4-7 アンネリーゼの婚約

その翌日である。ヴィルヘルムとアンネリーゼは揃って、シリルの元へ相談をしに来た。ヴィルヘルムは必死に頭を下げて言った。

 

「シリル殿下、俺たちは婚約を望んでいます。無茶を承知でお願い致します……なんとか、自分たちの婚約を後押ししてもらえないでしょうか……!」

「私からも、お願いします……!」

 

アンネリーゼも頭を下げた。

シリルは一もに二もなく、これを歓迎した。


「想いを通じ合わせたんだね?よくぞ俺に相談してくれた!もちろん、協力するよ!」


シリルの快諾に、ヴィルヘルムはとても申し訳なさそうに言った。


「俺は殿下の下についたばかりなのに、こんな無茶を聞き入れてもらい、ありがとうございます……!」

「ありがとうございます!」


もう一度頭を下げた二人に、シリルは切なげに言った。


「そんなに畏まらないで。だって、ヴィルには……周回する中で、それはもう……何度も何度も、お世話になってきたんだよ。俺は今こそ、その恩を返す時なんだ」

 

ヴィルヘルムは、感極まった表情で頷いた。「周回……?」とアンネリーゼは疑問符を飛ばしている。これはあとで説明する必要があるな、とフェリシアは思った。

シリルは悪戯っぽく微笑んで、空気を明るくさせるように言った。

 

「その代わり。今回もヴィルには頑張ってもらうし……絶対に、生き延びてもらうからね?」

「はい。私の忠誠はもう殿下に捧げています。それに、アンネリーゼを置いて一人にはしません」


ヴィルヘルムは、その赤い目を真っ直ぐにシリルに向けていた。彼の目には、もう一切の迷いがなかった。



♦︎♢♦︎

 


翌日、ノイラート公マティスが娘のアンネリーゼを訪ねて、王宮へやって来た。

一同はそこで婚約希望の話をすることにし、アンネリーゼとヴィルヘルムに対し、シリルとフェリシアが付き添って対応した。

マティスが入室して来てすぐに、ヴィルヘルムは切り出した。


「マティス様。私、ヴィルヘルム・アレキサンダーは、アンネリーゼ様と想いあっています。どうか、婚約をお許しください」

「な……なんだって?し、しかし……」


寝耳に水のマティスは、さすがに難色を示した。だが、横からシリルが力強く言った。


「マティス卿。外野から口出ししてすまないが、俺からも是非、ヴィルヘルムを推させて欲しい」

「シリル殿下……」

「ヴィルヘルムがいなければ、今回のアンネリーゼの救出は絶対に不可能だった。それに……今から約束しよう。クーデターを無事成功させ、俺が王になった暁には……ヴィルヘルムを騎士団長にし、侯爵へ陞爵すると。だから、この通りだ。頼む」


シリルは何と、きっちりと頭を下げた。隣にいたフェリシアもそれに習う。マティスはこれに大層慌てた。

 

「シリル殿下!頭をお上げください!!……わかりました。いいでしょう。シリル殿下がそこまで言うのならば、婚約を認めましょう」


マティスはすっかり降参したという風に、少し微笑みながら言った。ヴィルヘルムとアンネリーゼが口々にお礼を言う。

 

「ありがとうございます!」

「ありがとう、お父様……!」


マティスはそっとアンネリーゼに歩み寄り、彼女を見つめた。成長した娘を前にして、彼は切なそうに言った。


「アンネ。お前が婚約話を拒絶していたのには、こんな訳があったんだな……」

「そうなの。私はずっと……幼い頃から、ヴィルヘルムを想っていたの……。ごめんなさい、お父様……」

「良いんだ。心から愛する人と、幸せになりなさい」

「お父様……」


アンネリーゼはすんすんと泣き出してしまった。それからマティスはヴィルヘルムの方を向き、真剣な眼差しで言った。

 

「ヴィルヘルム。どうか、アンネリーゼのことを幸せにしてやってくれ」

「はい、必ずや。人生をかけると約束します」


ヴィルヘルムは真摯に答えた。そしてマティスと、固い握手をした。

こうして、二人の婚約は無事に成立したのである。

 

号泣するアンネリーゼをフェリシアは抱き締めて、良かったねと言いながら、何度も何度も頭を撫でた。そして話が片付いた後、アンネリーゼにも『繰り返し』の話をして聞かせたのだった。

 

これで、また一つ。絶対にクーデターを成功させなければならない理由が、増えたのだった。

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