チート日本の大東亜戦争記録

竹本田重郎 

第0話 神の悪戯か

 それは神の悪戯なのかわからない。


 日本は言うまでもなく資源に乏しい貧乏国家と知られた。


 それは平行世界の日本の話であってコチラは違うのである。


 大日本帝国が近代化を推し進めるにあたり、全国各地で資源の調査を行うと、北海道から東北地方の太平洋側にかけて大油田を確認したどころか、一度は枯渇したと思われた金や銀の鉱山から新たに鉱脈が見つかり、石炭までもが無尽蔵に発見された。これらを糧に急速な工業化を進めれば必然的に軍拡へ繋がり、日清戦争や日露戦争に勝利を収めると、世界初の欧州大戦も部分的な参加に留まるが、戦勝国の立場を手繰り寄せる。


 日本は豊富な天然資源を糧に急速な拡大を続けて遂には太平洋に覇権を主張した。現に大戦で疲弊した国々に軽か重か問わないで工業製品を輸出している。東洋の帝国は大金を貯蓄してきた。貿易摩擦が発生すれど自給自足が可能なため、仮に列強諸国から制裁を受けても微細に過ぎず、逆に反撃として中国市場を侵食から保護と称して締め切る。


 20世紀の中盤に差し掛かる頃になると国際情勢は理解し易くなった。欧州では先の大戦で敗北したドイツがヒトラーを筆頭に勢力を増す。ドイツはイタリアのなどとファシスト同盟を構築して英仏への復讐を叫んだ。ソビエト連邦も北欧やバルト三国へ食指を動かしたが、独ソ不可侵条約と日ソ中立条約を締結することで、欧州情勢に局外中立を貫徹する。


 日本は圧倒的な海軍兵力を盾に拡大を続けたが、超大国のアメリカ合衆国が立ち塞がり、日中泰三国同盟を基幹に大東亜共栄圏構想を発表した。アジアひいては太平洋から欧米の植民地支配を取り除き正真正銘の民族自決を得る。己の正義を示さんと仏領インドシナに武力進駐を行うと不可逆的な転換点を迎えた。


 大日本帝国とアメリカ合衆国が太平洋の覇権を巡って衝突する日はもう間もなく。


~1941年12月2日~


 賽は投げられた。


「単冠湾の第一機動艦隊はハワイへ向けて出発、トラック泊地の第二水上打撃艦隊はミッドウェー島へ出発、その他島々から攻略部隊も随時出発の予定です」


「私はいまだに信じられないよ。こんな大艦隊を保持し続けることに何の意味があると思った。まさか出番が来るとは予想だにしていない」


「長官の衝撃はよく理解しています。米海軍ひいては米国政府が最も驚くことでしょう」


「日米開戦の当日にミッドウェーを攻略して橋頭堡を確保する。ハワイも疾風迅雷と攻略してみせん」


 山本五十六連合艦隊司令長官は日米開戦の正式決定を知る。優秀な若手の天才参謀たちを集めた。今からでも直ぐに各艦隊へ作戦行動の修正を伝達する。太平洋が規格外の大洋な故に艦隊は決定の前に出撃を済ませておいた。彼らが作戦海域に到着する前に修正を伝えなければならない。


 日米決戦の構想は10年以上も前から組まれた。日本が太平洋の覇権を握ることは当然と言わんばかり、いかに米国を伏せられるかを研究しているが、日米決戦の勝敗は海戦が左右することを理解する。日本は島国と古来から海洋国家の地位を確固たるものとした。欧州大戦の貢献から南洋諸島を譲渡されると工業力を武器に要塞化を進める。


 とても狭い本土から外洋へ進出を強めた。


 それと同時に大正期の建造計画を基に八八艦隊計画を成就させる。近年の航空機の発展を鑑みて中型空母を多数建造した。巡洋艦以下も戦時型の量産に移行している。石油なんて貯蔵せずとも24時間365日体制で産出と直ぐに精製所に送られた。鉄資源も中国資本と連携して無尽蔵に手に入る。欧米諸国はABCD包囲網を形成すれど何ら意味を為さなかった。


