転生前にキャラメイクこだわりすぎ

ちびまるフォイ

上手にできませんでした。

耳をつんざくブレーキ音。

しかし、すぐ目の前にはトラックのバンパーが!!




『聞こえますか……。あなたは死にました。

 私は女神。これからあなたは第二の人生が始まります』



「第二の人生だって!? それじゃ転生するのか!?」



『ひらたくいえばそうです。ですがその前にーー』




『キャラメイクをしてください』



「えっ」


目をうっすら開けると鏡の前に座らされていた。

さまざまなパラメータやプリセットが選択できる。


「こういうの自分でやるんですか?」


『最近は転生させすぎてみんな同じ顔なんです。

 これまでは毎回私が作っていたんですが

 さすがにしんどくなってきたので以降セルフでやってもらおうかと』


「俺こういうあんまり得意じゃないんですけど」


『ダメです。物語の主人公としての顔つきというものがあるでしょう。

 没個性的な顔にしたら女神の評判を落とします』


「わかりましたよ……」


まずは骨格を選択した。

顔のカタチをいくつも変えられるらしい。


「ええ……? どれがいいんだ……?」


瓜実顔。しもぶくれ顔。小顔。宇宙人型。

候補が多すぎてどれがいいんだかわからない。


さっき見た良さそうなやつも、もうどこにあるか見失った。


「よ、よし。これにしよう」


その中でも良さそうな標準骨格を選択する。

これで下地は出来上がった。


あとは福笑いのごとくパーツを当てはめるだけ。

残りは楽なものだと思った。


もちろんそんなことはなかった。


「次は目か」


タレ目、細目、ツリ目、糸目、猫目……。

さまざまなパターンを提示されて脳内が情報爆発。


「目はこれにしよう。次は……目の離れぐあい!? 細かいな!!」


目の配置や両目の間隔を調整する。

もうこれ調整したところで変化に来づけるのだろうか。


「よしこれで目は終わったはず……って今度はまつげの長さ!?」


スライダーを調整してまつげの長さや向き、カール具合をも調整する。

自分の顔を見ているだけでゲシュタルト崩壊してきそう。


「はぁはぁ……やっと終わった。これで目は……あ、アイライン……?」


目のカテゴリーはまだまだ終わらない。

人間の顔のパーツで最も印象的なものは目。

それだけにこだわりの調整ができるようにキャラメイクも繊細になっていた。


いいから早く冒険させろと言いたくなるが、

この転生前のキャラメイクにスキップも妥協のボタンも用意されていない。


「これでいいだろ!! もう十分だ!!」


やっとこさ何十個もある目カテゴリーの調整を終えた。

待っていたのは「耳」「鼻」「眉毛」「口」「フェイスペイント」「声」など……。



「ま、まだこんなにあるの……?」



まるで四天王の最初のひとりを倒しただけに過ぎないという

絶望を突きつけられたような気分になった。


自分はさっさと転生してキャーキャー騒がれたいだけなのに。


どうしてこんな賽の河原で石を積むかのごとく、

気の遠くなるようなキャラメイクをしなくちゃいけないんだ。



「うう……こんなのいつになったら終わるんだ……」



髪の毛の毛先の色合いや、髪の毛の痛み具合、クセ度合いを

自分で調整しながら果てしなくつづく作業に限界を感じていた。


ある程度できあがったなと思って全体を見てみると、

やっぱり目はこうした方が良い、鼻はあっちのほうがいいと

手順を戻ってまた調整したくなるからキャラメイクには終わりがない。


自分が求める理想のイケメンを作り上げるまでは転生できない。


はたしてそれが完成するのが先なのか、

サグラダファミリアが完成するのか先なのか。おそらく後者だろう。



「ああ……もう早く転生したい……」



いつまで経っても完成度90%を行ったり来たりしているうち、

どんどん心も体も疲弊していき自分は何をやっているんだろうと思い始めた。


"この顔で異世界を満喫したい"


そう思える顔面や体を作るべく努力していたが、

いつまで経っても完成しないので徐々にバカバカしくなってきた。


「もう別にどんな顔でもいいんじゃないか。

 どうせ普通にチート能力与えられて大活躍して

 チヤホヤされる展開は確約されているわけだし……」


女神は自分のことを主人公であると言った。


それはつまり異世界での人気者の地位は間違いない。

このキャラメイクをどうこうしようがそこは動かないのだろう。


イケメンだからチヤホヤされるのではなく、

イケメンじゃなくても主人公だからチヤホヤされる。


ならこのキャラメイクは一体なんなのか。

ふと冷静になったとき、逆張りのアイデアが浮かんだ。


「……どうせモテモテ勝ち組の転生人生が決まりきってるなら

 いっそ極端にブスにしてみようかな」


めちゃくちゃブサイクにすれば、

顔面偏差値に吸い寄せられる面食いの女はよってこない。


本当に自分の内面を好きになってくれる人が、

本物の愛をもってチヤホヤしてくれるに違いない。


「そうだ! 俺の転生人生は外見に惑わされない

 本物の愛をもった人に囲まれる人生にしよう!!!」


そんなわけでキャラメイクはイチから作り直しとなった。


これまで作っていたイケメンキャラを捨て去り、

さながらビーストといっても差し支えないほどのブサイクを構築する。


イケメンではあれこれこだわったキャラメイクも、

ブサイクを作るとなった瞬間に難易度は激減する。


なにせパラメータを一番極端にすればいいだけなのだから。


鼻の穴を最大に。

目の幅を最大に。

口の大きさは最小に。

髪の毛はバーコード。


雑に作れば作るほどブスの深淵へと突き進んでいく。


「うわあ、これはすっごいブスだ!!」


あっさり出来上がった転生主人公のキャラメイクは、

顔だけで腐臭が漂ってきそうなすさまじい顔面となった。


しかしこれはあくまでも真実の愛を確かめるための仮面。


醜い顔面だとしても自分のことを好きだと言ってくれる。

そんな異性に囲まれるための大事な要素だ。


なんでもいいから異性に囲まれれば良いなどという、

安易な非モテ童貞根性ではないのだ。そこと一緒にされては困る。


「ふふ、これは異世界転生が楽しみだ!!」


きっとこの顔面で成り上がっていく、

痛快シンデレラ王道ファンタジーTUEEEストリーが展開されるだろう。




ーーさあ、目覚めのときだ!!





目がうっすらと開いていく。


まぶしい外の光が飛び込んできた。


「あ、あれ……ここは……?」


ベッドで寝かされていた。

窓からさんさんと外の光が入ってきている。


「気がついたんですね。ここは病院。

 ずいぶん意識を失っていましたよ」


「え……?」


「一時は心臓が停止したり脳波が止まったりしてたんですが、

 あきらめずに治療したかいがありました。

 なんとか生き返らせることができたんですよ」


「え!? そ、それじゃ転生は!?

 第二の人生は!? モテモテハーレム生活は!?」


「なにを言ってるんですか……?

 なにか夢でも見ていたのでは……?」


「いや違うんです! 女神が言ってくれたんです!

 俺は転生するってそれであんなに……」


自分の言った言葉でハッとした。


自分がキャラメイクに時間をかけていたとき。

あれはまさに生死の境をさまよっていたのだろう。


あんまり時間をかけすぎた結果、

現代医療が勝利して転生することなく現世への復活を遂げたのだ。


「ああ……俺の転生ライフが……」


「それと、ひとつだけ言っていなかったことが」


「……なんです? 転生キャンセルよりも酷いことなんてないでしょう?」


「その……」


医者は気まずそうに鏡を手渡した。




「事故後、あなたの顔はめちゃくちゃになりました。

 我々も努力したのですが……これが限界です……すみません」



受け取った鏡には、キャラメイクした強烈な顔面が映っていた。

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