男爵家の無属性魔法は世界一
極東エビ
魔法学校入学
私の人生は本当に波乱万丈だった。
幼い頃、両親は交通事故でこの世を去った。もともと貧しい生活をしていたからだろうか、親戚たちは得られる財産もない私を引き取りたくはなかった。そうして家は競売にかけられ、私は孤児院で暮らすことになった。慣れない友達と共に、孤児院で約1年間を過ごした。
私が10歳になった頃、ある男がやってきた。彼は清潔なスーツを着て、まるで気に入った品物を選ぶように孤児院の子供たちを見回して、私を含む3人を引き取ることに決めた。
到着してから分かったことだが、彼は国家情報院の人間で、私たちは殺人のための武術を学ばなければならなかった。その日から一日も欠かすことなく訓練が始まった。基本的な運動から始まり、拳銃や小銃の使用方法、大剣を使った短剣術、さらには北朝鮮の方言まで。すべてを学び終えた後、私は仲間と共に船に乗り、北朝鮮へと向かい、金正雲のいる太陽宮殿を目指した。その過程で、私は共に訓練を積んできた仲間全員を失った。
ようやく太陽宮殿に潜入し、金正雲を殺すために拳銃を持ち上げた瞬間、銃声が響いた。それは私が引き金を引いた音ではなかった。
そのまま前に倒れ込んだ。
ついに死ぬんだな。
そう感じた瞬間、そんな思いが胸に浮かんだ。両親を失ってからずっと苦痛だった。何百、何千時間と訓練に費やして人生を無駄にしてきた。生きたいと思えない日もあったが、私は自分を引き取ってくれた国家情報院の人間の言葉を信じて耐え続けてきた。
「この任務が終わったら、普通の人生を送れるようにしてやる。」
誰かにとっては感情を抱かない言葉であっただろうが、私にとって「普通の人生」というのは憧れそのものだった。普通に両親のもとで育ち、学校に通い、就職して、愛する人と結婚し、子供を産み、友達と共に過ごす生活。
私はそんな生活を望んでいた。だから耐えに耐えたのに、ついに普通の人生を与えてくれるはずの目標を目の前にして、任務を達成できないまま目を閉じた。いや、閉じたのだろうか……
***
「ところで、なぜ私はここにいるんだ?」
地面に落ちていた石を拾って投げた。ここ数年、この考えは一度も頭から離れたことがなかった。なぜ自分が生きているのか。しかも、知っている世界ではない。木で作られた古びた建物、白いチュニックに青いベストとショートパンツを着ている自分。まるで中世時代のような場所で、辺境の男爵の子供として生まれ変わったのだ。
「エ…エステル坊ちゃま!」
茶色のチュニックを着た老人が息を切らしながら私の方に駆け寄ってくる。彼は我がエステル家の執事であり、私の世話をしてくれるアルフレッドだ。
「どうしたんだ?」
「どうしたも何も!ご主人様がここには勝手に入らないようおっしゃっていたでしょう!」
息を切らしながらも発音はしっかりしていて、内心で感心してしまう。
「わかった、戻るよ。」
「当然そうしてください!あ、宿題は終わりましたか?」
「終わったかって?」
私を何だと思っているのか。
「やってないよ。」
もちろんやっていない。この世界にはモンスターが存在する。ゴブリンやオーク、ノールのようなモンスターたちだ。そんな世界で勉強なんて凍え死ぬほど無意味だ。それなら、身体を鍛える方が将来のためになる。
「今それを言いますか?」
「やってないことはやってないと言うさ。やったとは言えないだろ?」
「まったく…」
呆れたのか鼻で笑い、私の手を取る。
「さあ、戻りましょう。」
「もう少しだけ訓練しちゃダメ?」
「ダメです。本当にしたいならご主人様に許可をもらってください。」
「現実味のない話だな…」
父は私が身体を鍛えるよりも勉強することを望んでいる。だから父に訓練したいと言えば、怒られて反対されるに決まっている。
「わかったよ…」
私はアルフレッドの手を取り、屋敷へと向かった。
屋敷と言っても2階建ての質素な家だ。この辺境の村だからか、人数もせいぜい50人ほど。そのため貴族の家といっても2階建ての小さな小屋のようなものだ。
「本日の地理の授業を担当するニュギンです。」
