そこに在る脅威


質素とは言い得て妙だった。


ギリギリ失礼にならない表現、これ以上ない謙遜の意。

それをぶち壊したのがアルアだ。



「なんふぉないれすねふぉふぉ

(なんもないですねここ)」



口いっぱいに料理を頬張りながら無遠慮を働くエルフ。



「奪還作戦の折に壊滅した中央特区、その廃墟を利用してこの城を作ったのさ。

その頃はまだ綺羅びやかだったんだがなぁ……。


前戦都市建設の為に何もかもが入用になった。

金属は溶かして武具に、装飾は崩して魔法の触媒に……。

そんなこと繰り返して、気づいたらコレだ。


食いもんだけは良いのが揃ってるがな?」



アルアの食いっぷりにニカっと笑うリトヴァーク。



「いはぁほんふぉにすふぉいですよ!

(いやぁ本当に凄いですよ!)


ひょうかまちのたふぇものもおいふぃふぁったですふぇど

(城下町の食べ物も美味しかったですけど)


ここのふぁあぶりゃののりやがふぁんちふぁいふぇふ

(ここのは脂の乗りが段違いです)」



「見苦しい」



「うぐッ!?――み、みふ(水)!!」



オルネアの小突きに喉が詰まり、やっと話が前に進み出す。



「リトヴァーク王、折り入っての相談があります」



「聞こう」



焼け落ちた城塞都市、その原因。


矢を通さず、魔を弾く、大いなる者。


――ドラゴン。



「ランヴェルが落ちた、か……。

直ぐに偵察隊と哨戒を含めた討伐隊を編成しよう。

前戦都市から二個手前だが、放っておけば魔物が根城にするからな。


……確認だが、そのドラゴンと呼ばれる魔獣は既に討伐したんだな?」



「遺骸に相当するものは何もない。

だが信じてほしい。

この剣にて彼のドラゴンは殺した。命の一欠片も残さずに」



「それについては私が保証しますよリトヴァーク王。

途中からですけど、ドラゴン討伐の様子を見て記しました。

後ほど複写してエメドリエ執政官にお渡しします!」



「アルファール殿の保証付きならあの偏屈も信用することでしょう。

勿論オルネア殿も、強さに於いては既に実証済みだ。

二人の報告には箔が付いている」



少し間を開けて話し出すリトヴァーク。



「……役立たずなりにも人の、民の上に立ってきた。

だから理解できる。

オルネア殿の真意がな」



達観と諦観の繰り返し、その果て。



「前触れ無く空より降りて、何もかもを焼き尽くされる。

それが明日なのか、明後日なのか、……それとも今日なのか。

確かに、知ったところでどうしようもない事だ……。


各都市国家に秘密裏に通達させることを約束しよう。

炎の気配あれば直ぐにでもその旨を伝える」



「感謝します、リトヴァーク王」



深く頭を下げるオルネア。



「時に尋ねるが……、何か急ぎの用事はあるかね?」



「急ぎではありませんが、各地を転々と旅してドラゴンの痕跡を探しに行きます」



「ふむ。……実はな。

前戦都市を始めとする生活限域の拡大が切迫、緊迫している昨今の状態を打破すべく、

とある作戦を立案している最中なのだ」



――生活限域。

人が住める安全な地域、その境界線を生活限域と言う。

各前戦都市は魔物、魔獣、境界線を越えてやってくる脅威を押し留める役割を担い、

日夜、人と魔の境界線を押し上げるべく死闘を繰り広げているのだ。



「その作戦というのが大規模召喚陣を用いての戦力補給、というわけだ」



「召喚陣……」



「魔力生命体を生み出す儀式ですね。

込める魔力が膨大なほど生み出される物も強力になります。


召喚対象は概念ですか?それとも神話を?」



「流石はアルファール殿だな、既にそこまで目測を付けているとは……。

話し合いの結果、神話を元に召喚対象を吟味中だ。


そこで、ひとつ相談なのだが……」



――アルア謹製、ジ・アルファール。


リトヴァーク王からの依頼を遂行すべく、オルネアは装備品の点検を抜かり無く。

アルアは糧食、野営、魔法触媒の為の備品を大量購入。


宿の床に並べられた品をそれぞれの装備品に組み込んでいく。


簡易的な袋に装備品を入れ込むオルネアだったが……。

既にその容量は限界まで達しており、全て入り切らないのは目に見えていた。



「……アルア」



「ダメです」



「そんなにデカい物背負ってるんだから入るだろ?」



「刃物とかは入れられませ~ん。中の書物が傷ついちゃうんですから。

オルネアさんも魔法倉庫開ければいいじゃないですか~」



――魔法倉庫、"レイ・ア・デフォージ"。

出し入れ自由の個人空間。

空間の広さは個人の魔力量に比例。

とても便利な魔法だが習得にはコツがいる。



「一度開けた……だが……」



「……あ、もしかして……開け方忘れちゃったとか……?」



ドラゴンをも倒す圧倒的な強者が見せる、恥じらいの顔。



「えへっへぇ……一緒に唱えます?呪文?」



「文言だけでいい!」



教えられ、後ろ手に呪文を唱えるオルネアだったが……。

その後に響く魔力の音を察するに理は結ばれなかったようだ。



「時間はありますから、ゆっくり練習していきましょ!

なんてったってこれから向かう場所は東の果て!


人界の守護神降臨!その為の依代探索!張り切って行きましょう!」



「……二つ返事で受け入れたが、そうだったな。

お前も一緒ということを忘れてた……」



少々肩を落としつつ、夜明けのアーヴァンを発つ。





――その頃、王城リトヴァークでは。


玉座の間で剣を手に、ひとり佇むリトヴァーク。



「切り開く強さ、よろずを見通す目。

あの二人なら確実に見つけられるだろう。


それにしても……。


……平和はヒトを駄目にするよなぁ?ひっはっは!」



引き攣るような笑い声が質素な王城に木霊した。

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