第41話

憧れていた瞬間だった。

このシーンを何度夢見ていた事だろう。

「菅野、俺と付き合ってくれないか」

放課後の屋上には望奈と悠真以外誰もいない。

悠真は真剣な表情で望奈を見ていた。

望奈にはその視線がとても痛い。

「どうして莉子を泣かせたの?莉子は入学してからずっと高原君が好きだったのよ」

「菅野」

「簡単に言わないでよ。別れるなんて…… 」

いつの間にか望奈の頬を涙が伝い落ちていた。

「簡単じゃないよ!莉子の事が好きだった。でもいつの間にかお前を好きになっていたんだ」

悠真は真っ直ぐな目で望奈を見て言った。

「ごめんなさい。私には付き合っている人がいるの」

望奈は静かな声でその事を伝えた。

「俺は諦めないよ」

「ごめんなさい」

望奈はそのまま駆け出した。

給水塔の裏手に来た途端に涙が溢れ落ちる。

声が漏れないように手で唇を覆う。

莉子の涙の上に自分の幸せを重ねるなんて出来ない……!

望奈の脳裏に暖の哀し気な瞳が浮かんだ。

それに私には暖がいる。

望奈は左手首のブレスレットを見つめた。

だがだんだんとブレスレットが霞んで来る。

高原君……!

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