授業が始まって、まず浮かんだ感想はひとつ。面白くない。こんな贅沢な感情は前世では一度も感じたことがなかった。いや、正確に言えば感じる余裕がなかった。前世の日課は朝5時に起床し、7時まで30kmのランニングをして食事をとり、夜7時までみっちりと訓練だった。そんな生活では、何かを考える時間などなかった。
「さあ、坊ちゃま、集中してください。」
「はい~」
返事をしてニュギンの話を聞きながら本を見ていたが、眠気が襲ってくる。結局、顎に手を当てて窓の外を眺めた。以前に私がいた森の景色が見える。
両親によると、あの場所は禁じられた森。正確には私だけに禁じられた森だ。理由はモンスターが出るからだという。
「モンスターか…どんな奴なんだろう?」
今まで知っているモンスターといえば、人間らしさを捨てて他の人間を奴隷のように酷使する金正雲くらいしかいない。モンスターというのは、金正雲よりももっと悪辣な奴らなのだろうか。
「いつになったら禁が解かれるんだろう…」
禁が解かれる時期は分からないが、解かれる日に備えてとりあえず身体を鍛え始めた。前世の記憶が残っていたおかげで、始めるのは難しくなかった。ただ、子供の体で過酷な訓練を耐えようとすると、たまにめまいがすることもある。それでもやめるわけにはいかない。強い体には強い精神が宿るものだ。何より、こんな世界では何が起こるか分からないので、自分の身くらい守れるように訓練しておくに越したことはない。
丸10年が過ぎた。村はいつの間にか100人程度の規模にまで増え、2階建ての小屋だった屋敷もいつの間にか立派な貴族の屋敷へと変わっていた。そして変わったのは村だけではない。私の体も10年間の訓練を経て、前世のように屈強な体となっていた。無駄な脂肪ひとつない完璧な体つき。そう、これが本来の私の体だ。
「坊ちゃま。」
白髪がちらほら見えるアルフレッドが私の部屋を訪れ、ノックをする。
「何だ?」
扉が開き、アルフレッドが頭を下げる。
「ご主人様がお呼びです。」
「父が?何の用だ?」
「私も詳しい理由は聞いておりません。」
「そうか。」
まだ家族での食事を終えてからそれほど時間が経っていない。何か話すことがあるならその場で言えばよかったはずだが、わざわざ呼ばれたということは私だけに話すべき重要なことがあるのだろう。
「分かった。」
私は席を立ち、服を整え、屋敷の廊下に出た。
「ご主人様、坊ちゃまをお連れしました。」
「入れ。」
厳かな声が部屋から聞こえてくる。扉が開き、部屋の中が目に入る。日当たりが良く、明るい部屋。デスクの上には羽根ペンとインク、紙が置かれ、近くの本棚にはさまざまな本が整然と並んでいる。敷かれたカーペットを踏みしめながら、私は中に入った。
「よく来たな。」
きちんと整えられた後ろ髪、口ひげだけを残した上品な顔立ち、大きな鼻と男性らしい力強い目。それが私の父、ヒギンス・エステルだ。
「何のご用ですか、父上?」
「まずは座りなさい。」
私はうなずき、暖炉の前にあったソファへ歩いて腰を下ろした。父はティーポットとカップを持ってきてソファに腰掛け、テーブルに置く。
「エドワード。」
「はい、父上。」
父が茶を注ぐ。
「お前もそろそろ学校へ行く年齢ではないか?」
「学校ですか?」
「ああ。」
16歳なら学校に行く年齢だ。いや、もうすでにかなり過ぎている。前世なら8歳から小学校に入学するものだ。
「そういう時期が来たのは確かですが……突然どうしてですか?」
「どうして学校の話を持ち出したと思う?」
「いや、私だって察しはつきますよ。でも、どうして今になって持ち出すんですか?今まで家庭教師で十分だったのに、どうして急に学校の話を?」
私は茶碗を手に取り、音を立てながら飲みながら尋ねた。
「お前が学ぶべきことがあるからだ。」
「学ぶべきこと……ですか?ここでは学べないことですか?」
「これは、指定された場所でなければ学べないと、エル・ハウンドの国法で定められている。」
エル・ハウンドは、今の私たちの家が所属する王国の名前だ。
「エル・ハウンドの国法……」
「これを外で学んだら、家が反逆罪で滅びる可能性だってあるんだぞ……」
「いったい、何を学ぶんですか?」
父は一瞬ためらった後、お茶を一口飲んで喉を潤し、答えた。
「それは魔法だ。」
「魔法ですか?」
