赤毛
狄
赤毛
今日は、いろんな所へ出かけよう。いつも歩く商店街から、見知らぬ路地まで。小さなポシェットを携えて、玄関を軽快に飛び出す。冬。ふゆ。室内との極端な温度差は、大切な友人と別れ、一人になった時の虚無感に似ているところがある。でも、歩みは止めない。
切符を買う――寂れた小さな田舎駅。片道五八〇円。朝陽を目いっぱいに浴びながら、電車の到着を待つ。ガタンゴトン。的確な表現は正にこれ。早朝、鉄橋を穏やかに走る電車に揺られながら、うたた寝をしよう。大丈夫。目的地は終点だから。
瞼を下ろせば、華奢な体躯のあの子が見える。私が愛した、赤毛のあの子。向日葵も顔負けの笑顔で、雨の日も、風の日も――。
枯れるところで、電車は停まり、私も丁度、目が醒める。
路地裏のカフェ、大通りを突き進んだ先に据える、大きな神社。どれも素敵な思い出でいっぱい。楽しかった。ちょっといい宿を取って、炒飯を炒める中華鍋より、真昼のサハラより、八熱地獄の深部より、アツい夜を過ごしたね。
今日はすごく寒いけど、きっと心は温かい。
君が居たなら、よりいっそう。
のらりくらりと旅をして、最後は浜辺にやってきた。海の向こうは――、そんな他愛もない話に、君は笑ってくれた。
波打ちのリズムに乗って、渚を裸足で駆け踊る。
判然と姿は見えないけれど、妄想でない君は、確かにそこにいる。
赤毛のあの子。白皙の小さなちいさな手で招いて、私を海へと誘う。
「海と、踊ろう――」
幻聴じゃない。あの子の可細い、囁く声が、私の耳を擽った。私は歩く。断る由なし、軽快に。寄れば離れ、気づけば海中。あの子は舞って、私を煽る。可憐に微笑み、私は悶え、遂にはふたり、いっしょだね。
赤毛 狄 @dark_blue_nurse
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