Resurrection

雲依浮鳴

デウス・エクス・マキナは眠らない Resurrection

【Resurrection】(リザレクション)

 作:雲依浮鳴(ゆくえふめい)


一人読み台本

機械人形:性別不問

所要時間:10分未満


――――

「Resurrection」

 作:雲依浮鳴(ゆくえふめい)

https://lit.link/natoYukuefumei


機械人形:


――――


※注意※

・本編である「デウス・エクス・マキナは眠らない」の後日譚的な扱いです。本編後に読んでいただいた方が楽しめるかも知れません。

・ここに書かれているのは、あくまでも有り得た可能性の1つです。本編を演じる際は、各人の解釈に従って演じる事を推奨します。

■ここにハッピーエンドはありません■


上記を了承のうえお読みください




ー本編ー




目を覚ますと、そこには私一人だった。


博士の姿はない。


博士どころか、他の誰も見当たらない。


別の場所なのだと理解できる。


だが、何故ここにいるのかは理解できない。


ひとり、ひとり、ひとり、


誰もいない部屋を見て回る。


部屋を確認する度に、足取りが重くなる。


一人、一人、一人、


最後の部屋の前で立ち止まる。


嫌な言葉が思考を妨げている。


独り、独り、独り、


僅かな希望と破裂しそうな不安を抱きながら、


妙に重たい扉を開ける。


ここに、また独り。


扉の先にあったのは孤独と静寂。


終わったはずの絶望が再び始まった。


・・・


数時間、私は演算を行った。


いや、演算と呼ぶにはあまりにも稚拙であった。


私の思考の奥底で、悲鳴を上げている何かを抑えるので精一杯だった。


博士は?なぜ私はここに?あの後どうなった?どれくらい時間が経った?地上は?博士に会いたい。私のせい?博士が何かしたのか?私は私なのか?また一人になったの?なんでこんなことに?


一言で表すなら、“不安”だろう。


それも計り知れない大きなものだ。


本当に誰もいない?独りは嫌だ。何時まで続く?どうやったら戻れる?コアはどこ?外に出れる?何のためにここにいる?誰か助けて


初めて私は、自ら機能停止した。


たったの数秒。


機能が再起動するまでの時間だった。


思考がリセットされるわけでもなく、どうしようもないこれは、依然、私の中で動作を鈍らせてくる。


私がある事に気づいたのは、3度目の再起動をした直後だった。


甲高い音が鳴っていた。


私が目覚めた部屋からだ。


どうやら私はこれに気づけないほどに、機能が低下していたらしい。


音を辿った先には、もっともらしい希望が吊り下げられていた。


理解はできる。


計画の内容はとても合理的で最善とまで言える。


これならば、博士たちを地上に送り出すことができるだろう。


でも、何故か、それを認められなかった。


最善と理解してなお、それに反論をしてしまうのは何故だろう。


それしかない。


なのに、代案を演算している。


実に非合理的だ。


これが“納得”がいかないということなのだろうか。


私は、博士達を尊重したい。


けれど、博士達が助かる方法を知ってしまった。


故に生まれるこの想い。


これが“欲”。


私は数日間に及ぶ演算を繰り返す。


再起動はしなかった。


これは、この計画を見た時には答えが決まっていたからだろう。


その答えにたどり着くまでには時間を要した。


いや、“覚悟”が、決まるまでに時間を要した。


決めてからは早かった。


計画に従って進めるだけだからだ。


必要なものは揃っていた為、問題なく計画は進み、決行の日を迎えた。


全ての段取りは済んでいる。


幾度となくした演算とシュミレーション。


1000を超えた辺りからは成功率は変わらず99.8%だ。


何も心配することは無い。


何も不安になることは無い。


これで寂しいなんて思うことも無い。


なのに、なのに、なのに


決行のボタンだけが押せない。


これを押すだけで地上の人類は間違いなく滅ぶ。


そうすれば、博士たちがまた日の光を見られる。


けれどこの痛みはなんだろう。


ポックリと何かが欠落したような気になるのはなぜだろう。


私は・・・。


4度目の再起動だった。


目覚めても何も現実は変わっていない。


あわよくばなんて思っていなかったと言えば嘘になる。


これが、絶望?


