ギャンブル依存症

 依存症の問題は難しい。

 ギャンブル以外にも、アルコール、ホスト、セックス、薬物などなど。上げればキリが無い。


 その中であえてタイトルを「ギャンブル依存症」としたのは、首都圏広域強盗事件や、その他最近の強盗事件で、犯人の供述に「ギャンブルで多額の借金をしていた」という言葉が散見されるからだ。

 もちろん全員がギャンブル依存症では無いのだが、「薬物を買う為のお金が無くて強盗した」「ホストに貢ぐためのお金が欲しくて強盗した」なんてものは余り聞かない。


 薬物はそれなりに高額だが、何百万も借金を抱えるような金額には中々ならないだろう。

 ホストに大金を貢ぐ女性は、先立つものが無ければ夜職に務める事が多い印象だ。


 ギャンブルはどうかと言うと、普通の会社員でも数百万の借金を抱えていることも珍しくない。ギャンブル依存症での借金の平均金額は、2020年の時点で約400万円とのこと。

 なおかつ、意外かもしれないが、日本は人口に対してギャンブル依存症の割合がなんと世界一位。


 日本人のギャンブル依存症の割合は、過去1年間に限ると成人の0.8%、生涯のうちでかかる人は3.6%と、アメリカやイギリスが0.4〜0.5%なのを考えると明らかに高い。

(研究機関によっては、日本人ギャンブル依存症患者の成人の割合を4.8%、男性8.7%、女性1.6%と割り出している所もある)

 

 日本は世界一のギャンブル依存大国であり、ギャンブル依存症は極めて良くある心の病だ。


 私の愚弟もパチンコにどハマりして債務整理したクチである。もしかしたら、ギャンブル依存だったのかも知れない。

 一時パチンコ店でも働いていた。

 ちなみに今は全くやっていない。


 パチンコを辞められた理由は借金で首が回らなくなったからと、私の妹(愚弟にとっては恐い姉)の、夫(彼も迫力がある)にキツめに詰められた為。

 後は愚弟曰く、「制度が色々変わって今のパチって前より全然稼げんから、単につまらん」らしい。(稼げたらやるのか……?)


 そもそも、「趣味が競馬やパチンコ」の人と、「ギャンブル依存症」の人は何が違うのだろうか。

 何が難しいって、まず「依存性」なのか「趣味の範囲」なのか、線引するのが難しい。


 ギャンブル依存症とはなんなのか。

 Wikipediaから抜粋して引用させていただく。


 ――――――


 ギャンブル依存症(ギャンブルいそんしょう、英: gambling addiction)は行為・過程アディクション(嗜癖障害)の一種で、ギャンブルの行為や過程に心を奪われ、「やめたくても、やめられない」状態になること。

 ギャンブルによって精神疾患である。


 ギャンブルを断てば解決するとは必ずしも言えない自然治癒が難しい病気であり、「ギャンブル障害」とも呼ばれる。

 勝ち負けや各ギャンブルの演出効果によって脳内で分泌されたドーパミンが報酬系に作用し、快感を覚えることで依存傾向が高まることで依存症が引き起こされる。2017年の厚生労働省の発表では国内だけでも280万人の患者がいるとされる。


 ――――――


 要するに、脳と密接に関わる病気であり、根性論での治癒は難しいらしい。


 愚弟については、曰く「負けた分を勝って取り戻そうとしてしまう状態」だったと言う。

 そしてこうも言う。

「やってる時は凄く楽しかった」

 仲の良い友達と連れ立ってわあわあ言いながらスリルに身を任せ、勝ったら皆で盛り上がり、負けたら皆で落ち込んで、時にはイベントに遠征なんかもして、楽しくて仕方なかった。そう語る。

 お小遣いの範囲で出来れば良かったのだが、変にノリの良い所が災いして多額の借金を作った訳だ。

 そして更に言う。

「やってる時は、勝った時の事しか覚えてない」


 これで良く止められたなあと思う。

 まあでも、債務整理の後も金欠に喘ぎ、結果犯罪に巻き込まれに行くという愚弟っぷりである。

 ギャンブルは止められても、根本的に「お金」と向き合えていなかったと感じる。


 話が少し逸れてしまった。


 ギャンブル依存症の診断基準を見てみよう。

 大分専門的な文章だったので、ある程度読みやすく抜粋している。


 ――――――


 臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動で、その人が過去12か月間(原文は「in a 12-month period」なので、「ある12か月間」であることに注意)に以下のうち4つ(またはそれ以上)を示している。


(※直近12ヶ月では無く、ちょっとタイムラグがあっても、過去12ヶ月で以下の項目のうち4つ以上に当てはまれば「ギャンブル依存症」と診断しましょう、という感じかな?)


