第25話

 シグさんが出ていってから頭を悩ませた。


 私のことを知っているってことは、どこかで会っていたことがあるってこと?


 時雨さん…なんて知り合いいないし…。


 でも親の知り合いの可能性もあるけれど…?


 暴力団と知り合いだったってことはありえるのかな…?



「わからないよ…」


「なにがわからないんだよ」



 そんな声が聞こえて扉が開いた。


 千都さんが入ってきて、私のそばに座る。



「…シグさんが」


「時雨に何を言われたんだ」


「……霧島組はお金なんか貸さないって」



 そう口にすると千都さんは深く息を吐いた。


 それが肯定に見えて、目に涙が浮かぶ。


 シグさんの言ってることは本当で、私がここに来た理由はじゃあなにになるの?



「あのな、結愛…」


「千都さーん。どこー?」



 千都さんが口を開こうとしたタイミングで、廊下から声がかかる。


 体がビクリと震え、さっきされたことを思い出して千都さんの腕を掴んだ。


 千都さんは私の肩をさすりながら、抱きしめてくれるとひそひそと耳元で話す。



「本当のこと話すよ」


「ぇ……?」


「そばにいるから、あの女と決着つけよう」



 戸惑いながらもこくりと頷けば、千都さんは声を上げた。



「俺ならここだ」



 その声にパタパタと足音が聞こえ、扉が開かれる。



「千都さ……ッ!?」



 私を見て驚愕する彼女から視線をそらすと、千都さんが私を背後に隠すように立ち上がった。



「おまえが結愛じゃないことは最初から知っていた」


「なっ…! でも本来は私があなたのお嫁さんなのよ! その子はちがうの!!」



 彼女の叫びに私は閉じていた口を開いた。



「それはどう言う意味? 千都さんの婚約者じゃないでしょ…?」


「あんたの親が余計なことをしたのよ!!!」


「父様と母様が…?」



 意味がわからず首を傾げると、彼女は前髪をぐしゃっとさせながら歯を食いしばる。



「ねぇ、どういう…」


「うるさい!! こんなイケメンだったら私だって喜んで来たのに!!」



 ……?


 本当に何言ってるの…?


 本当に理解できないんだけど…。


 イケメンって…千都さんのこと…?



うるはさんも千都さんもとられて、同じ顔なのになんで!!!」


「言ってる意味がわからないんだけど…」


「だから! 倒産したのは私の父の会社で、あんたの父親の会社じゃないってことよ!」


「え…?」



 どういう意味…?


 父様の会社は倒産してない…?



 でも父様は社長じゃなくなってるし、母様も勤めをしなくなっていた。


 二人から倒産したって言われたし…。


 そして私は借金の肩代わりで霧島家に来たんだ。



「あんたの親がうちの親の連帯保証人になんかになってるから!」


「で、も…父様は社長じゃなくなって…」


「そんなの知らないわよ! あーもう! 最悪なんだけど!」



 バーッと喋られたけど理解ができない。


 わかったことといえば、私の父様が連帯保証人になっていたってことだけ。


 なにかで連帯保証人になっていたから、借金を背負って私がその肩代わりに…ってこと?



「あんたの親はどこにいるのかもわかんないし! お父様が探しても見つかんないし!」


「お前らの目につかないところにいるからな」



 千都さんの言葉に視線を向けると、彼は私に振り向いて頭を撫でた。



「今まで黙ってて悪い」


「いったいどういうことなんですか…?」


「お前の親と時雨が親しいんだ。その時雨に頼まれて、霧島組が手を貸した。それだけだ」


「シグさん…?」


「詳細は省くが、結愛の親がこいつの親に恨まれていて、逃亡の手助けが必要だった。だけど結愛を巻き込みたくないからと、この家で預かることにしたんだ」



 つまり私は両親に捨てられたわけじゃなくて、しかも借金の肩代わりなんかじゃなくて…。


 ただ守られていただけ…ってこと?



「あ、の…じゃあどうして私と結婚なんて…」



 そもそもの話が変わってしまう。


 私は借金をなくすために千都さんと結婚したはずだ。


 それが最初からなかったんだとすれば…。



「俺が結愛を好きだったってことと、お前の親が引き取りに来れなくなったってことだ」



 さ、さりげなく好きって…。


 こんな状況なのにうれしい…。


 でも親が来れなくなったって…?



「あのさぁ、守るべきなのは私の方でしょ!?」



 彼女の声に一気に現実に戻った。


 顔を真っ赤に、彼女は拳を握って私を睨む。



「親に利用されて苦しんでる私の方こそ守るべきでしょ!? そして私と結婚すべき!」


「なんでだよ」


「だからっ! 私だって闇金に追われてるの! 親のせいで! だから…」


「だったら時雨に頼んでくんね?」


「しぐれって誰よ…」



 その瞬間、廊下からひょこっとグレーのスーツ姿の男の人が顔を出した。



「俺のことだよー! 久しぶりだねー、さやかさん」



 シグ…さん?


 にしては髪型も服装も違う。


 けど声はそっくりだ。



「なっ…なんであなたがここに…! それに何その声と喋り方…」


「んー。これがここのオレ。二人が知ってんのは…こっちの俺だろ?」



 一瞬で声のトーンが下がり、懐かしい面影が重なる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る