「大艦巨砲主義と航空主兵主義、水雷決戦主義の全てが成立している。私は夢でも見ているのだろうか」


「心中お察しするに余りありました」


「米国も大変です。イギリスを守るために大量の人に物に金を送っています。ドイツがソ連を攻めない英断のおかげです」


「それは我々が後ろ盾になっているからだ。いつかは攻め込むだろうよ」


「どちらにしても好都合に変わりありません。ドイツがイギリスを攻めれば攻める程に太平洋に割くことのできる戦力は減りました」


 この世界の情勢は非常に難解を極めている。


 日本がアメリカと決戦に入る約2年前からドイツはポーランドを電撃的に侵攻した。フランスもあっという間に制圧している。現在はイギリスに照準を絞り込んだ。ヒトラーは東方生存圏を求めてソ連侵攻を狙ったが、独ソ不可侵条約ではなく日ソ不可侵条約の秘密条項が効果を発揮しており、日本は秘密裏に特使を派遣して説得を試みた。ちょうど欧米諸国という輸出先が消えて困っていたところ、対独輸出を緩和する懐柔策を採り、ドイツのソ連侵攻を一時的に延期させる。ドイツにはイギリス本国を脅かしてもらった。イギリスに太平洋の大決戦に横槍を入れるような真似を慎ませる。仏印進駐のようにアジアの英領を疾風迅雷と制圧することが格段に楽となって色々と好都合なのだ。


「陸軍による上陸作戦だが支援体制はどうなっている」


「ご心配には及びません。扶桑と山城、伊勢と日向が英軍の抑えに回りました。上陸支援の機動部隊もおります。シンガポールは1カ月で陥落します」


「フィリピンから重爆撃機が飛来する可能性が排除し切れなかった」


「台湾の各航空隊が先制攻撃を加えます。北部から南部にかけて焼き払い、B-17など爆撃機は飛ぶことすら許されず、戦闘機隊が飛び回って如何なる侵入を認めませんよ」


「よろしい」


「大和と武蔵が間に合わないことが残念で堪りません。改大和型の信濃と豊後、超大和型の朝日と富士が出番を今か今かと待っていた」


「戦艦だけではありません」


「私が大和型を押しのけようと試みた時の計画までもが採択された。資金と資源さえあればどうにでもなるものか」


 大正期から着実に戦力の整備に努めて来た甲斐がある。日本は対米決戦を目前にして世界最高峰にして世界最強最大の海軍を拵えた。海戦の主役たる戦艦は八八艦隊(二度の修正を挟んでいることに留意)を筆頭に新時代の大戦艦を3種の計6隻を押し立てる。新鋭の若手たる空母も正規だけで10隻を優に超えた。現在進行形で戦時量産型空母を建造中で4隻が参加を控える。更に6隻が追加の予定を組んでいた。主役級だけでお腹がいっぱいになるが、巡洋艦と駆逐艦は合計で100隻近くも建造され、深海の暗殺者たる潜水艦も毎月10隻単位で登場する。


「ニイタカヤマノボレ一二〇八」


「各艦隊へ送ります」


「陸軍も電報を送っている」


特に大きな変更点は見出されなかった。


「ミッドウェー島攻略作戦が失敗した時はいかがいたしましょう」


「失敗はあり得ない。太平洋艦隊は真珠湾基地に沈みます。航空基地も連日の猛暑で消耗します。ミッドウェーを落とせないことがありましょうか。絶対に失敗は起こり得ません」


「その時はその時だがハワイ特攻を含んでいる。砂浜に戦艦を座礁させる手筈を組ませた」


(もう無茶苦茶だ。私と樋端は長官以上に呑み込み切れていない。もしかしたら、我々は呑み込むことを拒んでいるのかもしれない)


「とにかく、一度始めたら勝たねばなるまい。初段でハワイを制圧して防御を固め、次段でインド洋を掌握し、次々段で日独連絡線を構築する。ゆくゆくは英本土を協同して落として米本土を窺う」


「もはや止まることはできません」


「大日本は太平洋を越えて大西洋に至る」


 神の悪戯か何か知らないが、本世の大日本帝国は一筋縄ではいかず、太平洋に飽き足らず世界制覇を目論む。これまでの欧米諸国による統治を頑として認めなかった。これよりは東洋の大帝国が支配する時代が訪れる。


 盛者必衰の理を教えてやるのだ。


続く

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