遣らずの雨、開かずの傘②

 お前、烏丸は知ってるか?


 そうそう、中学の時俺たちの隣のクラスだったやつ。


 そいつが、今朝傘をささなかったんだよ。


 まあ待て、そんな渋い顔をするな。順を追って話す。


 烏丸ってのは、結構見た目に気を遣うやつでな、どんな小雨でも絶対に傘を差すんだ。髪が濡れるのが嫌だって言ってな。


 傘は結構上等な黒いやつだ。折り畳みじゃない。


 知っての通り俺の家の前の通りは右側に歩道がなくて危ないから、左側を歩くんだ。で、高い塀のある交叉点で、俺から見て左の道から、右側の歩道を歩いてくる烏丸と合流する。


 いや、約束をしてるわけじゃないんだが、たまたま家を出る時間がうまくかみ合うのか、その交叉点でばったり会うことが多いんだ。


 それで、今朝も小雨の降る中で例の交叉点で合流したんだけど、あいつはいつもの傘を畳んだ状態で握ったまま、ちょっと不自然な笑みで俺に笑いかけてきたんだ。そしてあいつは、何も言わないまま走っていってしまった。


 そんときはびっくりしたけど、まあいいかと思って、そのまま登校したんだ。でも今日一日授業を受けている間、雨のなかで傘を差さなかった烏丸の顔がどうも気になってた。あいつは、必ず傘を差す烏丸は、どうして今朝だけ傘を差さなかったんだろう。



 ここまでの話をノートにメモを取りながら聞いていた小夜子は、こんなことを言った。


 「健ちゃん、今日鼻声じゃない?」


 「雨の日は鼻がつまる体質なんだよ。いや、そんなことはどうでもいいんだ。どうして今朝だけ傘を差さなかったのか、考えてくれよ。」


 「そう言われても、私は烏丸くんのことをよく知らない。本人と喋ってみたら、何かわかるかもしれないけど。」


 「喋るったって、あいつはもう帰ったぞ。」


 「帰宅部なの?」


 「いや、俺と同じサッカー部。今日は朝も午後もこの雨で無くなった。あいつはまた傘を開かずに持ったまま、ホームルームが終わったら即出てったぜ。」


 「残念だけどまあいいや。とりあえず、今の話で少し気になったところを聞くね。」


 「おう。」


 小夜子は、シャーペンをくるっと回した。


 「まず、烏丸くんは、本当にいつもの傘を持ってた?」


 「ああ、たぶんそうだと思うぜ。」


 「よく似たやつってこともない?」


 「ないな、柄の部分に金色のマークがついてるんだよ、メーカーの。どうしてだ?」


 「開くと、それがいつもの傘でないことがバレてしまうとか、あるかなって。」


 「つまり誰かのをパクったんじゃないかってことか?」


 「そうそう。」


 「ないと思うな。あいつはそういう曲がったことは嫌いだ。」


 「とりあえず、健ちゃんの人を見る目を信頼するとして、その可能性はいったんおいておこう。その傘は結構透明度が高かったりする?」


 「いや、結構ちゃんとした材質で、透けてない。」


 「ふうむ。ということは骨組みが壊れているかどうかは、閉じている限り判断がつかないということね。」


 「そうだな。もしかして、小夜ちゃんは傘が壊れた可能性を考えてるのか?」


 「そうだよ。」


 「じゃああいにくだが、それは違う。今朝は雨はそこそこ降ってたが、無風だった。おかげでジメジメしてて気持ち悪かったくらいだ。で、あいつの傘は風もないのに壊れるほどボロくない。」


 「別日に壊れたんだとしたら、そんな傘を持って歩いているのもおかしいしね。なるほど。傘に関しての確認は以上。」


 「もうわかったのか?」


 「わかったわけじゃないけど、方向性は掴めたわ。」


 「すげえな。」


 「健ちゃんは、同じサッカー部ならいろいろ知ってることもあるでしょう?それを教えて。」


 「それが傘の謎とどう繋がるんだ。」


 小夜子は、はぁと溜息をつき、呆れ顔で言った。


 「鈍いねぇ健ちゃんは。この雨だから、現場検証には行けない。そして健ちゃんの今の話だけじゃ、烏丸くんをよく知らない私が彼の行動を推理するのは難しい。そういうときは烏丸くんの普段の性格や行動から、今朝どのように行動したのかを考えるの。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る