第一村人
亮の前に現れた女性は、レイナと名乗った。彼女はこの世界の魔法使いで、村を守るための巡回中に亮を発見したのだという。レイナは少し戸惑った様子で亮を観察しながらも、自分の村へ案内することを提案する。
「ここで立ち話もなんだし、村に案内するわ。きっと疲れているでしょう?それに異世界から来たのなら、色々と知りたいこともあるでしょうし」
亮はその申し出を快諾する。初めての異世界の人との出会いに緊張しつつも、レイナの親切な態度に少しだけ安心していた。彼女についていきながら、彼は自分のスキル「パラレルワールド」の使い方や、この世界での生き方を少しでも理解しようと心を決める。
村へ向かう途中、亮はレイナからこの世界の基本的な情報を聞く。どうやらこの世界には、魔物が頻繁に出没し、人々は日常的に危険に晒されているという。そして、彼らは「ギフト」と呼ばれる特別な力を神から授かっており、その力を使って自らを守っているのだ。
「亮さんも何か特別な力を持っているのよね?異世界から来た人には、強力なギフトがあるって聞いたことがあるわ」
レイナの言葉に、亮は自分のスキル「パラレルワールド」を思い出し、彼女にその能力を簡単に説明する。しかし、異世界の概念や並行世界の話は彼女には少し難しかったようで、レイナは困惑した顔で笑う。
「…えっと、要するに、危険な時には別の世界に逃げられるってことね?それなら、とても便利な能力じゃない!この村でも役立つ場面があるかもしれないわ」
村に到着した亮は、異世界の人々の暮らしに驚きつつも、歓迎されることに少し心が温かくなる。村の人々は少ない資源を分け合い、協力しながら生きていた。亮はその姿に感動し、何か力になりたいという思いが芽生える。
すると、突然、村の近くから轟音が響き渡る。魔物が村に襲来したのだ。村の人々が慌てて防衛体制を整える中、レイナも魔法の杖を手に立ち上がる。
「亮さん、危険だから後ろに下がって!ここは私たちが守るわ!」
だが、亮は思わず前に出た。自分にできることがあるかもしれない。彼は手を握り締め、「パラレルワールド」のスキルを発動する準備をした。異なる世界を行き来できるこの力で、何かの役に立てるのではないかと。
しかし、目の前に現れた魔物は、亮が想像していた以上に大きく、恐ろしい姿をしていた。鋭い爪と牙をむき出しにし、低いうなり声をあげながら村へと迫っている。村人たちは必死に武器を構え、なんとか魔物を退けようと奮闘していたが、その姿はあまりにも無力に見えた。
「…俺が、やるしかないのか?」
亮は手を震わせながらも、意を決して「パラレルワールド」を発動する。すると、一瞬で彼の視界が揺らぎ、目の前の景色が別の場所に変わる。同じ場所だが、別の「平行世界」へと移動した亮は、魔物がほんの少し弱くなっている並行世界を見つけたのだ。
「これなら…!」
亮は少し自信を取り戻し、別の世界から少しずつ「有利な現実」を積み重ねるように魔物に接近し、村の人々に指示を出し始めた。
「今だ!みんなで一気に押し返せ!」
亮の合図とともに、村人たちは全力で魔物を攻撃し、ついに撃退することに成功する。息を切らしながらも、村人たちは歓声を上げ、亮に感謝の言葉をかけた。
「す、すごい!あなたがいなければ、村は守れなかったわ!」
亮は少し照れくさそうに笑みを浮かべながら、ようやく少しだけ自分が役に立てたことに喜びを感じていた。しかし同時に、どこか複雑な思いも心の奥底にあった。なぜなら、ほんの少し「違う現実」を使ったことで、自分がこの世界でどんな影響を及ぼしているのか、今はまだ分からなかったからだ。
「俺の力で救えたのか…それとも、ただ逃げただけなのか…」
彼の胸には、少しずつ新たな疑念と覚悟が生まれ始めていた。しかし、それでも亮は、この力で何かできることを探し続ける決意を固めた。
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