第2話 リリサお前もか、そこに浮かぶその子はいったい……

 ラウンドエックスの現行MMORPG【FirstFantasy14】で、とある誤爆によりいたたまれなくなって波止場まで逃げてきた春樹達一行に、突如として地雷系風味のロリロリ少女が現れた。


 「ねえ、ねえ! ハルキさんで良いんだよね?」


「ああ、俺は春樹はるきだよ。非公開だから話せないこともあるが、で、聞きたい話って何だよ?」


「じゃあはるちゃんで良い?」


「じゃあってなんだ、聞きたい事じゃねえし、いきなりかよ」


「おおっ、なんだ春樹、いきなり春ちゃんってか、妹でもできた感じかな」


 カッコいいとか言ってくれる妹とか、悪い気はしないが、いかんせん地雷風味が気になる俺なんだが―――。


「なんだかなあ、いきなり春ちゃんて、おタマかよ!」


「おタマ!」


 ぴかっと光ったような声を上げて、見上げるリリサの目は燦燦と輝いていた。


「な、なんだよ、おタマがどうかしたんか」


 俺は例のゲームテストで回っていた猫耳のおタマの事を、つい思い浮かべて名を挙げたが、何故かこの地雷系風味のロリっ子が反応してきたためキョドってしまった。


「アタイも知ってるよ、おタマちゃん」


「知ってるって…… 何でだよ!」


 俺はうろたえた、おタマを知ってるばかりではなく、自身のことを一人称で「アタイ」とか言ってくる。やばい、地雷臭が漂って来た―――。


「だってアタイ、おタマちゃんでプレイしたんだもん」


 爆音と共にエフェクト炸裂!

 ―――俺は踏んでしまった、強烈な核地雷だった。


「ねえ春ちゃん、こっちでも仲良くしてくれるかにゃあ?」


 呆然と立ちつくす俺に「にゃあ」の語尾を付けて迫ってくる、ロリっ子ロロフェル族には、耳がついていない。だがしかし、おかし……


「おい春樹、なんか話が怪しくなってきたからPT組んでグループチャットしたほうが良いんじゃね?」


 ヒヨの言うことはもっともだ、そこで俺はヒヨと目の前に立つ地雷系風味のロリっ子にPT(パーティー)勧誘のシグナルを送ったが、その刹那―――。


《ピピピッ!ピピピッ!》


「ねえ、ねえ! リリサPTじゃなくてFC(フレンドカンパニー)チャットの方が良いな」


 FCとはいわゆるMMORPG内に存在する秘密結社のような存在で、一般的には『ギルド』という言い方の方が分かりやすいだろう。


 そうだ、そうだった、この地雷系風味のロリっ子は『リリサ・リサ』と名乗っていたっけ、そしていきなりFC勧誘のシグナルを送りつけてくる破天荒な行動には、確かにあの【おタマ】の影が重なる。


『おい春樹、FC勧誘されたけどどうする? 複数加入って出来ないだろ』


 ヒヨからTelがきた。


『ヒヨ、その通りだな―――。どうすっか……』


 俺とヒヨは別FCに所属しており、結成当時は多くの人で賑わっていたが、年月を重ねてゆくうちに一人また一人とログインしなくなり、終いにはたった一人となってしまった。


 これをボッチFCと世間では揶揄されているが、俺とヒヨはひょんなことから同じ境遇であることを知り、フレンド登録を済ませ親交を深めていた。


 俺自身ゲーム内では採集生産系のジョブを中心にプレイしており、その目標はギラコンプ、あらかじめ設定されたゲーム内通過【ギラ】の表示限界である999,999,999ギラを突破することだ。


『どうするも何も、入れねえだろ。いいよ俺が話すから』


 そう言うとヒヨは、リリサに事の次第を説明してPT加入を説得したようだ。


「春ちゃんごめん、知らなかったにゃ」


 ロリっ子リリサはPTチャットで話し始めた。


「FCってコンビニの会員みたいに、いくつでも加入できるもんだと思ってた」


「それじゃあ仕方ないな―――。ところで、何でFCの事は知ってたんだ、おまえ若葉マークついてるじゃん」


「それは、その……」


 ロリっ子リリサの目が輝きを失うと、うなだれて言葉まで失ってしまったようだ。ところで若葉マークとは、このゲームを始めて一定期間はキャラ名の左に可愛い若葉マークが付与される。リアルの自動車に付けられているのと同じ役目だ。


「言いたくなければいいよ、人はそれぞれで色々あるかんな」


「リリサちゃん、春樹の言うとおりだよ。そうだフレンド登録とLP(リンクピアス)あげるよ! いいよな、春ちゃん?」


「ヒヨ、お前も言うかよ―――。まあいいか」


 だれだって小さな子がうなだれて、シユンとした姿を見れば守ってあげたくなるのは必然だ。ロリっ子リリサはモジモジと片耳にLPを付けると、こちらを見上げて話しかけてきた。かっ、可愛い……


「やった~! これで春ちゃんとはお友達になったにゃぁ~!」


「おっ、おお……」


「ねえねえ春ちゃん、PT組んだことだしお願いがあるんだけど、いいかにゃ?」


「何だよ、別にいいけどさ」


「この町の冒険者ギルドに寄れって言われて来たんだけど、そこで【サータシャ浸食洞】って所へ行って入り口の隊長さんから指令を受けろって言われたの、手伝ってくれないかにゃ?」


「なんだって、お前FCの事は分かってる風なくせに、ほんとに初心者なんかよ」


 若葉マークは本来さっき説明したように初心者に付けられるマークだが、一定期間ゲームにログインしなかったプレーヤーにも付けられる仕組みになっている。経験者なら分かるが、半年もやっていないと操作の仕方を忘れてしまうから慣れるまでとラウンドエックスが作った仕組みだ。


「それもそうだが春樹よ、リリサちゃんの脇に浮かんでるあれは何だ、見たことない魔ペットだけど」


「ああ、あれか。前にも見せたろ、おいアナキン出てきてくれ」


『ぴんぴろりーん、春ちゃんお呼びですか? あれ? お仲間もいるんですね』


 俺のすぐ脇に呼び出されたのは、ロリっ子リリサの脇に浮かぶのと同種の魔ペットだ。これは通常この世界では呼び出すことのできない種類のもので、ラウンドエックスのベータテストに参加したGコースユーザーにしか与えられていないのだ。


 いや、ものというより【AIコンテンツクリエーター】というバディ(相棒)に近い存在だ。俺はこの子に某戦艦大和のアナライザーにあやかり、アナちゃんと名付けて傍らに置くことになった。そしてこのバディはPTを組んだ状態でないと、他の一般プレイヤーからは視認できない仕組みになっている。


「ねえねえ、そこのお仲間さん、私アナちゃんと同じでしょ! お名前は何ていうの?」


 アナちゃんはPTチャットに切り替えていた。


「ええと、ええと……」


「ご主人様、僕がお答えしますね。初めまして、リリたんのお供をさせていただいております【AIコンテンツクリエーター】のルルと申します」


 僕っ娘かよ! で、気になってチラ見すると、なんだかヒヨの様子がおかしい。


「俺、なんか場違いな気がするんだけど、か、帰って良いかな?」


 ヒヨは後ずさりを始めた……


つづく


◇◇◇


 僕にもアナちゃんみたいな【AI小説クリエーター】が隣にいたら、寂しくないんだけどなあ。コメントやハートなど頂けましたら、きっとうれし泣きします。


                              夏目吉春
















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