第8話 日独機甲部隊出撃
ソビエトの津波が満州に雪崩れ込んでくる。
極東を赤く染めるわけにいかない。
日独の機甲部隊が出撃した。
「ソビエトの戦車隊が出現した。一気に突破を図る気だろうが通さんよ」
「日本の戦車を援護しろ。大ゲルマンと大日本の連携は崩せんぞ」
日本陸軍の中戦車と軽戦車、ゲルマン陸軍の対戦車自走砲が迎撃態勢を整え、大小さまざまな砲を向ける。最初は敵砲兵隊の圧倒的な砲撃により後退を繰り返したが、紛争が膠着状態に陥ると直ぐに迎撃態勢を整え、ゲルマン陸軍の増援も到着してハルハ河に対峙した。
「戦車前へ!」
「Panzer vor!」
ソ連軍もハルハ河から打って出る。ここに大規模な戦車戦が勃発した。ソ連軍はBT-5とBT-7の快速戦車にT-37軽戦車、BA装甲車など快速車両を多く揃えている。76mm野砲や152mm榴弾砲と45mm対戦車砲などの火砲を押し立てた。いかにも大陸国家らしい陸上の大兵力が牙を剥く。
日本陸軍とゲルマン陸軍は良くも悪くも混成だった。日本陸軍は虎の子の機甲部隊に九七式中戦車と九五式軽戦車、九八式軽戦車を投入する。ゲルマン陸軍は格好の実戦形式の兵器試験と三号戦車A型と四号戦車A型を少数ながら派遣した。あくまでも、主力はチェコ製の35t軽戦車と38t軽戦車が務める。国産の二号戦車は偵察や観測、救助など縁の下の力持ちと活躍した。
「戦車隊を援護しろ! 徹甲弾急げぇ!」
「対戦車自走砲の矜持を見せるんだ! ソビエトの戦車は薄い!」
前方では戦車同士の激しい砲撃戦が行われる。ソビエトの戦車隊は自慢の快速で迅速な突破を図った。日本とゲルマンの中戦車と軽戦車が立ち塞がる。九七式中戦車は八九式中戦車を置き換えたばかりの最新鋭を示さんとした。長砲身の50mm砲を振り上げる。ゲルマン陸軍の50mm対戦車砲を先行して搭載したが、37mm級が主流の中で50mmは比較的に大口径に括ることができ、ソビエトの45mm砲に匹敵する火力を確保した。
三号戦車はトーションバー式サスペンションに代表される最新技術をふんだんに詰め込まれている。最初期のA型は石橋を叩いて渡った。一旦は従来通りの37mm戦車砲を搭載するが、初期不良を解消してから九七式中戦車逆輸入し、50mm戦車砲に換装する予定である。ソビエトの快速戦車と装甲車が45mm戦車砲を装備する以上は一刻も早く換装して火力の差を埋めなければならないが、そう簡単にできることでないため、中継ぎを欲して旧式化した戦車の有効活用と即席の対戦車自走砲を用意した。
「真っ直ぐに突っ込んでくる奴がいるかよ。イワンの素人め」
「敵戦車は擱座したぞ! たたみかけろ! 戦車隊は臆することなく突っ込めぃ!」
「なんという闘志だ。ゲルマン民族が負けていられるか」
「ははぁ! 簡単に燃えやがった!」
BT-5とBT-7は遠距離から正確無比な砲撃を被る。ソビエトの戦車隊は目の前に敵戦車を置きながら遠方より狙撃された。こちらの砲撃が届かなさそうな距離より一方的に嬲られる。堪らずに距離を詰めようと試みれば敵戦車からの砲撃は激しさを増して被害は増すばかりだ。
日本とゲルマンの混成機甲部隊は戦車と対戦車自走砲を巧妙に配置している。敵戦車隊には自軍の戦車隊をぶつけた。その後方に対戦車自走砲隊を置いて敵戦車隊を遠距離から狙撃する。対戦車自走砲は一号戦車の車体を基に開放式戦闘室を設ける構造は簡素を極め、前面に泥除け程度の薄い鉄板を構えるのみであり、側面と背面は風通しが良かった。
(日本製も案外悪くない。対戦車砲に機動力を付与する方針に間違いはなかった。グデーリアン閣下の提唱された砲兵に機動力を与える理論は先進的で…)
「敵弾来ます!」
「衝撃に備えるまでも無い。素人の狙いじゃ当たる距離でも当たらない」
