男装して婚約破棄目指したら、何故か王太子に溺愛された話

かわい澄香

第一部 シャロンとリオン編

第1話 ここまでモテるつもりはなかった

「シャロン様!見てくださいまし」

「おや、ケイトリン嬢。前髪を切ったんだね?綺麗な瞳がよく見えて、とても可愛いよ」

「きゃぁっ、分かってくださったわ!」

「私は、クッキーを焼いてきましたの!」

「ああ、メアリー嬢は、相変わらずお菓子作りが上手だね。先日のマフィンも、美味しく頂いたよ」

「はんっ、ウィンクされちゃった…………」

「シャロン様!私も……!」

「私も、私も聞いてくださいまし!」


 であるシャロン・クリストルは、今日も数多の女性に囲まれて、モテにモテていた。今、この王立学園で令嬢に一番人気があるのは、他でもないシャロンだ。

 

 正直、ここまでモテるつもりはなかった。しかし、男装は前世からの趣味なので、ちょっと本気を出しすぎてしまったのだ。

 

 シャロンはサラサラの金髪を高い位置できっちりと結い、美しい青い瞳を伏せて、きゃーきゃーする女性陣に応えていた。そのスラリとした身体は、この学園の男子生徒の制服をびしっと着こなしている。濃紺のブレザーには銀糸の刺繍が入っていて、貴族らしい肩飾りもついており、とても凛々しい。ネクタイは、アクセントとなるワインレッド色だ。シャロンはれっきとした女性だが、身長が170センチあって手足が長く、抜群にスタイルが良い。だから、男子の制服があまりにも似合いすぎていた。


 しかし――――女性にしては背の高いシャロンよりも、さらに一回り大きい男が、向こう側にすっと現れた。

 今日も滅茶苦茶に爽やかな笑顔でこちらに近づいてくるのは、他でもない――――この国の王太子であらせられる、リオン・アシュフォードだ。


「シャロン!探したよ!」


 リオンは人好きのする柔らかな笑顔を浮かべ、黒髪を揺らして、真っ直ぐこちらへとやって来た。その翡翠の瞳は、太陽の光の下で溌剌と輝いている。


「あらっ!リオン殿下がいらっしゃったわ!」

「今日も二人のが見られるなんて、眼福だわ〜!!」


 女性陣は、まるでモーゼの海割りのように綺麗に割れていった。一部、ちょっと妙な性癖に目覚めている女性がいるのは気のせいだろうか。


「シャロン、今日はこの花を贈る」

「ヒマワリですね。花言葉は……」

「『私はあなただけを見つめる』…………俺は、いつでも君だけを見つめているから」


 リオンは綺麗にラッピングされたヒマワリを一輪渡した後、男装したシャロンの手を恭しく取り、ゆっくりと口付けた。キャアっと女性陣から歓喜の悲鳴が上がる。


「今日も、愛してる。どうか、俺と結婚して欲しい!」

「………………」


 繰り返し言うが、ここまでモテるつもりはなかった。

 男装したら、王太子に求愛されるようになるなんて……一体誰が予想できようか。

 

「殿下、大変申し訳ありませんが、王太子妃にはなれません…………」

「ははっ!今日も振られてしまったか。でも、俺は諦めない!」

「……………………」


 ばっさりと振られた王太子リオンは、からりと笑って流して見せた。何度振られてもめげないその様子に、シャロンはそっと溜息を吐く。

 

 シャロンはただ単に、ボンクラ婚約者と婚約破棄をしたかっただけなのだ。

 ここまでモテるつもりはなかった。

 別に、王太子妃なんて目指していなかったのに。


 

 ――――どうして、こうなったんだっけ……。


 

 シャロンは遠い目をして、この世界で男装するきっかけとなった出来事を思い出していた。

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