心地よい風

翌日、稔は朝の光が差し込む自分の部屋で目を覚ました。眠りから覚めると、外の風が窓を通り抜ける音が心地よく響いていた。空は晴れ渡り、空気も澄んでいる。どこか遠くの街の喧騒が、静かに耳に届く中で、稔は静かに深呼吸をした。


「今日は、何か新しいことをしてみようか」


ふと思いついた。最近、少しずつ自分のペースで生活が変わり始めている。その変化が怖いと感じることもあったが、心地よく感じることも増えてきた。まるで、何かを始めるための準備が整いつつあるような気がしていた。


外に出てみると、街の空気はすがすがしく、心地よい風が稔の髪を揺らしていった。歩くたびに、涼しい風が肩を撫でるような感覚があり、その一歩一歩が新しい世界へと導いてくれているように感じた。昨日までの自分と、今の自分が少しずつ違っていることを実感する。


稔は歩きながら、少し思い出す。あの公園で出会った彼女の言葉が心に残っていた。「小さな一歩でも、前に進むことが大切だ」と。彼女の言葉に勇気をもらい、変わりつつある自分に少しでも納得できるようになった。


公園に到着すると、そこにはいつものように子供たちが遊んでいた。元気よく走り回る姿を見て、稔は何となくほっとした。これも、何かを始める力になるのだろうか。周りのエネルギーが、無意識のうちに自分にも良い影響を与えているのを感じた。


そのまま歩みを進めると、ふと目の前に彼女が現れた。今日は、以前より少し早い時間帯に公園に来ているようだ。


「おはようございます」彼女はいつものように、穏やかな微笑みを浮かべて挨拶をした。


「おはようございます」稔も少し驚きながら答えた。「今日は早いんですね」


「はい、少し散歩してみたくて」彼女は軽く肩をすくめて、柔らかく笑った。「天気もいいですし、気持ちがいいですよね」


「本当にそうですね。風が心地よくて」稔は改めて空を見上げながら答えた。


二人はしばらく並んで歩きながら、景色を楽しんだ。公園の緑が、日に照らされて鮮やかに輝き、木々の間を吹く風が葉を揺らしていた。何も言わずとも、心地よい空気が二人の間に流れていく。


「最近、どうですか?」彼女がふと口を開いた。「前に話した通り、少しずつでもいいって思っていますか?」


稔は歩きながら、考えを巡らせた。自分は確かに、少しずつ変わり始めていた。日々の中で、自分のペースで小さなことを試し、成長を感じる瞬間も増えてきた。それに、周りの人たちとのつながりが、どんどん強くなっているようにも思えた。


「はい、少しずつですが、前に進んでいる気がします」稔はゆっくりと答えた。「焦らず、無理をしないように、でも確実に自分を変えられるようにと」


彼女は満足そうに頷き、「それが一番ですよね」と言った。「無理して急ぐ必要はないんです。大切なのは、少しずつ自分を大切にして歩みを進めることだと思います」


その言葉に、稔はまたもや安心感を覚えた。無理に速く進む必要はない。自分のペースで、少しずつでも確実に進んでいけば、きっと良い結果が待っているはずだ。焦ることなく、今を大切にすること。その考えが、しっかりと胸に刻まれていくのを感じた。


公園の端に差し掛かると、彼女が立ち止まった。「それでは、今日はこの辺で」彼女は穏やかに微笑み、歩き出す準備をした。


「はい、今日はありがとうございました」稔も足を止めて礼を言う。


彼女は一度立ち止まり、振り返った。「こちらこそ、またお話できて良かったです。少しでも元気が出たなら、嬉しいです」


その言葉に、稔は心から笑顔を返した。「本当に、ありがとうございます」


その後、彼女はゆっくりと公園を後にし、稔はしばらくその場所に立ち尽くしていた。心地よい風が背中を押すように吹き抜け、稔はその風に身を任せる。


「少しずつ、だな」


自分の中で再確認したその言葉が、今はしっかりと響いていた。これから先、どんな道が待っていても、大丈夫だ。急がずに、一歩ずつ進んでいけば、それが自分のペースであり、他の誰かと比べる必要もないのだと感じることができた。


その日、稔は再び歩き出すことを決めた。心地よい風に包まれながら、これから始まる新しい一歩を踏み出す準備が整ったことを、しっかりと感じ取っていた。


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