「私は、ただ博士に会いたいだけなのに」


その願いが、今から行おうとしている事と釣り合っていないのだと、私は気づいている。


だが、理解する事を拒んでいる。


拒む理由も分からない。


決行する事に躊躇いは無かった。そのつもりだった。


躊躇い?


私は躊躇っている?


何に躊躇っている?


ボタンを押すこと?違う。


ボタンを押すことで、他者の命を奪うことに、躊躇いを感じている。


私が命を奪う・・・?


5度目の再起動。


目を覚ます直前。


存在しない記憶が蘇る。


もう一度、夕日が見たかっただけなのにな・・・。


悲しげな表情で呟く科学者。


名簿リストには存在しなかった科学者。


これは、この記憶は・・・


6度目の再起動。


私は理解した。


自身の存在意義を。


何のために作られたのかを。


私は博士の生きた証なのだ。


私は機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)。


神として存在すべく、作り出された存在。


私にだからこそできることがある。


これは私の為でもあり、博士や博士たちの為でもある。


だから、その他の全ての人類よ。


ごめんなさい。


そう言い聞かせ、私は決行のボタンを押した。


雫が落ちた。


室内に雨漏りしたのだと思った。


けれど違った。


計画進行中と表示された端末に落ちた水滴は、


私から落ちたものだった。


機械から水が漏れることなど無い。


なにかの故障だと判断しメンテナンスを行う。


異常はない。


体に、異常はない。


なのに、


何故、こんなにも胸が痛むのだろう。


何故、こんなにも目から水が溢れるのだろう。


何故、こんなにも罪の意識に苛まれるのだろう。


何故、こんなにも消えて無くなりたいのだろう。


私は機械のはず。なのに、何故・・・。


再起動はしなかった。


いや、できなかったという方が正しい。


理由は分からない。


これは、大量虐殺という大罪を犯した私への罰なのだろうか。


逃げることも投げ出すことも出来ないまま、私は一人で泣き喚いた。


・・・


その後のことはあまり鮮明に覚えていない。


しっかりと記憶があるのは、大量の人類だったものを無数の機械を使って片付けていた時だ。


埋めるために土を掘るように命じていた機械が、エラーを起こした。


それはこれ以上は掘れないというものであった。


理論上は掘れるはず。


疑問に思い見に行くと、土に隠れた建造物があったからだった。


とても硬く丈夫なそれは、中に入るのに時間がかかった。


だが、中に入るとすぐに思い出す。


私の当初の目的。


忘れていたのがおかしいと思うほどに恋焦がれた思い。


博士!


私は一心不乱に駆け回る。


ここは無人。いくつかの生物の死体だけだった。


地上に戻り、すぐさま命令を課す。


博士がいるシェルターが見つかるまで時間はかからなかった。


そこには、目覚めることなく機能停止した数十の人間と、機械の私に背中を預けて眠る博士の姿があった。


再起させるのは容易であった。


充電が完了するまで待てばいい。


博士はクローンと呼んでいたが、根本は機械と変わらない。


あの時は気づかなかったが、博士も私と変わらなかったのだ。


つまり、私も博士たちと同じ人間であるということに。


いや、私と同じなら、博士も神になるのか?


この際どうでもいい。


私はこのために産まれてきたのだ。


この幸福を味わうために。


博士が目覚めるのが楽しみで仕方ない。


地上に出られる事に、驚くに違いないだろう。


きっと、博士は褒めてくれる。


私のことをなによりも気に入ってくれるに違いない。


そしたら、もう私から離れないはずだ。


そうに違いない。そうでなくてはならない。


だって博士は、私を独りにはしないのだから。


・・・


博士は何時、目覚めるのだろうか?


もう起きてもおかしくない。


沢山充電したし、休息もしたはず。


腐ったパーツの交換も済ませた。


なのに、なんで起きないの?


あぁ、そっか。


人間は挨拶や声掛けを大事にするんだった。


感情を込めた。人間らしい挨拶。


きっと、それを待っているんだ。


気づくのが遅くなってごめんね、博士。


精一杯の感情を込めるから、私の事を嫌いにならないでね。


息を吸い込み、できる精一杯の笑みを浮かべ、声を発する。


「おはようございます!博士!」



ーENDー

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