葛藤
戦いが終わり、村人たちは一斉に亮を囲んだ。皆、命を救われたことに感謝し、驚きと喜びが入り混じった目で彼を見つめている。その視線に亮は少し居心地の悪さを感じながらも、内心で安堵していた。自分の「パラレルワールド」のスキルが、確かに役立ったのだと。
「本当に、ありがとうございました。異世界から来たという噂を聞いてはいたけれど、あなたほどの力を持つ方とは…」
村の長老が頭を下げ、他の村人たちもそれに続いた。彼らの純粋な感謝の言葉に、亮は少し胸が熱くなり、自分がこの場所に必要とされていることを改めて感じた。
だが、その一方で、亮の中にはどこか冷めた思いも残っていた。自分の力で村を救えたかのように見えるが、実際は別の現実を利用していただけではないか――そう感じる自分がいる。
「俺、ただ…別の可能性を試してるだけなのに」
彼は村の人々の感謝の言葉を受け流すように笑顔で応じながらも、心の奥では葛藤していた。確かに「パラレルワールド」の力は便利だが、本当にそれが自分の力と言えるのだろうか?自分自身がただその場を逃げているだけに過ぎないのではないか、という疑念が彼を静かに蝕んでいた。
その夜、村で亮のために小さな宴が開かれた。村の人々が集まり、亮に食事や飲み物を勧め、彼の活躍を称えていた。亮も最初は楽しもうと努めていたが、ふとレイナがそっと隣に座り、静かに話しかけてきた。
「亮さん、今日の戦い、本当にありがとう。でも…あなた、どこか浮かない顔をしているわね」
レイナの鋭い指摘に、亮は少し驚いた。まるで自分の心の内を見透かされたかのように感じたのだ。
「…いや、別にそんなことはないさ。俺はただ、みんなが無事でよかったと思ってる」
亮は微笑んでごまかそうとしたが、レイナの目は真剣だった。彼女は少し考え込んだ後、優しく続けた。
「あなたの力がどんなものであれ、村を救ったのは事実よ。それに、異世界から来たあなたには、この世界の人にはできないことができる…そう思うの」
亮は黙り込んだ。彼女の言葉には真実が込められているように感じたが、それでも完全に納得はできなかった。自分の力が本当にこの世界のためになるのか、それを証明するにはまだ時間がかかるかもしれない。
だが、レイナの言葉は亮の心に少しずつ響き、使命感の欠如に悩んでいた彼の中に、微かな決意の芽を宿し始めていた。
「…そうだな、ありがとう、レイナ。俺、もう少しこの世界で自分にできることを探してみるよ」
亮は小さく頷き、自分にできることを探し続ける決意を胸に秘めた。そしてこの村で、異世界での自分の居場所と、本当の「力」の意味を見つけ出す旅が始まろうとしていた。
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