AKZ-010 アカズキン

豆井悠

ヤツの名はアカズキン

 某国特務機関【グリム】所属、コードネーム【オオカミ】それが、俺だ。


 今俺は、極秘ミッションのためにとある森に潜伏している……のだが、さて、どうしたものか……。


 実は……情けない事に、巨木の陰に隠れてもう2時間は動きが取れないでいる……。


 おっと、またお出ましだ……見えるか? あの忌々しいヤツが?


 俺が隠れている巨木の前を、悠々と通過していく一人の少女……いや、違う。正確には、自律AI搭載少女型拠点ガーディアン【アカズキン】だ。


 AKZ-010 アカズキン

 身長約130センチ

 本体重量約100キロ

 全装備時重量約250キロ

 主兵装は……。


 すまない、これ以上は極秘事項だ。


 彼女は我が某国が開発したガーディアンなのだが、敵対しているテロ組織に鹵獲され、実戦配備されてしまったのだ。


 いや、軍上層部は能無しか? 馬鹿なのか? うん? 馬鹿なんだな? で、その尻ぬぐいはいつもいつもグリムがしているんだぞ? しかも特別手当もなしなんだぞ? あーっ! やってられっかあっ!!


 はあはあ……すまない、取り乱した。


 しかし、あの赤い頭部装備はどうにかならなかったのか? いくら名称の由来とは言え、目立つことこの上ない……。


 頭巾状に成形された全周囲をカバーする高性能レーダー、それをあろうことか赤く塗装するとは……開発した博士狂人は、確かこう言っていたな……。


「だって美少女には、赤い頭巾が似合うんだもん!」


 いや、だもんてなんだよ、だもんて? いいおっさん、いや、どう見ても爺さんだったぞ?


「てめえの趣味を、国家プロジェクトに持ち込むな!」

『ぴんぽーん!』

「……あ」


 叫び声に反応して高らかに鳴り響いた警戒アラーム? に、俺は頭を抱えた……。


『侵入者を発見しましたぁ!』


 さらに俺の頭痛を加速させるとてつもないロリボイスが、森中にこだましやがった……。


 間髪入れずに目の前の巨木に閃光が斜めに走る。そして、轟音を立てて崩れ落ち、もうもうと土煙が舞い上がった。


 それが晴れるや、ニコニコとして立っている美少女が一人。


「……なんて威力の手刀だよ」


 頭巾の下のブロンドヘアが、キラキラと輝いていた。

 大きな青い瞳が、俺を捉えている。

 そして、蕾のような薄いピンクの唇が、ゆっくりと開いた。


『こんにちは、オオカミさん』


 く、俺のデータはインストール済みか……なら、ここでヘタに刺激するのは良くない……とりあえず、話を合わせるとするか。


「ここ、こんにちは、アカズキンチャン……」

『こんなに早くから、どこへ行くの?』

「おば……グランマのところ……だ」


 機密事項だが、仕方あるまい……っていうか、俺のセリフ、これは赤ずきんちゃんのセリフだったような……?


『その迷彩服の下に持っている物は、なあに?』

 お、これはいい質問だな……日ごろの不満を少しぶちまけておくか。

「クソマズいレーションと、ドブ水みたいなミネラルウォーターだ……任務で弱った体で食ったら、三途の川が見える代物さ」

『アカズキン、わかんない』

 だろうな……。

『それで、グランマに何するつもりなのぉ?』


 グランマ。

 テロ組織が所有する、スーパーコンピューターだ。

 今回の俺の任務はグランマに接触し、その呪縛からアカズキンを解放することだが……奴らにこの会話が筒抜けの可能性がある……ここだけは、濁しておくとするか。


「オオカミさん、わかんない……」

 はあー……だからってこんなセリフを吐いている俺が、一番わかんねーよ……。

『ふーん? ところでオオカミさん。あたしのお耳レーダーは、どうしてこんなに感度がいいの?』

 え? 俺のじゃなくて……?

「そそ、そうだなあ、敵を漏らさず発見するため、なんじゃない?」

『あたしのお目目メインカメラは、どうして暗闇でも何でも見えるの?』

 この流れは……。

「せ、赤外線カメラが標準装備されてるんじゃない?」

『あたしのお手々近接メインウエポンは、どうしてこんなに鋭いの?』

 やばいやばい! それをこっちに突き出すな!?

「だ、だからって、むやみに人に向けたらだめだよ?」

『あたしのお口究極必殺兵器は、どうしてこんなに……グワパア……シュイィィイン……!』

 あ!?

「あーれー!?」


 目の前に閃光が広がり、俺の意識はそこで途切れた……。



 ──数時間後──


「おい、大丈夫か? ぷっ……オオカミ、聞こえるか?」

 聞き覚えのある声で目が覚めた。

「ん……おまえは……ハンター……か?」

「そうだ。おまえの帰還が遅いから、ぷぷっ……失敗と判断されて私に命令が下ったんだぞ」


 同僚のコードネーム【ハンター】だった。だが、なぜ彼は耐えるような表情をしているのか?


「いったい……ぷっ……誰に……ぷぷっ」

「何がおかしいんだ? 俺はアカズキンに──」

「立ち上がるなあ!」

 いや、立つぐらいいいだろう?

 大声で制してきたが無視してそのまま立ち上がると、ハンターは顔をそむけて肩を小刻みに震わせた。

「だから! 何を笑っているんだ!」


 す、と奴は俺の体を指さす。


「ん? 俺の体が何か……って、あーっ!?」

 神速で腰を引き、両手でを押さえた。

「え? 何で? なんで全裸?」


 ここでハンターが耐えきれずに盛大に吹き出した。


 ──3分後──


「……ぜえ、ぜえ、いくらお前がオオカミだからってアカズキンのヤツ、なんで身ぐるみ毛皮をはいでいくかね?」

「……」

 俺は無言で赤面し、追いはぎアカズキンとノンデリな同僚に怒りを覚えていた。恥辱に震え視線を地面に落とす。と、何やら投げやすそうな小石が一つ。


 これだ。そう思うより早く体が動きそれを拾うと、そのまま思いきりハンターめがけて投げつけた。


「いだーっ!? 何をする!」

「うるせー! その迷彩服をよこせ!」

「やなこった、このフル○ン野郎!」

「んだとお!? このハゲ野郎!」

「ハゲてねえし!」

「くっ……」

 ハンターは、確かにハゲていなかった。が、偉そうにふんぞり返ったその体は、運動不足の中年オヤジのそれに見える。


 野郎、訓練さぼってやがるな。みっともねえ腹しやがって……。


「デブがあ!」

「……」

「お、クリティカルきたか、これ?」

「……るせんだよ……てめえの腹にこの石っころ詰め込んで、童話と同じにしてやんぞ、コラァ!」



 取っ組み合いで醜く争う俺たちに、ヤツの影が再び迫っていた……。


 そして、悲劇は繰り返す……。



 後日、この戦略的撤退全裸敗走の噂により、アカズキンに対して一部の特殊な紳士たちからの問い合わせが殺到したとかしなかったとか……。

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AKZ-010 アカズキン 豆井悠 @mamei_you

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