汚染病院
奏せいや@Vtuber
プロローグ
第34話 汚染病院
夕焼けの明かりが空を染める中、とある総合病院の前は物々しい雰囲気に包まれていた。白い建物の正面に立つ女性は赤い長髪をポニーテールでまとめその表情は真剣だ。美しい顔立ちに加え白のワイシャツと黒のパンツも相まってかっこいい大人の女性という姿だが、その手には銃が抱えられていた。
入念に手入れがされたアサルトライフル、弾倉やナイフがついた戦闘用のチョッキをシャツの上から身に付けている。他にいる四人も同様で服装は戦闘服ではあるが同じく武装し彼らが只者でないことが分かる。
その中に混じって一人の少年がいた。彼だけは学生服を着ておりこの中ではその普通さが浮いている。訳の分からない状況にその顔は不安そうだ。
「宮坂(みやさか)さん」
彼は赤い髪の女性、宮坂に呼びかけ彼女が振り返る
。
「沓名(くつな)君。さきほども言ったけどこの世界には『異常』というものが存在する。日常にあって認められないもの。例えばそうね」
宮坂と呼ばれた女性は少しだけ考えた後再度少年を見る。
「カラスっているでしょ? 黒い鳥の。あれ普通の鳥ってことになってるけど、実は喋れるのよ。それだけ賢いってことなんだけどね、でも鳥が人の言語話してたら社会が混乱してしまう。だから特殊な薬を散布してカラスの知性を下げてるの。信じられる?」
「えっと、そうなんですか?」
いきなりのことに戸惑ってしまう。突然そんなことを言われてハイそうですかと納得出来る人はまずいないだろう。
「まあ、信じなくてもいいわ。今はそこ重要じゃないし。そうした異常というのがあるってことだけ分かって欲しい」
「いえ、分かります。実は、俺の身近にも異常っていうか不思議なことってあって。だから異常っていうものを否定はしません。カラスはその……今はあれですけど」
「ええ、それでいいわ」
彼女の言っていることはおとぎ話のような話だが少年沓名は笑わなかった。異常、それに思い当たるものがあるから。
「そんな異常も可愛いものならいいんだけどね。でもここは違う。汚染病院。この病院は異常な空間となっていて、多くの怪物や異常現象が襲ってくる。行ける?」
真剣な目つきがこちらの覚悟を問う。ここから先は命懸けだ、彼らの持つ殺傷兵器がそれらを物語っている。
それに怖気づくのを誰が笑うだろう。怖くて当たり前。だけど。
「ここに、妹がいるんですよね?」
沓名は聞いた。恐怖を超える、勇気を出すために。
「ええ。愛羽(めう)さんと君を再会させ彼女を救い出す。そのために私たちは来たんだもの」
ここに妹がいる。今も自分が助けに来るのを待っているはず。
怯えていた瞳に決意が満ちていく。
「お願いします」
答えに女性は頷いた。その後仲間たちと目を合わせる。
「行くわよ」
部隊は一列に並び病院の入口前に立つ。沓名は彼女の背後に並びその背中を見た。自分と背丈はほとんど変わらない、だけど頼りになるその後ろ姿。今までどれだけこうしたことを経験してきたのだろう。
「大丈夫よ、君は私が守るから」
「え」
そこで背中越しに声が聞こえてきた。宮坂は振り返り沓名を見る。
「約束するわ」
力強い眼差し。なぜそこまで自分を気にかけてくれるのか、沓名はいまいちピンとこない。
だけど彼女の言ってくれたその言葉は隠していた恐怖を励ましてくれた。
「はい。ありがとうございます」
自分は無力だけど、だから守られているけれど。そんな自分が思うのはおかしな話ではあるが。
出来るなら、この人を守りたい。そんな風に思った。
「突入!」
女性の号令に最初の隊員が扉を開き病院のエントランスに入っていく。後続もなだれ込み扇状に広がっては異常がないか銃口を向けながら確認する。
「クリア!」
「クリア!」
「ここは変わらないわね」
安全確保。異常なし。けれど気の緩みはなく女性は一点を睨みつける。
そこには電気の消えた廊下が続いていた。非常口の緑色の看板が奥にかすかに見える程度でかなり暗い。
その暗闇は怪物の口のようだった。わずかな光源すら深海魚の疑似餌に見えてくる。
「油断しないでね、本番はここからよ」
宮坂は暗視スコープを下ろし装着する。他の隊員も暗視スコープを付け銃を構えた。
「前進」
隊は一列の陣形で暗闇へと足を踏み出す。その中には沓名もおり緊張しながらも前へと進んでいった。
(待ってろよ、愛羽(めう))
妹を救うため、この悪夢へと挑んでいく。
汚染病院攻略戦、開始。
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