第16話 紫苑Side
その日、俺_
いつもと違った風景に新鮮味を感じながら、立ち寄ったカフェから離れた所にあるゲームセンターへ少し遠回りをしながら向かっていると公園の横を歩いていた。
事前に聞いていた通り、俺たちが歩いていても不良に絡まれることもなく、何も起こらない平和な街並みに、一緒に来ていた男二人と話しをしながら、ふらふらと街中を散策していた。
「なぁ紫苑! ゲーセン言ったらバスケしようぜっ!」
「その前にファミレスだろ。腹減ったー!」
「はぁ!? さっきコンビニで食ったじゃん!」
「3時間経った」
「たった3時間でお腹減るかよ! 燃費ワル過ぎ!」
隣りで騒がしくしているコイツ等は、同級生で。友達で。ある集団の仲間だ。
最初に話し掛けた来たのは渡瀬 遥輝で。
天然パーマの茶髪はふさふさしていて、明るい性格と、男にしては低身長の背丈から周りからは中学生と見間違われることが良くある。
そして、その隣りにいる図体がデカイのが、柏木 満里だ。
体格と比例してブラックホール並にお腹を空かせていて一日中、何かしら良く食べている。
性格は短気で喧嘩早く、コイツが関わると必ず抗争になる。正直言って面倒くさい。けれどどんなときも付いて来てくれて頼りにはなる。
そんな二人を幹部に据えて、俺が束ねている集団が『
俺はその総長を張っている。
ファミレスか……。
俺もさっきコンビニ弁当食ったけど、物足りないんだよな。
「デザートでも食べいくか」
「ちょっと紫苑まで!?」
「甘いモンは別腹だろ?」
「それは否定しねぇけどさぁー!」
何気なく歩いていると後ろから「ねぇねぇ」と声を掛けられた気がして振り向いた。
けれど、後ろには誰の姿もない。
なんだ? 今の声は気のせいか?
「おーい紫苑。下、下」
した……?
そう思って下を向くとワンピースを来た女の子が俺を見て立っていた。
──否。俺たちを見て、愛嬌たっぷりの可愛いらしい笑みを浮かべて立っている。
なんだこのはと疑問を抱きつつも女の子と向き合った。
周囲に保護者らしき大人がいなかったが、草むらの向こう側が広場だったことを思いだして、大体の事情を察する。
きっと、この広場で遊んでた子供だろう。何で話しかけて来たのかは分からないが……。
どう見てもガラの悪い俺たちに話し掛けて来るなんて度胸があるらしい。別にどうこうするつもりなんてないけど。
一瞬。迷子か、とも思ったが。それならもっと優しそうな大人を選ぶだろう。年が近そうだからって俺たちに話し掛けて来るとは思えない。
だからちゃんと、目的があって声を掛けて来たハズだ。
「お嬢ちゃん、どうしたのかな?」
「迷子かー?」
遥輝がその場にしゃがみ込みと、珍しく満里も腰を曲げて顔を近づけた。
興味津々に遠慮なく近づく二人に、泣かれても知らねぇぞと俺は知らんぷりをしたくなる。
すると女の子は、ギラギラのエックレスやら指輪やら、ドクロ柄の黒いTシャツやらと厳つい遥輝のことも。
図体のデカイ満里の圧迫感にも、怖がることもなく首を横に振り返った。
そして幼い子供にしてはやたらとハキハキした声で話し出す。
「まいごじゃないよ! あのね、これ落ちてたの。お兄ちゃんたちの?」
「あれ? これって……」
遥輝が女の子の持っていた物を見る。
それは二つの鍵がついた茶色の革製のキーケースで。遥輝はまじまじとそれを見ると俺を振り返った。
遥輝も思ったらしい。俺もそのキーケースには思い当たる。
どう見ても俺が持ってたキーケースに似てるのだ。
腰のベルトから垂れているチェーンを辿って行くと、チェーンに通しておいた肝心なキーケースがなくなっていた。
「……俺のだわ」
落ちたのに気が付かなかったな……。
ポケットに入れていたつもりだったが、さっきのカフェ店の支払いで財布を出す時に出いたのだろう。
付いている二つのキーは、バイクと家の鍵で。落ちていたことに気が付かずにいたら、最悪帰れなくなるところだった。
拾ってもらえて良かったなと安堵していると、満里がチェーンの先を見て指摘る。
「──おい、紫苑。これ金具壊れてるぞ」
「ホントだ。隙間出来てんじゃん。そこから落ちたんだね」
帰ったら代用品探さなきゃだな。
小さくため息をつきながら子供の手からキーケースを受け取った。
「ありがとな」
「どういたしまして!」
そう言ってニッコリと笑った女の子。見た目的には保育園児ぽいが、口調や態度からは小学生にも感じられた。
俺にも同い年くらいの弟がいるが、可愛気が全くなく生意気で年齢相応で、いつも兄弟喧嘩ばかりしている。
このくらい可愛気があると遊んでやっても良いと思えるのが、まぁアレだけ生意気だと、一生無理な話しだろう。
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