遣らずの雨、開かずの傘③
「なるほどなあ。やっぱり頭いいや、小夜ちゃんは。」
俺は関心してそう言った。小夜子はまたも呆れ顔だ。
「はいはい。で、烏丸くんのことで印象に残っていることは?」
「うーん、さっき言ったように、普段は見た目をすごく気にするやつだ。端正なルックスで、サッカー部とは思えないくらい肌が白い。」
「健ちゃんは結構焼けてるだもんね。もう少し日焼け止めちゃんと塗ったほうがいいよ。」
「それは晴風から耳にタコができるほど言われてるよ。」
俺はハリウッド俳優のように、肩の少し上にあげた両手をひらひらと振った。
「そういえば、今思い出したけど、中学のとき廊下をとても丁寧に掃除している人がいて、それが烏丸くんだったような気がする。」
「そうそう。綺麗好きでもあるんだよあいつは。サッカー部の部室も、男子高校生しかいない部室なんて想像通りの散らかり具合なんだが、烏丸はいつも綺麗に掃除をしている。しかも、誰に言われることもなく率先的にやってくれるんだ。それを見込まれて、今回の代替わりで1年生の会計に指名された。」
「いい子だね、烏丸くん。」
そう、あいつはいいやつなのだ。俺はふと思い出したことを言う。
「烏丸がいつものように掃除していたある日、いちど足が何本か千切れた蜘蛛の死骸が散らかってたビブスの山の影からでてきて、あいつは部屋を飛び出していった、ということがあったな。」
「虫、苦手なの?」
「虫というか、動物の死骸が苦手らしい。なんか、小学生の頃に飼っていた猫が車に轢かれて、それがトラウマだって言ってたな。どうも吐くほど嫌らしいぞ。」
「なるほどね、シャミちゃんも気をつけなさいよ。」
「ああ、気をつけてるよ。」
なにしろ、連続猫引き裂き魔が町をうろついている。普段より輪をかけて気をつけているつもりだ。
小夜子は少し考えるといって、黙ってしまった。窓ガラスに当たる雨の音が、かえって教室の静けさを感じさせる。
と思ったちょうどその時、突然になにかが割れるような音がして、そのあとに。「あーー!やっちゃった!」という聞きなじみのある叫び声が聞こえた。あれはきっと、ドジっ子で有名な英語教師が、また花瓶かなにかを落としてしまったのだろう。
一瞬の緊張と緩和を水に流して、また雨はこの教室に静寂をもたらす。
「そういえば。」俺は突然に言う。
「ん?」
「烏丸も、物をよく落とすんだよ。びっくりすると、手を開いちゃうことがあってな。こないだ、相手チームをマネージャーが分析した紙をみんなで回し読みしていたんだが、そん時に先輩が突然烏丸を驚かしたら、持ってた紙を離したもんだから風に飛ばされて、みんなで必死に追いかける羽目になったんだ。」
その時、小夜子の目がより一層するどくなった。本物のフクロウのような目だ。ショートカットの毛先が少し揺れる。小夜子はふうっと息を吐くと、こう言った。
「......ひどい人もいるもんだね。」
俺はどきりとした。
「ひどいって、烏丸を驚かした先輩のことか?あの人は普段から、後輩をからかって遊んでるんだ。でも、その分面倒見もいいから好かれてるよ。」
「違う違う。」
小夜子は首をゆっくりと横に振る。
「私がひどいと言ったのは、白い猫の腹を引き裂いている人のこと。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます