暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ

プロローグ

天翔のホームビデオ

第1話



「真依、ここ押してピッってなったら始まるからな」


「うん! 分かった!」



 俺はビデオカメラを持ちながら大まかな説明を、隣りにいる女の子_真依にすると、真依は元気よく返事をした。


 カメラを手渡すと真依は危なげに録画ボタンを押す。



_ピッ



「出来たぁ!」


「あぁ、出来たな。上手だ」


「えへへ。はじめまして、みねかわ まい です。よんさい です」



 真依はそう言って、俺にカメラを向けたまま自己紹介をする。



「カメラ貸してみ。俺が真依の姿を撮ってやる」



 ついでに、ちゃんとカメラが回ってるか、確認しておかねぇと。



「ううん! まいは さいごにとるから だいじょうぶ!」


「そうか……」



 失敗したな。録画し始めてから渡せば良かったか。


 ……後で後ろから出来てるか確認しておこう。



 そんな後悔を募らせていると、カメラを構えたままの真依が不機嫌そうに近寄って来た。



「お兄ちゃん、早く! じこしょうかい!」


「あぁ、分かった。俺は嶺川 秋良、天翔の総長だ。よろしく」



 笑顔で軽く手を振ると、カメラを覗いてた真依が「フフンッ!」と得意げな顔をした。



 フフンッってどんな笑い方だよ。


 しかもなんで、真依が得意げにすんだ。


 ──まぁ、そんな所も可愛いわけだけど。



「こんどは、リンちゃんとる!」



 楽しそうに真依が言うと、背後のテーブル席でパソコンを弄っている凜人の所へと走って行った。


 瞬間、カメラを持った手を下にして走る真依にカメラが落ちるかと思って俺は焦った。



 こ、怖ぇ……!


 マジで落すかと思った。



 手首にハンドストラップを通しているとはいえ、子供にはビデオカメラは重い。


 今のところ真依は気にしてないが、長時間持つには厳しいかもしれない。



「リンちゃん!」


「なーに、真依ちゃん。」



 真依に呼ばれた凜人は、パソコンから目を離して笑顔を向ける。



 このヤロウ、また王子様スマイル浮かべやがって……。


 真依を誘惑すんなって、何度言ったら分かんだよ。



「あのね! じこしょうかいするの!」


「自己紹介ね、良いよ。カメラは回ってるかなー?」


「うん!」



 真依は楽しそうにカメラを構えると、俺はさりげなく後ろに付いて、録画が出来ていることを確認した。



「大丈夫だ」



「じゃぁ、自己紹介するね。天翔副総長の泉野  凜人です。

高校生二年生で、真依ちゃんが大好き!  よろしくね!」


「えへへ。わたしもリンちゃんすきっ!」


「ありがとう。嬉しいなー!」


「──おい、俺の妹を口説いてんじゃねぇよ。殺すぞ」


「アハッ! もう目で殺しにかかってきてんじゃん!」



 そんな会話から俺が凜人に手刀を入れると、凜人は軽やかにそれを受け止めた。


 そんな攻防がしばし繰り広げられ、その早さは段々と上がっていった。



「あー! ケンカはめっなんだよ!」


「大丈夫だよ、真依ちゃん。これは喧嘩じゃなくて、戯れ合いだから」


「そうだな、戯れ合いだ」



 凜人は一見、爽やかなイケメンのなりと王子様みたいなオーラに振る舞いをしているが、その実、中身は魔王のように喧嘩が強く、女好きな面がある。



「次、みっちゃんとるー!」


「おう! 俺はこっちだぞー!」



 真依が次に撮りに行ったのは、同じ部屋のソファに座っている男のところだった。



「手塚 道弘。天翔の幹部兼、真依の専属騎士を務めている。よろしくな!」


「きしさまー!」



 アイツ、何役作りしてんだよ。


 合ってるから特に否定はしねぇけど。



 道弘は幹部の中で一番図体がデカく、パワーがある。


 もちろん 喧嘩も強いが、人を投げて倒すと言う、人間離れした力の持ち主だ。


 敵からは良く怪物と恐れられている。



「では真依姫。我が下部の騎士たちの下へ参ろうぞ!」


「うむ! いきましょー!」



 これは──、時代劇の言葉遣いと混ざってるな。


 真依が楽しければ何でも良いけど、正しい知識で覚えていてほしいからな……。


 ──っても騎士の言葉遣いなんて知らねぇし。


 ……まぁ、良いか。必要になったら直していこう。



「真依、階段気をつけろよ」


「みっ……きしさまにおぶってもらうー!」


「良いですぞ! では持ち上げます!」



 そう言うと道弘は真依を片腕で抱き上げ、部屋の扉を開けた。



 持ち上げます?



「アイツ、騎士つったよね? 言葉遣いが訳分からん過ぎて、流石に笑えないんだけど……」


「道弘だからしょうがねぇ。……俺たちも下行くか」


「だねぇー。にしても疲れたなぁ。秋良ぁ、おぶって」



 甘えた声で両手を差し出す凜人に、俺はバシッと両手で払った。



「ふざけんな。だったら一人で休んでろ」


「はいはい、歩きますよ。休むわけないでしょ。折角の“下準備”をさ!」


「だったら最初から自分の足で歩け」


「だぁって、誰かさんのせいで疲れたんだもぉん」


「その口調やめろ。あと、お前が “いつも” “毎度” 真依を口説くからだ!」


「ふふっ。真依ちゃん、俺にぞっこんだもんね。大変だね、お兄ちゃん。

俺はこの顔に生まれてきて良かったー!」



 そう言いながら部屋から去って行く凜人に、殺気が芽生えながも、真依の前で喧嘩は良くないので理性をフル活用して抑えこんだ。


 階段を降りて下に向うと、開けた場所の一角に人溜まりが出来ていた。



 真依は専用のソファの所か。


 その方が安全で良いな。



 

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