されるだけです。


私とオルネアさんなら、無傷とはいかずとも死ぬことはないでしょう。


ケールさん。

進むことだけが生きる道ではありません。

偶には退いて、更なる勢いを付ける必要もあるんです。


だから、行ってください」



五千の兵と、非戦闘員を含めて八千名を預かる身。

そんな立場で何も出来ないなんて事が在っていいのだろうか。


くるりと身を翻し、死地へと駆けていくエルフの少女を見送って……。


一介の冒険者だった頃が過る。


――抗うことを諦めた時、誰かが犠牲になった。

――背を向けて逃げた時、誰かが犠牲になった。



――犠牲になったのはいつも、俺以外の誰かだった。



撤退命令を叫んだ後――。


何名かの戦友に声を掛け、ケールは覚悟を決めた。

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