枯れゆく悦

鷹野ツミ

第1話

息吹いぶきくん、はじめてだよね?」

 シャンプーの香りを纏う女は、際どい下着姿を晒している。すっと息吹の横に腰掛けて、わざとらしく顔を覗き込んできた。女の長い髪がふわりと揺れる。

 広すぎるベッドの端が二人分の重みで沈み、適当に選曲したBGMが夜の雰囲気を醸し出していた。

 緊張が伝わるのは良くない。息吹は学ランのボタンをそわそわと弄りつつ、「初めてです」とぽそりと答えた。

「うふふ。じゃあ、おねえさんが楽しませてあげる」

 悪戯っぽく笑う女の手が、息吹の頬をなぞって下へ下へと向かって行く。

「ひっ……」

 情けない声と共に背筋が心地好く痺れた。ぐっと硬くなっている正直な自分に羞恥を覚える。

「あっ、あの、俺っ、風呂」

「いーよそんなの」

「うっ……」

 耳元に掛かる生温い息に、息吹の脳内はどろどろとした熱で覆われていく。もうこのまま何も考えずに快楽へと向かえたらどんなに楽だろうか。ベルトを外され、下着を脱がされ、顕になった息吹の一部は健男児そのものだ。

「ふふ。可愛い」

 からかってくる女に対し、息吹も余裕の表情を見せたいのに何も言い返せない。金髪も、ピアスも、香水も、全部見掛け倒しだ。もう高二だというのに童貞臭すぎる。涙が出そうになってきた。


 ──なあ、息吹、おれら親友だろ?


 ふと脳内で再生された声に、殴られ過ぎて別人のようになった友人の顔が浮かんでくる。

 ああ、そうだ。

 こうなったのは全部、四葩よひらのせいなんだよな。

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