 1 興奮を得たいがために、掛け金の額を増やして賭博をする欲求


 2 賭博をするのを中断したり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだつ


 3 賭博をするのを制限する、減らす、または中止するなどの努力を繰り返し成功しなかったことがある


 4 しばしば賭博に心を奪われている(例:次の賭けの計画を立てること、賭博をするための金銭を得る方法を考えること、を絶えず考えている)


 5 苦痛の気分(例:無気力、罪悪感、不安、抑うつ)のときに、賭博をすることが多い


 6 賭博で金をすった後、別の日にそれを取り戻しに帰ってくることが多い(失った金を“深追いする”)


 7 賭博へののめり込みを隠すために、嘘をつく


 8 賭博のために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある


 9 賭博によって引き起こされた絶望的な経済状況を免れるために、他人に金を出してくれるよう頼む


 ――――――


(愚弟、大体当てはまってるな……)


 ギャンブル依存症は「病気」だ。


 ギャンブル依存症の人は、どんなに負けてもそれを取り戻そうとギャンブルを続ける。種銭が無いとなると、知人や消費者金融に頼り借金を増やし、それも出来なくなると犯罪に走るというケースはかなりあるらしい。

 ドーパミンに脳が犯され、短絡的な欲求を抑えられなくなるのだ。


 家族からお金を盗む、家族に嘘をついてお金を騙し取る、会社のお金を横領する、万引きをして換金する。などなど。


「直ぐにバレるような嘘をつく」のも特徴として出る事が多い。

 少し前、メジャーリーガーの貯蓄を億単位で使い込んだ通訳の方が捕まったが、彼も発覚直後、とにかく「直ぐにバレる嘘」を多用していたと報道されている。本人もギャンブル依存症の自覚はあるとの事。


 人を傷つける様な凶悪犯罪に手を染めるケースも多い。

 記憶に新しいのは、中学校教論がFXや競馬で多額の負債を抱え、民家に窃盗目的で侵入し、帰宅した住民を殺害した事件。家族に対しては子煩悩で良き父親であり、生徒にも評判の良い先生だったらしい。


 ギャンブル依存症だから罪を犯しても仕方ない、という事は全く無い。

 罪は向き合い償い続けるべきであり、ギャンブル依存症とも向き合わなければならない。


 ギャンブル依存症は病気だ。

 自分で止められず、家族や友人が介入してもどうにもならないなら、医療に頼るべきだと思う。

 ドーパミンに犯された状態で、自ら快感を捨てる事は困難を極めるだろう。

「どんなに負けても、たまに当たるのが楽しくて止められない」

 ギャンブルは楽しいのだ。ドーパミンが吹き出す瞬間を「脳汁が溢れる」とも表現する。脳内麻薬に溺れる快感であり、快楽なのだ。

 怒鳴られて止められるのなら、皆とっくに止めている。


 ギャンブル依存症の患者は、家族が医療に繋げようとする時、数百万の借金があっても、自分が依存症である事を頑なに認めない人が多いそうだ。

 無理やり心療内科に連れてこられた人は、まるで誘拐されてきたような顔をしている事も多いらしい。

 自ら「依存症」と疑って病院に足を運ぶのは、とても怖くて勇気がいる事なのだ。


「ギャンブルにハマるなんて」と馬鹿にしてはいけない。

 いつ自分や、自分の家族に起きてもおかしくない病気なのだ。

 ある統計では、日本における「家族にギャンブル依存症が居る人の割合」は14%とされている。1割を超える人が家族のギャンブルに悩んでいるのが日本なのだ。


 ギャンブル依存症というと、何となく荒んだ生活をしている人の様なイメージを受けるかもしれない。

 実際は普通の会社員、主婦、医者、弁護士、時には高校生まで居るとのこと。お金があるから賭けられる。

 賭ける為に仕事を掛け持ちして馬車馬のように働いている、なんて話もある。


 高校生については、親のカードを盗んでスマホゲームに多額の……それこそ100万とかの課金をしたり、悪い大人からアカウントを譲渡されて、スポーツベッティングに親の貯蓄を何百万も投じたり。若いからこそ吹き上がり、負けを取り戻すためにどんどん課金するらしい。

