ハッピーバレンタイン

森杉 花奈(もりすぎ かな)

アンラッキーデーに

 バレンタインはいつもあまりいい思い出が

ない。いつも悲しい結果に終わるか、または

いいことが何もないかのどっちかだ。何故か

私はバレンタインの日にはいい思いをしない。

バレンタインの神様に嫌われているのだろう

か。私はバレンタインに何も悪いことしてな

いんだけどな。どうもバレンタインの神様と

は相性が悪いようだ。一昨年は先輩に告白し

て振られ、去年は同級生にチョコを渡そうと

してやはり振られた。今年に至ってはチョコ

をあげたい人すらいない。バレンタインとは、

私にとってはアンラッキーデーなのだ。きっ

とそういうものなのだ。神様がそう決めたの

だ。私はそう思い込んでいた。


 1月のある日、私はスピーチコンテストの

練習をしていた。もうすぐ英語のスピーチコ

ンテストがある。3年生のコンテストはただ

のスピーチだけではなく、原稿も自分で考え

て丸暗記しなければならないのだった。

 私は一人で放課後、視聴覚準備室に残り、

毎日スピーチコンテストの練習をしていた。

テーマは地球の異常気象と火山噴火の関係に

ついてだった。親に手伝ってもらって一生懸

命原稿を作り英語に翻訳し、後は覚えてコン

テストで発表するだけだった。ある日のこと。

「へぇ。火山噴火に目をつけたのか。キミ、

やるね」

 練習中に突然男の子に声をかけられた。

「でも、異常気象の原因は人類にもあるんだ

よ。知ってた?」

「なんなんですか?突然一体」

「キミのスピーチに興味を持ったんだ。気を

悪くしたらすまない」 

声をかけてきたのは視聴覚委員会の委員長

だった。

「火山噴火は確かに異常気象や、昔で言うな

ら氷河期のはじまりの原因となった。キミの

言っていることは正しいよ。でもね、異常気

象の原因はそれだけじゃないんだ」

委員長は私のスピーチにケチを付けに来た。

私が気を悪くしていると委員長は一瞬すまな

さそうにした。

「ごめん。キミのスピーチがすごく良かった

から、思わず難癖を付けてしまったよ。すま

なかったね」

「いいえ。大丈夫です」

「コンテストはいつやるの?」

「2月14日ですけど」

「なら日曜日だね。僕も応援に行くよ」

「え?どうしてですか」 

「キミのことがすごく気になっちゃったの。

だってキミ、毎日一緒懸命練習してるし」

委員長は目をキラキラさせている。

「応援したくなっちゃったっていうか」

「ありがとうございます。でも邪魔だけはし

ないでくださいね」

「うん。大丈夫。キミの邪魔はしないから」

 私は練習に戻った。スピーチは流暢さも求

められる。こんなところで油を売っている暇

はない。私はそれから毎日練習を続けた。


 2月14日当日。いよいよスピーチコンテ

ストの日だ。私は引率の先生とほかの学年の

生徒と一緒に会場に向かった。委員長は別行

動らしかった。会場に着くと沢山の高校生た

ちで一杯だった。コンテストの順番まで私は

必死に原稿を読み返していた。そしていよい

よ私の順番だ。私はスピーチを頑張った。今

までになく一番良い出来だった。全力を尽く

した。後は結果を待つばかりだ。コンテスト

の表彰者が発表される。私の名前はなかった。

「どうしたの?落ち込んでるの?」

委員長が話しかけてきた。私が黙っていると

委員長が何かを差し出した。それは包装され

たクッキーだった。

「頑張ったキミにご褒美。よく頑張ったね」

「ありがとうございます」

いつも悲しい思い出ばかりのバレンタイン。

今年は委員長がクッキーをくれた。コンテス

トは散々だったけど、委員長が励ましてくれ

た。バレンタインにもたまには良い事あるん

だな。私は少しだけ心が嬉しくなった。

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ハッピーバレンタイン 森杉 花奈(もりすぎ かな) @happyflower01

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