第26話
「
警察官をやってる
今まで気づかなかった…。
だから私のことを知ってるって…。
「それじゃあ仕事に移らせてもらうね。若頭」
「ああ」
すると蓮さんは彼女の手首を掴んで、乱暴に引き寄せた。
「一緒に来てもらうよ。不法侵入の現行犯逮捕ってことで」
「なっ…!」
「それから誘拐もかな。…それじゃあ行くぞ」
「いやよ! いやっ! 助けてよ、お姉ちゃん!!」
そう呼ばれても私は助けようとしなかった。
千都さんの腕にしがみついて顔を伏せる。
私に妹なんていない。
あの子が言ったのよ。
「お姉ちゃんなんかいらないんでしょ」
そういうと彼女は顔を真っ赤にして、騒ぎながら連れて行かれた。
静かになった瞬間、肩から力が抜ける。
なにかがようやく終わったことだけがわかった。
あとは本当のことを聞くだけだと、私は千都さんを見上げた。
自分たちの部屋に移動をして、向かい合わせに座った。
夕日が差し込む部屋で、千都さんが重い口を開く。
「まず怖い思いをさせて悪かった。ほんとにごめんな」
膝に手をついて頭を下げる千都さんに、私は首を振りながら頭をあげるように伝える。
「謝らないでください。それよりも何がどうなっているのか教えてもらえませんか…?」
両親のこと。
彼女のこと。
それから私がここに来た理由。
それらを知らなくちゃいけないから。
「ああ。全て話すよ」
そして千都さんは話し始めた。
優しくて残酷な私に起きた出来事を。
まず教えてくれたのはシグさんのことだった。
千都さんと両親が知り合いだったということではなく、シグさん…
蓮さんは
シグさんは霧島組に潜入捜査をしている警察官だと教えてくれた。
千都さんだけじゃなく、みんなも警察官だと知ってるから潜入にはなっていないのだと思うけど…。
でもそういう理由で、蓮さんはシグさんとして霧島家にいるらしい。
ことの始まりは、彼女…さやかの養父の会社が倒産の危機にあったことらしい。
そして、私の父さまがさやかの父親であることから、借金の連帯保証人になるように脅したとか。
その借金は闇金で、逃げ出した彼女の父親に代わり、保証人である父さまが全額支払ったとか。
しかし、すぐに借金を返済してしまったことに腹を立てたさやかの養父が、逆恨みを始めたと。
父さまの会社に嫌がらせなどが多発し、命まで狙われたために私が中学生の頃に父さまたちは社長を退いたらしい。
そのときだった。両親から『倒産した』と聞かされたのは。
そして今、命を狙われている両親のことを蓮さんが霧島組に相談したのが始まり。
父さまと母さまが私を置いていったのは命の危機にあったからで、『借金』というのは私がヤクザの家にお世話になる理由だったらしい。
ただヤクザに保護されると言われたところで、信じないだろうという気遣いみたいだけど…。
だから『倒産した』と伝えたとか。
そうすれば借金がおのずとあるのを察し、借金の肩代わりなら納得して霧島組で生活してくれるだろうという思惑だったらしい。
さすがは会社を経営していた人たちが考えるだけある。
先を見越して、私の性格も把握して、どう伝えれば大人しく私が暮らすのかがわかっていたのだろう。
これが普通に伝えられていたら、私は親に会いたがったし、ヤクザの家は怖くて逃げだしていたに違いないから。
「両親が迎えに来れなくなった…っていうのは…?」
「お前の親父さんが病に倒れたんだ。今は大事ないけど、今はまだ病院を出ることができないんだよ」
「父さまが…」
「近いうちに会わせてやるから安心しろ」
大きな手のひらが頭をなで、私はこくりとうなずいた。
「あ、の迷惑かけて…ごめんなさい」
「迷惑なんかじゃねぇよ。おかげでお前と出会えたんだ。感謝しかねぇだろ」
なんだか千都さんが甘い。
さらっとかっこいいことを言うけど、言われる私は平然とできなくて、顔が熱くなる。
好きな人にそういう風に言ってもらえるのがとても幸せだ。
でも安心した。
父さまたちに捨てられたわけではなかったんだ。
ずっと大事に守られて愛されていたんだ。
でも昔のように私は傲慢な気持ちは持ち合わせていない。
霧島組で生活して、千都さんを好きになって、いろいろ学んだ。
この『嘘』がなかったら私は昔のまま傲慢だったかもしれない。
この家に来たから私は変われた。
好きな人に出会って幸せになれた。
それがとっても嬉しい。そして感謝しかない。
「父さまたちにもいつか会えると嬉しいです。成長した私を見てほしいし、千都さんとのことお話したいです…!」
「じゃあ今度、挨拶がてら新婚旅行にでも行くか」
「どこにいるんですか?」
「それはあとでまた教えるよ。それより今は……」
千都さんは私を抱き抱えて、胸元で私を見上げた。
「ゆきとさ…」
「最近ゆっくり出来てねぇから、今日は…な?」
「ッ……」
恥ずかしさにまぶたを閉じると、こくこくとうなずく。
そして畳の上に押し倒されれば、千都さんは男の顔で私に触れ始めた。
久しぶりの二人きりの甘い時間に、今日の恐怖はしっかり塗り替えられた。
きっとその恐怖を取り除こうとしてくれたんだと、優しさに胸がまた熱くなった。
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