 中々闇深い。


 気がついていないだけで、ギャンブル依存症の人は結構周囲に居るのかもしれない。


 ギャンブル依存症の治療はどういうものなんだろう。調べてみると、どうやら特効薬がある訳では無いらしい。

 勿論鬱病などを併発していたら薬は出ると思うが、とにかく「自助会」というものに繋げる、というのがセオリーの様だ。


 私事だが、ここのところ精神のバランスを崩して心療内科にかかっている。

 そうすると、壁に大きなコルクボードがあって、所狭しとリーフレットやポスターが貼ってある。


 貼ってあるのは沢山の「自助会」の案内だ。ギャンブル依存症やアルコール依存症等。「依存性患者の家族が集う自助会」もある。


 自助会は、同じ病に苦しむ人が集まり、同じ悩みを持つ人と交流し、苦痛や心情の辛さを吐露して、気持ちの整理をしたり、孤独感を和らげるのを目的とした場所だ。

 他人を通して自らと向き合い、依存症や、依存症の家族とどう付き合っていくか、考える事こそが治療になる。という事らしい。

 それでも治らない人も居るが、多くの人が時間をかけて、穏やかな生活を取り戻せている。


 ギャンブルは節度を守っていれば「趣味」の範囲のものだ。

 パチンコだろうがFXだろうが競輪だろうがスマホゲームで石を溶かそうが(これはギャンブルでは無いか……まあでも近いものだろう)、生活を守れる範囲で、無謀な課金をしなければ普通の「趣味」なのだ。

 ギャンブル依存症で窃盗まで犯し逮捕された人が、自助会に参加し、「今は週に一度三千円までで、パチンコを楽しんでいる」というインタビューもあった。止められてはいないが、趣味として上手くギャンブルと付き合える様になったという事だろう。


 旅行にお金を使う人も居るし、推し活にお金を使う人も居る。いずれも借金してまでやっていたら色々問題だが、日常生活を節制して情熱を注ぐ分には個人の自由だろう。

(知り合いに推し活で数百万のリボ払い抱えてた人が居たんだけど元気かなあ……そこまで行くと病的なものを感じる)

 多少ギャンブルで火傷しても、他人様に迷惑をかけていなければ「趣味の範囲」だ。


 取り返しのつかない犯罪を犯してしまう前に、何とか「依存症」から脱却したい。

 自分でも家族でも、「ちょっとおかしいな」と思ったら気軽に病院に相談しよう。

 初診の予約が中々取れない事もある。なるべく早い方が良い。心療内科は怖い所では無い。


 さて。

 首都圏広域強盗事件の少し前の事件、所謂ルフィ強盗事件の実行犯一人の判決が先日出た。

 事件の内容は凄惨を極めるので書かないが、強盗致死、強盗致傷(一生重い障害が残る重症)で、「無期懲役」の判決となった。

 犯人は酷いギャンブル依存症で、借金の返済に困った結果闇バイトに応募し、攻撃的な性格も相まって、かなり主体的に犯行を重ねたとの事。


 愚弟もそうだが、「ギャンブル依存」と「闇バイト」の親和性はかなり高いと感じる。

むしろ闇バイト自体がギャンブルの様なものですらある。


「ギャンブル依存症で、数百万の借金の返済に追われている。手っ取り早く大金が欲しい。返済して、ちょっと余ったらまた賭けて増やせばいい」



 家族で、あるいは近くの人で、いつも「パチンコで勝った、負けた」と言っている人は居ませんか?


 あなたのお子さんは、スマホゲームに熱中し過ぎていませんか? どのくらい課金しているか、把握されていますか?


 あるいは、あなたは家族のお金を使ったり、時には借金をしてまで、ギャンブルにのめり込んではいませんか?

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