第六話 夜が爆ぜる
月並さんの登場と鉈の破壊によって、戦況は一気にこちらに傾き始めた。
――真空体――
月並さんの白夜刀が男の首元へと伸びる。男は咄嗟に目の前の土を隆起させて盾を作るが、敵は一人だけではない。すかさず夏音さんが土を踏み台に高く飛び上がり、男を上空から突き刺そうとする。
夏音さんの刃は頭にこそ当たらなかったが、壁を壊す時に負傷していた肩辺りを再び刺したため、奴の右手は殆ど機能しなくなっただろう。
「ふうウゥッぅぅぅ……」
「どうした、もっと僕を楽しませてくれよ」
「ぶるあ゙あ゙あ゙ああぁぁぁ!!」
男は最終手段とばかりに、折れてリーチが短くなった鉈を左手で振り回し、月並さんの方へ向かって思い切り投擲した。
「月さん!」
「判断力が鈍っている。お前の唯一の武器を手放すとはね。頭の回らない奴だ」
月並さんの元へ超高速で飛んできた鉈だったが、月並さんは冷静にそれを斬り飛ばし、男は丸腰になった。月並さんが追い討ちをかけて言う。
「ここで降伏すればお前は殺さない。ただし永久に地下で監獄生活だ。さて、どうする?」
「……」
男の動きがぴたりと止まった。俺はこの隙に攻めてしまえばいいと思ったが、先輩たちは返答を待っているのだと判り近づくのをやめた。
「俺ノ名は逆鉈、いずレこの組織の頂点に君臨スる男」
「それは、宣戦布告ということで良いのか。」
「俺ハ…まだ死んじゃイない」
――終末岩――
震える声でそう言い放つと、俺たちと逆鉈を隔てるように巨大な岩が大量にそびえ立ち、逆鉈の姿が見えなくなった。一拍置いて月並さんが叫ぶ。
「逃げる気だ!全力で捕えろ!」
ここにきて、逃亡だと?だが、この地下帝国はあまりに逆鉈が逃げるのに都合が良い。地形や地理的な情報について、奴は俺たちよりも遥かに詳しいだろう。更に言うと、逆鉈が繰り出してきた技は全てこの地形を動かすものだった。
早く追わないと、出口の封鎖や進路の妨害など奴には容易いことだろう。
「皆、少し離れてくれ。この岩を切り崩す」
――桜散――
月並さんが反動をつけて高く飛び上がったと思うと、岩の近くスレスレまで近づいて思い切り岩を斬った。
「進むぞ。足元が悪いから気をつけろ」
斬った岩の先は長い道になっており、突き当たりで右と左に分かれているが、既に逆鉈の姿は見えない。
――六乗――
夏音さんが移動技を駆使して先頭に出る。俺は足がかなり限界に近かったが、そんなことを言っている暇はない。
一番先に突き当たりに辿り着いた夏音さんが言う。
「左!」
月並さんがそれに続き、俺がなんとか二人に置いていかれないように走っていく。一体何十分走っただろうか、突然夏音さんの足が止まった。
「駄目、もうどっちに行ったか分からない…」
「これ以上追いかけても無駄か……?畜生、ここまで追い詰めたと言うのに…」
俺ももちろん悔しかったが、戦闘に大きく貢献した二人の先輩のことを考えると、やりきれない思いで胸がいっぱいになった。
「あの場所でトドメを刺すのが正解だったか…?」
「月さんだけの責任じゃないよ。」
ある程度呼吸が整うと、月並さんが無理やり気持ちを切り替えたような声で言った。
「上がろう。地雷を仕掛ける」
*
苦悶の表情を浮かべながら走っていた逆鉈だが、雨竜たちが追っていないことに気づくと走るのをやめ、一時的に出血部の止血に入った。
それが終わると再び動き出し、なんの特徴もない壁の前で手をかざす。すると軋むような音を立てて階段が出現し、逆鉈がそれをゆっくりと登り始める。
長い階段を登り終えて地上に出た時、逆鉈の前に刀を持った少女が現れた。
「……誰だ…」
少女が悟ったように悪戯っぽく笑む。
「暗殺組織MAILIS第一期メンバー、火奏。」
――爆炎刀――
火奏の刀に火が纏い始める。彼女はその異常な熱耐性を武器に、火を用いて戦う戦法を得意とする。
逆鉈は既に武器を失っているが、フィジカル面では火奏を圧倒しているため、そのまま殴り掛かろうとした。が、距離を詰める前に火奏の愛刀が赤く燃え光る。
ヒュゴーッと風を切る音を立てて、火奏の斬撃が逆鉈を襲うが、彼は攻撃を直には喰らわなかった。しかし、刃先から飛び出す炎の刃がダイレクトに胸元を焼き、バチバチと燃え盛っている。
「君、クリム暴力団の一味でしょ。その散漫な動き、私の仲間たちに相当体力を削られたんじゃない。」
「こんなとコろで…死んでたまるかぁぁぁぁ!!」
再び火奏の方へと飛びかかるが、彼の動きに先程のようなキレはもはや残っていない。いとも簡単に火奏に動きを止められ、脇腹の辺りを深く刺されて倒れ込んだ。
「もう、助からないよ。君ももっとまともな人生があっただろうに…」
逆鉈は何も言わずにただ地面を見つめている。しばしの静寂の後に、近くから爆発音がして、夏音、月並、雨竜が上がってくる。
すっかり意気消沈している彼らの前に現れた、倒れ込んでいる
「奏さん」
月並と火奏が強くハイタッチを交わす。
「遅いよ…」
「ごめんね」
月並の顔に活気が戻る。やはりこの作戦の代表者ということで、気を張り詰めていたところはあるようだ。
火奏が喋り始める
「みんなお疲れ。それと、あたしが居ない間迷惑かけてごめんなさい。じゃ、ひと段落したら帰ろう」
日が昇り始める。
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