花火(新世紀、夏至祭りを祝おう・準備稿)
かたけ夏海
第1話(なんて野蛮な)
相手を知りたければ、本を貸してみるとよい。
どのように扱うのかで、その
*
「〈一九八四年〉って分かる?」不意にサリが訊ねた。
「ああ、うん」走るバン(やさしいアイボリー色の車体に白の反射材のライン)の後部で彼女と向き合って坐るトムは応えた。「
「そうなのかい?」
サリは驚いたように、片方の眉を上げて見せた。彼女の肩越しの保護フィルムを挟んだ強化ガラスの向こうは格子柄に分割された初夏の田園。穏やかな風景が流れていく。車内灯が点いていなくても、たっぷりと陽の光を受け入れ、だから眩しい(田園では、淡いオレンジ色の大きな機械が、滑るようにして動いて、管理している)。
サリは
「
トムは〝そうだね〟と、小さく肩をすくめて見せ、彼女に続きを促した。
「〈華氏四五一〉は?」と、サリ。再び肩をすくめるトムに彼女は、「紙の燃える温度だ」と(事も無げに)云う。「本を燃やす話だよ」
「なんて野蛮な」
大仰に目を剥いてトムは驚いて見せた。そんな彼の姿に、やっぱりサリは微笑む。
「今日は絵本は寄贈だからね。楽しみだ」
もちろんトムも知っている。状態のいい絵本は少ない。子供の読むものだから。だから、「良い時代だ」彼女の言葉に(喜び)楽しみが混じるのが嬉しい。
視線を膝の上に置いた手に落とす。握って・開いて。
サリは半ば諦めたように、半ば面白がるように、小さな溜め息交じりで、「キミは本当に本を読まないんだな」
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