国が危機なので勇者を召喚したら2人来てしまいました

さわら

勇者召喚

 それまでずっと、平和な国だった。国の外にはモンスターが蔓延れど、国に張った強力な結界が街をずっと守ってきていた。


 ある日突然、それにヒビが入った。巫女曰く、結界の力を上回る強大な力のせいだと言う。古文書に詳しい国直属の占い師に話を聞けば、他の世界から"勇者"と呼ばれる者に助けを借りるほかないようだ。


 すぐに会議が開かれた。その者にも暮らしがあるだろう。いや、国のためなら仕方がない。

会議は6時間にも渡った。結局巫女の結界はあと3日も持たないという言葉で勇者を召喚することに決まった。


 勇者の召喚は国一番の召喚士に一任することにした。本来なら王である私がしなければならないのだろうが、その日は隣国と会議があった。勇者召喚は満月の日でなければならないのでこれを逃せば次は1ヶ月後。その日まで結界は持たないだろうというのが決め手だった。


 召喚の日、隣国との会議が思いのほか早く終わったために慌てて城へ戻った。丁度召喚の真っ最中であった。しかし、その様子を見て唖然とした。


 勇者が2人いた。


 古文書に勇者が2人だという記述は一切なかった。どちらかは誤って呼んでしまったのだ。だがどちらに勇者の力が備わっているのか、見ただけでは分からなかった。


 召喚士はスーツを着た男と、くたびれたつなぎを着た男を見比べた。そしてスーツを着た男に手を差し伸ばし、共に別室へと去った。取り残されたつなぎの男が慌てて着いて行こうとして、近くの兵士に取り押さえられた。


 ハッとして、慌てて1階にある吹き抜けから、5階下の召喚室まで走った。そして召喚士に事の顛末を聞いた。


 どうやらスーツの男には勇者としての自覚があり、いつかくるであろう日までずっと研鑽を重ねていたらしい。とてもスーツの下に筋肉があるように見えない細身であったように見えたが、召喚士が言うのであればそうなのかと思い、引き続き任せることにした。


 一方つなぎの男は、召喚してしまった手前追い出す事はできず、元の世界に返す方法も知らないのでしばらく城で暮らしてもらうこととなった。



 翌日からスーツの男…勇者が兵士数人を従えモンスターを倒しに出掛けることとなった。見送りの際、結界のヒビが治ってるのを見て、胸をなでおろした。


 討伐隊が帰ってくるまでの間、もう一人のつなぎの男に話でも聞くとしよう。1人では心さみしいだろうから友人となるような者も紹介して差し上げるとするか…。いきなり連れてこられ、困っているであろう彼を持て成すには何が良いだろうか。

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