【第2章-勇者】
第27話:今日も今日とて
先日、リュウは首都から無事エリクサーを持ち帰り、母の病を完全に治療することに成功した。
「さすがはリュウ様です」
「セバスや皆が協力してくれたおかげだ」
「そういう謙虚な姿勢がリュウ様の好かれる所以なのでしょうね」
「おそらく俺のこと嫌ってる奴の方が多いと思うのだが」
「ああ言えばこう言う所も、また可愛らしいといいますか、生意気といいますか……」
「最後本音出てるぞ」
今回の作戦は父グレイ・アードレンの暗殺から始まり、次にマンテスター男爵家を返り討ちにした後、奪い取った資金をもとにエリクサーを購入。そして最後に母を完治させるというかなり長く難しい計画であった。その途中Aランク冒険者、女皇や魔術師、さらに言えば自身を嫌悪する銀髪女性騎士など様々なイレギュラーが出現したものの、リュウの手腕によりすべてが丸く収められた。
そして本日は貴重な貴重な休日である。
「さて……朝食もたらふく食ったことだし、二度寝でもするか」
リュウはカタツムリのように布団に籠った。
普段まったく休暇を取らないリュウだが、彼も一人の人間なのだ。少しは心身を休めなければ、日々の生活において何らかの支障をきたしてしまう。今後も完璧に仕事をこなしてくためには、今日はカタツムリに化ける必要があるのだ。
ちなみに現在レナは、来年の受験に向け優秀な講師の下で勉強に励んでおり、
「先生、ここがわかりません」
「これは超発展問題なので、飛ばしても構いませんよ」
「でも知りたいんです!順位でトップ10に入れば、学費が免除されるんですよ⁉だから教えてください‼」
「は、はいっ」
母は選りすぐりの部下達を率いて領地改革を進めている。
「あらあら。この街道もかなりヒビが入ってるわね~。あとで職人を派遣するから、地図に印付けといてちょうだい。で、貴方はヒビの状態を詳しくメモしといて、職人さんのインスピレーションのために」
「「はっ!」」
「この土地に宿屋とか作れそうじゃない?そしたらまずは建築基準法を確認しなきゃね」
「今すぐ確認させていただきます!」
ギャオオオン!
「アイリス様っ、魔物が出ました‼」
「そんな雑魚は片手でひねり潰せばいいのよ、こんな風に……」
グチャッ。
「……ね?」
「「「「「ひぃぃぃっ!!!!」」」」」
セバスに関しては、母がふるいにかけた元マンテスター男爵家の奴隷達に、使用人としての教育を施している。
「そこの貴方。服装が乱れてますよ」
「は~い」
「返事はもっとハキハキと!」
「はいっ」
「もっと!」
「はいっ‼」
スティングレイはアードレン騎士団訓練場の隅っこで、黙々と“纏い”の訓練を行っていた。纏いとは、以前Aランク冒険者パーティ血の宴のリーダーが使用していた、魔力を全身に纏い身体能力を向上させる技である。
スティングレイは溜息を吐き、青空を仰いだ。
「はぁ……なかなか上手く行かないわね……」
二人旅の途中。
『あの~リュウ様。私はどうすればもっと強くなれますかね?』
『ふむ……確かスティングレイは風魔法を得意としているんだったな?』
『はい。というか風魔法しか使えません』
『なるほど。風属性といえば戦争の際、敵のAランク冒険者が風を全身に纏っていたぞ』
『か、風を全身に……?』
『ああ。結果、攻撃の威力も速さも凄まじく跳ね上がっていた。この技を“纏い”とでも呼ぼうか』
『カッコいいですね‼』
『ちなみにコツとかってわかります?』
『遠くから見た感想だが、なんかマントをバッと羽織る感じで魔力を纏ってたぞ』
『えぇ……』
「マントをバッと……か。よし、もう一回やってみようかしら」
彼女は再びレイピアを握った。
怪しい巨漢が、その姿を物陰からそっと見守っていた。
(リュウ様との旅を経て成長しただけに留まらず、今さらに一皮むけようとしているようだ。旅の中で娘が一体何を経験したのかは知らないが、戦闘力精神力共に、以前とは別人のごとく強靭となった。さすがはリュウ様だ。やはりあの御方に預けて正解だった)
「一体そんなところで何をしてるんですか?シルバ団長」
「静かにしろ。バレたらしばらく娘に口をきいてもらえんのだ」
「だからって、そんなにコソコソしなくても……」
副団長はやれやれといった表情で、訓練に戻った。
その夜、リュウは久々に新調した寝間着に着替えるため、服を脱いでいた。
鏡に映った自身の、痛々しい傷の数々を見て静かに呟く。
「もう“アイツ”と戦い始めて四年か」
(ここまで長いようで短かった……)
リュウの古傷は、たとえエリクサーを飲んでも消えることは無い。なぜならこれらは身体に刻まれたものであり、かつ“彼の魂に深く刻み込まれたものでもある”からだ。
新寝間着に袖を通し、いつものように布団を被る。
彼は比較的寝つきが早いほうなので、目を閉じれば意識がすぐ暗闇へ落ちる。
夢の中にて。
愛刀を拵え仁王立ちするリュウの目の前に、巨大な黒龍が佇んでいた。
睨みだけで人間を死に追いやる魔眼。
一度の羽ばたきで霊峰を消しとばす翼。
如何なる敵をも噛み砕く強靭な牙。
世界樹すら切り裂くほどの鋭利な爪。
そして全てを絶望の淵に叩き落とす破壊的な魔力。
巨龍は長い首を曲げ、その恐ろしい顔を彼に近づけた。
『今日こそ身体を明け渡してもらうぞ……
『そろそろ諦めろよ、クソトカゲが』
リュウは口角を上げ抜刀した。
今日も今日とて、死闘という名の魂の殴り合いが始まる。
この黒龍の名はバハムート。
古から
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