初めて聞く話だ。いや、もしかしたら家庭教師から聞いたことがあったかもしれない。私がちゃんと集中していなかっただけかも。
「そうだ、魔法だ。お前ももう16歳になったことだし、都会がどんなものかも一度経験してみるべきだと思わないか?」
「そうですね、まあ……」
「だから、この父さんが資金を出してやるから、人脈も作って、家の名も広めてくるんだ。」
「嫌です。」
私の即答に、父は驚いた表情でこちらを見つめる。
「なぜだ?」
「遠いし……魔法には興味もありません。」
魔法に興味がないというよりは、そもそも本や勉強そのものに興味がない。家庭教師に習うことさえまともに集中できないくらいだ。学校に行けば、間違いなくもっと多くの本や勉強が待っているはず。そんな地獄のような生活にどう耐えろというのか。むしろ、ここでつまらない授業を聞きながら、暇なときに遊びに行く方がよっぽどいい。
「興味がなくても持たせなきゃならん!」
「興味がないのにどうやって持てと?」
父は額を軽く叩く。
「エドワード、よく聞け。魔法が使えるか使えないかの差が身分の差を生み出すんだ。我が家が今男爵にとどまっている理由も、まさにそれだ。」
「え?」
「この国、エル・ハウンドは魔法を重んじる国だ。貴族の子が魔法を使えれば、少なくとも子爵までは簡単に昇れる。しかし、魔法が使えなければ、この父さんのように一生男爵のままというわけだ。」
魔法の有無で決まる階級制とは。
「じゃあ、制度を変えればいいんじゃないですか……うっ!」
話をしている私の口を、父が急いでふさぎ、周りを見渡す。そして誰もいないことを確認してから、私の頭を軽く叩く。
「このバカ息子!王国の反乱を企てているなんて、大っぴらに言う気か?」
「いえ、王国の反乱なんて……」
父はため息をつく。
「とにかく、魔法を学ばなければ、このエル・ハウンドで快適に生きていくのは難しいんだから、文句を言わずに入学しろ。」
「ここで父さんの後を継いで男爵として……」
「行くんだ。」
「はい。」
父が目を見開いたのは、もうこれ以上反論したら殺されかねないという意味だ。私の返事に満足した父は、席を立った。
「では、明日すぐに出発できるよう、アルフレッドに荷物をまとめさせておいたから、明日すぐに出発するんだぞ。」
「え?明日すぐですか?」
「そうだ。今出発すれば、入学式に間に合うだろう。」
「ちょ……ちょっと待ってください、それじゃあ母上には……」
「お前の母上には私がちゃんと話しておくから、心配するな。」
せめて挨拶くらいさせてほしい!
「話は終わりだ。もう行きなさい。」
「はい、父上……」
私は席を立ち、部屋の外に出た。
「ずるいなあ!母上がいない間に私を送り出そうなんて!」
母上は私が幼いころからモンスターのせいで外に出ることをあまり望んでいなかった。今、母上は祖母の誕生日のために実家に行っているところ。父は今をチャンスと見て、私を学校に送り出そうとしているのだ。
「まあ、仕方ないか……」
父の言うことだから、従うしかない。父の命令に逆らえば、私の人生が苦しみで染められることになるだろう。
「魔法学校か……」
私は窓の外を見つめた。モンスターがいるということは知っていたが、まさか魔法まで存在するとは思わなかった。 魔法か……果たして私も学べるのだろうか。
「学べなくても構わない。」
幼いころから身体を鍛えてきた私は、10歳のときから密かに外の森へ行き、ゴブリンやオークをよく退治していた。奇妙なことに、前世よりも身体がずっと軽く、どれだけ走り回って傷ついてもさほど苦にならないうえ、力も前世よりずっと強い。だから魔法を学べなくても、このモンスターだらけの世界で生き残ることはそう難しくないだろう。
「明日と言っていたな?」
魔法学校といえば、地理的にエル・ハウンドの首都ラブリンスに行くことになるだろう。おそらく数日は馬車での生活となるはずだ。地獄のような馬車生活に耐えるためには、あることをしておかなければならない。
それは、その時間中眠れるようにしてくれる地獄の特訓だ。
私はすぐに屋敷の外に出て、森へと走って行った。
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