「あぁ! 味方戦車がやられた!」
「嘆いている間はない! 手を動かせ!」
一号戦車は満州開発向けの大型農業用トラクターを装う。再軍備するにあたり戦車の開発から運用までのノウハウを蓄積した。一号戦車は5t程度の豆戦車で主力に用いるに不足は著しいが、A型とB型、改良版も登場して約600両も生産される。いくつかは訓練用に回された。訓練では消耗が少ない故に多くの余剰を抱えてしまい、グデーリアンの提唱で自走砲と対戦車自走砲への改造が決まり、早速とノモンハンの大地に投入されたが、これを体の良い処分と言ってはならない。
一号対戦車自走砲と呼ばれる車両は複数のバリエーションが存在した。チェコ製47mm対戦車砲又は日本製47mm速射砲を装備し、47mmでも長砲身から撃ち出される徹甲弾の貫徹力は高く、臨機応変に榴弾に切り替えることで対地砲撃も担う。旧式化した一号戦車という余剰品の有効活用も「瓢箪から駒が出る」で主力級の活躍を見せた。
BT-5とBT-7が味方戦車と撃ち合っているところへ47mm徹甲弾を撃ち込む。本来は50mm戦車砲か37mm戦車砲に揃えるところ、47mm対戦車砲しか数を用意できる火砲はなく無い袖は振れなかった。47mmでも十分である。ソビエトの快速戦車は高い機動力の代償に装甲は紙に等しく遠距離から一方的に撃破された。それでも45mm砲の火力は侮れず、中戦車、軽戦車は壮絶な撃ち合いの末に多くが擱座を強いられる。
「前進! 前進! 前進!」
「15cmの榴弾を貰いやがれぇ!」
「ここを通すわけにはいかんのだ! 今こそ大和民族とゲルマン民族の絆を見せる時ぞ!」
さらに改造車両が登場すると混成の文字が不適当に思われた。今度は対戦車砲ではない。15cmという大口径の榴弾砲を搭載した自走砲が踊り出た。一号戦車の車体を基にすることは共通している。簡素な戦闘室に15cmの重歩兵砲又は榴弾砲を搭載した。大口径の榴弾は直撃せずとも敵戦車を至近弾で無力化した。本来は観測兵を置いて間接砲撃を担うが、一定程度の自衛に直接砲撃の訓練を積み、持ち前の大口径砲が如何なる状況も解決する。
前面の中戦車と軽戦車は対戦車自走砲と自走砲の支援砲撃より盛り返した。快速戦車と装甲車の隊列が崩れた隙を見逃さない。自分達も負けじとガソリンエンジンを轟かせた。マイバッハ社製のV型12気筒ガソリンエンジンは250馬力を発揮する。
「なんちゅう脆い戦車だ。あれで突っ込んでくるとは気の毒が過ぎる」
「ドイツ戦車隊が突貫を開始しました! 一気にケリを付けようと…」
「まったく、足並みが揃わない。まぁ良いだろう」
「そんじゃ、いきますか」
「全車突撃せよ!」
三号戦車と四号戦車は貴重な戦力と雖も命を惜しまなかった。九七式中戦車と九八式軽戦車、九五式軽戦車が虎の子だろうと関係ない。ソ連軍が防衛線を敷いたハルハ河を渡る勢いで突撃を開始した。日独の機甲部隊はソ連機甲部隊と激闘を繰り広げる。ハルハ河における大規模な戦車戦は数日に渡り行われた。両軍共に損耗が激しく決定打に欠ける。膠着した戦況を変えようと大規模な戦車戦に発展したにもかかわらず、結局のところ、ハルハ河を挟んで睨み合いに落ち着いたことは恥ずべきことだ。
ジューコフは第二次補給を待って大攻勢を仕掛けたいが、本国は北欧諸国やバルト三国への進出を計画し、これ以上の不毛な戦闘は無駄と考え始める。早期の収束を図るために日本側の提示する原状回復案を渋々ながら認める空気が漂い始めた。もちろん、ジューコフは良しとせずに大戦果を求めたが、日本とゲルマンは次なる一手を打つ。
「ノルウェーとデンマークに集団的な自衛の保障を約した!?」
続く
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